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09.裏クエストを発見したんだが

 真白は砦の中の螺旋階段を上りながらスマホを取り出した。


「おい、ガチャする方法って何かないのか?」


「だいたい今回と一緒だよ。ミッションをこなして報酬でガチャする感じ」


 ということは、次のゲームまでガチャすることが出来ないということである。


 しかし真白は出来れば今すぐガチャを引き直したいぐらいだった。リセマラがあるなあらやり直したいと思うほどだ。

 一応「リセマラは?」と訊くが、「あるわけないでしょ」と冷たく返される。


 真白は自分のプレイしているゲームの内容を思い出した。

 確かにガチャでSSRなんて滅多にお目にかかれない。だが真白のアカウントにも、SSRの装備やモンスターなどのアイテムは確かに存在するのだ。

 一年近くプレイして、なんとかガチャで引いたものもあるにはある。だがそれ以外は違う方法で手に入れた。

 そう、例えばSSR確定ガチャだ。


 真白が試しに訊いてみると、「あるよ」という返事が返ってきた。ライアンの声が気のせいか一割増くらいで弾んでいる。


「いやぁ、さすが真白。そこに気付いてくれるとはね。僕たち妖精は訊かれたこと以外には、教えてあげたくても答えられないからさぁ。

 SSR確定ガチャはね、裏クエストをクリアするとゲットできるんだ」


 真白は後ろを振り返った。

 桃華と陽炎はまだ追いついていない。

 二人にも教えてあげるべきか悩んだが、とりあえず黙っていることにする。


「スマホにミッションっていうアイコンがあるでしょ」


 真白は早速起動してみた。

 立ち上げると、画面にクリアという文字がでかでかと表記されており、その後ろに『生き残れ』という文字が灰色に映っている。

 他には、右上に『クエスト』というタブがあったため、それをタップしてみた。

 そこもクリアと表記されており、後ろに『魔物を殲滅せよ』という文字があった。


「この画面でひたすら左にスワイプし続けて」


 真白は言われた通りにした。


 ひたすらとは言われたものの、七回目ですぐに画面が切り替わった。

 今度はクリアという表示がない。

 そこには『七日以内にゴブリンを3500匹狩れ』という表示があった。右下に『あと3445匹』と書かれている。

 七日で三千五百匹ということは、一日当たり五百匹も狩らなくてはいけないという計算になる。半日使えたとしても、一時間あたりに四十一、二匹は狩らなくてはいけない。普通に考えれば鬼畜ゲー、無理ゲーである。

 一応裏クエストはそれだけではないようで、上にスワイプしていくと他にもいくつかあった。

 だがそのほとんどが、難易度が異常に高いものだ。

 そして難易度以前の問題のものを一つ見つけてしまった。


『人間を350人殺せ』


 そして右下には『あと349人』の文字がある。

 やはりこれは、自称神が人間を使ったゲームで遊んでいるのだ。


 真白はこの世界での戦いを楽しみ始めてしまっていた。

 元々この世界に自分の居場所なんてないと思っていた。家にも学校にも自分の居場所はない、自分だけしか信用できない、と。

 妹は……、茜とて真白とずっと一緒にいられるわけではない。いつかは家を出ていくことだってあるだろうし、何より真白自身があの家にいたくなかった。

 だがこの世界はどうだ。

 この世界には戦場がある。現代の化学兵器を用いた戦場だったら生きていけなかったかもしれないが、この戦場でなら戦える。自分を必要としてくれるものがいる。

 この戦場こそが求めていた居場所なのかもしれなかった。


 しかしここには敵がいて、それをただ倒せばいいという単純なものではないかもしれない。

 これは自称神の作ったゲームなのだ。つまり作られたシステムに過ぎないのである。

 望む望まないに関係なく、すでにシステムに組み込まれてしまっている。そしてこのシステムには、殺し合いを推奨するプログラムまで存在するのだ。

 真白はすでに人を自らの意思で殺しているとはいえ、好き好んで人を殺したいわけではない。だが自分で望まなくとも、もしかしたらいつかは人殺しを強要されることだってあった。


