表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

13.話し合いにならないんだが

 園部は真白たちと同じように、普通の格好をしていない。

 制服の上に皮の鎧の胴と、銀色に輝く垂を身に纏っていた。だがそれよりも警戒すべきは腰に差している武器だ。

 見た目は何かの刃物類だが、ロングソードとは違う。そこまで長くないのだが、ナイフやダガーよりは大きい。

 何かはわからないが、真白はそこだけに大きな圧を感じていた。


 園部は真白を見るなり、ケラケラと笑い始めた。


「光坂、何だその恰好。お前ガチャ運なかったんだな」


 園部を見てすぐにエレノアを下がらせたが、おそらく彼はエレノアを見ているはずだ。それでも装備を見て笑う余裕があるということは、自分の方が上だと判断したのだろう。


「お前一人か?」


 真白が訊くと、園部は明らかに不愉快そうな表情に変わった。


「あ゛あ゛!? もっと他に言うことがあるんじゃねぇか?」


 そう言われてもわからなかったので、真白は首を傾げる。まさか装備を見て驚けとでも言うのだろうか。


「ちっ、まぁいい。人数が多くなると、面倒だからな。他の奴らは置いてきたぜ。茜ちゃんたちも一緒にな」


 真白は一気に警戒心を上げた。

 まさか園部達が途中で茜たちと遭遇するとは誤算だった。いや、おそらくトロールを倒した時に気付かれたのだろう。園部達も真っ直ぐあずきたちのいる教室に向かったに違いない。

 しかし茜たちと一緒になったのにも関わらず、茜たちが屋上へ行くのを阻止し、自分だけがここへ来たということは、何かしらの要求をしてくると思った方が良かった。きっとろくでもない要求を。


 真白は試しにエレノアに念じてみた。影の中を移動し、茜たちの方へ行けないか、と。

 するとエレノアが真白の影から移動していくのを感じる。どうやら直接命令しなくても、真白の感情を読むことができるらしい。

 真白は最後に「茜の傍に隠れて、何かあったら守れ」と命令すると、完全にエレノアの気配が近くから消えた。これで少なくとも茜だけは守れるはずだ。


「俺に何か用があるのか?」


 真白は今すぐ殺したい衝動を抑え、なるべく平和的に話を進めようとしていた。

 茜たちが宮島と一緒にいる。人質に取られている、とまではいかないが、なるべく危険に晒すわけにはいかない。


「そうだな、まずは土下座しろ。お前は俺に謝んなきゃいけないことがあるだろ?」


 おそらく一度病院送りにした時のことを言っているのだろう。

 無論、被害者は真白の方だ。確かに全員病院送りにしたが、仕掛けてきたのは園部達であったし、真白とて怪我を負っている。


「断る。お前に謝ることなんて何もない」


 真白は平和的に解決することを諦めた。

 園部達の戦力はわからないが、こんな奴らに屈するぐらいなら徹底抗戦を選ぶ。


「あ゛あ゛!? お前、自分の状況が分かってんのか!?」


「茜たちを人質に取ったつもりか? 桃華だって戦えるぞ」


 桃華については半分ブラフもある。使えるのは攻撃魔法だけだし、宮島とどれくらい渡り合えるのかわからなかった。

 しかしいざとなれば、桃華は手段を択ばないだろう。桃華が決して弱くない人間だということは、今日一日で十分知った。


 だが園部は、そんなことは考えていなかったようだ。


「はっ! お前如きに人質が必要かよ。お前の武器はせいぜいがさっきのデカい熊くらいのもんだろ? 見てわかんないのか? お前と俺の戦力の差がよ」


 つまり茜たちは人質として確保しているわけではなく、純粋にトロールを出現させないために引き離しているだけのようだ。


 真白はひとまず安堵した。

 これで心置きなく、園部と戦うことが出来るのだから。


 しかし戦う前に、目的だけは聞いておきたかった。それで何が変わるというわけでもないのだが。


「一応聞いておくが、俺が謝ったところで何になる?」


 もちろん真白に謝るつもりはない。

 だが園部は真白が謝る気になったと勘違いしたようだ。少し怒りが和らいだようで、楽しそうに説明し始めた。


「ああ、お前が謝れば、お前を俺の下僕にしてやってもいいぜ。茜ちゃんは俺の女にして、俺が面倒見てやるよ」


「もう一つ聞いておくが、断ると言ったら?」


 再び園部の機嫌が悪くなる。

 自分の運動神経や容姿など、持っているものだけでこれまで人生を謳歌してきたのだろう。実に単純な男である。その点は陽炎に似ているが、真白には陽炎の方が数十倍マシに見えた。


「お前マジで言ってんのか? 俺には盾もあるし、ミスリルの防具もある。それに俺の持っている武器はSRだ。お前みたいな運無し野郎が勝てるわけないだろ? それでも断るって言うんならな、この場でぶっ殺してやるよ」