 このことにせよ、ガチャなんていうシステムにせよ、


「糞ゲーだな」


 真白は初めに転移させられた部屋に着いた時、吐き捨てるようにそう言った。

 しかしそうは言いつつも、今後の活動方針を決めていた。ひたすら狩りまくるのだ。ゴブリンを。 


 真白が部屋に着くと、すぐに二人が追い付いてきた。


「ま、真白君、よかった。追いついた」


 真白は椅子に座り、スマホを弄りながら「ああ」とだけ答える。


「兄貴、本当に……うぐっ」


 陽炎が何かを言いかけてやめる。

 顔を上げて見ると、陽炎の口を桃華が塞いでいた。

 何やら桃華が険しい表情で陽炎を見ていたようなのだが、陽炎が口を塞がれたまま何度も頷くと、元の明るい笑顔に戻った。


「それよりもね、真白君ってガチャで他に何が当たったの? 仲間なんだし皆で情報は共有しておこうよ」


 確かに桃華の言うことも一理ある。それにちょうど自分の情報を伝えるのに良さそうな『ステータス』というアプリを見つけてしまったところだ。

 しかし本当に自分の情報を教えてしまっていいのだろうか。

 あの裏クエストを発見してしまった今、真白は桃華と陽炎がいつか敵に回る可能性を考えてしまっていた。


「だけど全員揃ったんだ。もう元の世界に返される頃合いなんじゃないのか?」


 真白が話を逸らそうとすると、すぐにライアンが口を挟んできた。


「大丈夫、まだ一時間十二分余裕があるよ。ファイナルウェーブ終了後に一時間ガチャタイムとミーティングタイムが設定されてたから」


 余計なことを、と真白は思うのだが、ライアンを責めても仕方あるまい。


 今の話で一つ思いついたのだが、ファイナルウェーブは逃げるという選択肢もあったのかもしれない。まったく戦わずに逃げて姿を隠してしまえば、安全にクリアできただろう。砦が壊される可能性があるためそういうわけにもいかなかったが、挑発しながら攻撃を避けて少しずつ距離を開ければあるいは可能だったかもしれない。