「そうか」


 真白は感情を抑えるのをやめた。

 最初からこの男とは会話にならなかったのだ。

 どういった思考回路を持っていたら、そんな要求ができるのかわからない。理解したいとも思わなかった。


 だが馬鹿なおかげで情報はだいたい把握できた。

 園部は戦士だ。

 そして持っているレアアイテムは、ミスリルの鎧と腰にぶら下がっている武器だけだろう。

 さらに園部は、真白がSRを一つも引いていないと勘違いしているようである。

 それだけわかれば勝てる。いや、地力だけでも十分かもしれない。


 しかし真白は油断など一つもするつもりはなかった。


「ホーリーライト!」


「なっ!?」


 真白は先制攻撃を仕掛けた。

 ホーリーライトが人間相手にどれだけ効果を発揮するかわからないが、少しでも光に目を向けてくれればいい。その隙に距離を詰めればいいのだから。


 予想に反してホーリーライトは、パーティーメンバーでなければ効果を発揮するらしい。もしくは真白が園部を敵と判断したからかもしれないが。

 園部は眩しさで目を押さえていた。


 真白は地面を蹴って一気に距離を詰める。

 そして全力で頬を殴った。


「そこかぁ!」


 しかしなぜか園部は真白の拳が効いていなかったらしく、腰に下げられていた獲物を抜き放ち、真白に一太刀浴びせた。

 明らかな手ごたえがあり、完全に決まったと思っていた真白は、避け切れず、左腕にその一撃を受けてしまう。


 急いで距離を取って園部を見た。

 ホーリーライトは、人間相手にはそれほど効果が高くないのだろう。園部はすでに目を開けている。

 そして驚いたことに、園部は口から血を流し、下顎が横にずれていた。どう見ても骨が砕けており、普通なら一撃ノックダウンの重傷だ。それにもかかわらず、本人はピンピンとしていた。


「なるほどな、痛覚遮断のスキルでも持っていたか。油断した」


「何言ってやがる? まぁいい。もうお前は殺す。謝ったって遅ぇ」


 どうやら見当が外れたようだった。

 だが原因はわからないが、どう見ても痛みを感じているようには見えない。園部が無痛症でないことは、一年以上前に確認済みだ。きっと本人でも気付かないところに、何か絡繰りがあるのだろう。怪しいのは園部の言っていたSRの武器だが。


 真白が一太刀受けてしまったのがその武器だろう。

 受けた傷は深くないがざっくりと斬られており、血が流れている。他に異常はないが、真白の『耐久力』を貫くほどの攻撃力があることには違いない。

 園部は今その武器を手に持っている。

 それは大振りの鉈のようだった。幅の広い刃は黒く、何の金属でできているのかわからない。


「ヒール」


 真白の傷が一瞬で治った。

 園部はその様子を驚愕の表情で見ていた。


「何だ? 俺が戦士か格闘家とでも思っていたか? 俺は見ての通り白魔法使いだぞ」


「だったら、なおさら負けるわけにはいかねぇ」


 今度は園部が突っ込んできた。

 鉈を振りかぶり、迫ってくる。

 しかしその動きは、真白から見れば随分のんびりしているように見えた。

 確かにあの鉈は凄まじい。その威力以外にも、何か他の効果があるのだろう。

 だが使っている主がその性能に見合った力を持っていないのだ。


 真白に肉薄した園部が、真白に上段から鉈を振るう。

 真白はそれを、園部の左斜め前に向かって態勢を低くすることで軽々と避ける。そして避けざまに右の拳を園部の腹に叩き込んだ。

 園部は真白の拳を気にせず振り返って、再び横薙ぎに振るった。

 真白はすでにバックステップで距離を開けており、その一撃は空振りで終わる。


 再び真白が園部に近付いていく。

 右の拳を振り上げるが、それはフェイントだ。

 園部は引っ掛かり、鉈を振るう。

 そして出来た隙に真白の拳が園部の右腕に当たった。


 真白は拳を外したわけではないし、園部に防がれたわけでもなかった。

 そこ(・・)を狙ったのだ。

 真白の狙いはすぐに効果を現した。


 カランという乾いた音が屋上に響いた。

 園部が鉈を落としたのだ。

 真白に腕をへし折られ、持つことが出来なくなったのである。


「ぎゃぁああああああ!!」


 その途端に園部の絶叫が上がった。

 やはり鉈に痛覚を遮断する効果があったのだろう。手放してしまったことで、体中を痛めつけられた感覚が戻ったようだ。


 真白は自身の勝利を確信し、ポケットからスマホを取り出した。

 アプリを立ち上げてマップを見る。

 マップに映っているのは真上から学校を見た図だが、階を指定して見ることも出来た。

 どうやら桃華は一つ下の階にいるようだ。茜も一緒だろう。


 真白はスマホを持ったまま、反対の手で落ちた鉈を拾い上げた。


「か、返せぇ……それは……俺のだぁ……」


 倒れた園部が息も絶え絶えに真白を睨んできた。


 真白は鉈を持ったまま園部に近付いていく。園部がまだ無事な左腕を伸ばしてきた。

 しかし真白は伸ばしている腕を蹴って、園部を仰向けに転がした。さらに左腕を足で踏みつけ、身動きが取れないようにする。


「もうお前には必要ないだろ?」


 真白が鉈を振り上げた。

 園部の目が大きく見開かれる。


「や、やめ……」


 真白はその大きく見開かれた目と目の間に向けて、その鉈を振り下ろしたのだった。


 真白はそのまま鉈と、園部が腰につけていたホルダーを回収した。

 強力な威力は持っているが、ある意味呪われた装備だ。自分の痛みが感じられなくなると、際限なく動き続けることが出来る。それは前の持ち主である園部がそうしたように、死ぬまでだ。

 それでもまともな武器がない真白にとっては、この鉈は魅力的だった。あまり過信は出来ないが、ゴブリン狩りくらいには有用だろう。


 真白がスマホをしまおうとしたとき、何かを思い出したようにライアンが話し始めた。


「あ、そこのお兄さんが死んだのは、向こうの妖精が仲間に伝えてると思うよ」


「……」


 もっと早く言えよ、と思うのだが、言っても無駄だろう。


 真白はスマホをしまい、駆け足で茜たちの下へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