 しかしそれは済んだ話だし、殲滅できたからこそ、SR以上確定ガチャを引けたのだ。これからも出来れば殲滅という方向で進め、どうしても難しいときだけ逃げ回ればいい。


 次のゲームの作戦が一つ決まったのはいいが、今この場をどう切り抜けるかの方が重要だった。


「仲間同士といえど、無暗に情報を開示するのは拙いかもしれないな。切り札はある程度隠しておくべきだ」


 もっともらしい理由だ。

 事実、こう思っているのも嘘ではなかった。

 都合のいいことに、ライアンは何も言わない。いや、この状況をただ楽しんでいるだけもかもしれないが。


「さすが兄貴、深いっスね」

「そう、だね」


 なんとか二人とも納得してくれたようだ。


 しかしある程度の情報は教えておくべきだろう。その方が連携をとりやすくなるのも事実である。

 真白は二人に裏クエストについては触れず、『ステータス』についてだけ教えた。

 ちなみに真白のステータスにはこう記載されている。


名前:光坂真白

ランク:A

耐久力:A

持久力:D

瞬発力:C

MP:A


スキル:魔法のヴェール【全ての魔法攻撃をAランク三回分だけ防ぐ。Sランクも一度だけ防げる。破壊された場合、再起動まで三時間】


魔法:ヒール【傷を回復させる】

   ホーリーライト【敵の目を眩ませる】

召喚魔法バン・シー【個体名バン・シーを召喚する。夜行性】

   召喚魔法レディ・エレノア【個体名レディ・エレノアを召喚する】


 これをそっくりそのまま教えるわけにはいかない。

 だがガチャの一回目と十一回目の結果は、最初と最後だったからか、ライアンが丁寧に三人分説明してくれたので、三人ともそれぞれ内容を知っていた。

 しかしそれ以外は流れ作業のように進めていたので、二人が何を手に入れたか真白は知らなかった。きっと二人もそれぞれ何を持っているか知らないはずである。


 とりあえずは戦闘に必要そうな情報から伝えるべきだろう。


「俺は『耐久力』が高く、魔法耐性もある。耐久力がHPのことなら、しばらく敵の攻撃を受ける役は俺が引き受けよう」


 真白が言ってからスマホを見ると、すぐに真白の疑問が解消された。


「そうそう、『耐久力』はHPみたいなものだよ。ゲームで言うなら防御力も兼ねてるけどね」


 どうやら真白は肉壁(タンク)に最適な能力を得てしまったようだ。


 少し気になったので、陽炎に対し「殴ってください」と右手の平を出してみせた。


「さすがにこのグローブは危なすぎるんで外しますけどね、俺も強くなってんス。怪我しないでくださいよ」


「怪我しても、回復できるから」


「じゃあ、遠慮なく」


 陽炎が右手を振りかぶる。

 そして勢いをつけて目にも留まらぬほどの速度で突っ込んできた。

 実際のところ、真白には陽炎の動きが全く見えなかった。

 真白とて視力が衰えたとはいえ、まだまだ動体視力には自信があるのだ。初めこの部屋で陽炎と戦ったときには、彼の動きをちゃんと捉えていたのだから。

 しかし陽炎の言う通り、今の彼の速度はさっきよりもはるかに上回っていた。

 手で受けたとしても、受けた手は弾き飛ばされ、骨も粉々に砕かれる勢いである。


 だが実際には、真白は陽炎の拳を受け止め切っていた。初めに構えていた位置から少し押された程度だ。

 少々痛みはあるが、怪我は一切していなかったし、明らかに初めの方が強く感じたぐらいである。


 驚愕する陽炎と目が合った。

 陽炎は今にも泣きだしそうな勢いである。


「ま、この通りだ。今の俺はどうやらトロールなんて目じゃないほど硬いらしい」


「うんうん、そうそう、神様の力は偉大だろう?」


 真白が掴んだままの陽炎の拳をゆっくりと下げると、ライアンが話に割り込んできた。

 自称神様とやらをよいしょしており、真白にとっては不快なのだが、今は陽炎の意識を逸らせそうなので口出ししないでおくことにした。


「それと、召喚魔法が使えるらしい。まぁ、何に使えるのかは実際使ってみないとわからないけどな」


 落ち込んでいる陽炎はともかく、桃華は真白の言った『召喚魔法』に興味津々といった様子だった。


「何が召喚できるのかな? ねぇ、実際に召喚してみた方がいいんじゃない?」


 目を輝かせて顔を覗き込んでくる桃華に、真白の表情は憮然となる。

 しかし桃華の言う通り、実際に使ってみないとどんな効果があるのかわからない。

 そうなると、夜行性だという『バン・シー』は使えなさそうだ。とりあえずは『レディ・エレノア』を使うしかないだろう。

 そして実際のところ、真白も『レディ・エレノア』という召喚魔法が気にはなっていたのだ。

 名前からして女性だろう。というより、レディと言ってしまっている。もしかすれば、真白の言うことを何でも聞く女の子が現れる可能性だってある。


「コホン、では」


 真白は期待に胸を膨らませつつ、やり方があっているかはわからないが、右手を何もない空間に向けて突き出した。


「『レディ・エレノア』」


 真白が唱えた刹那に光が発生した。

 真白はしっかり眼鏡を掛け直してその様子を見る。


 すると、そこには巨大な毛むくらじゃの何かが現れた。

 一瞬でそれが女性でないとわかることだけはわかる。少なくとも人間の女性ではない。

 四足で佇むそれは、体高だけで真白の胸の当たりまであり、立ち上がれば真白の背の倍はありそうだ。体毛は漆黒で、丸い耳を生やしている。もふもふといえば確かにそうなのだが、もしそんなものに森や山(・・・)で遭遇すればそんな可愛らしさを感じるよりも、真白は死を覚悟するだろうし、陽炎でも勝つことは出来なさそうだ。

 それは巨大な熊だった。


 あっという間に三人の間に緊張が走った。

 桃華が後方に下がって援護する態勢に入り、陽炎が真白のすぐそばまで近づいてくる。

 しかし真白は二人を手で制して動きを止めた。

 熊の、いや『レディ・エレノア』の瞳が真っ直ぐ真白を捉えているのだ。


 エレノアが顔を真白にまっすぐ向けて近付いて来る。

 真白は本で熊の生態について読んだことがあった。

 熊が襲い掛かってくるときは、態勢を低くして走ってくることや、顔を下に向けて、下から睨みつけてくることがあるらしい。そして後ろ足で立ち上がり、前足をフックのように振って、その鋭い爪で頭かもしくは首を狙ってくるのだ。

 今のエレノアからそういった仕草は見られない。

 それになぜだか安全だという感覚が真白にはあった。


 エレノアの顔が真白のすぐ近くまで来た。

 桃華と陽炎は未だに緊張しているが、真白は二人に手を出すなと合図し、そのままエレノアの頭を撫でてみる。


 もふもふだった。

 そしてエレノアが喜んでいるのが伝わってくる。

 どうやら召喚獣が術者を襲うということはないようだ。


 桃華が「ふぅ」と胸を撫で下ろしたように吐息を吐くのが聞こえてくる。

 陽炎も警戒を解いたようで、そのまま調子に乗ってエレノアを撫でようとするのだが、エレノアはそれを避けた。

 そして、陽炎に向かって強烈なビンタをしたのだった。


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