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必殺技はいつの日か

作者: tani

ほおずき団地の今日のお話。

 カタカタカタカタ


 キーボードを叩く音が、ほおずき団地206号室に響く。両耳を塞ぐイヤフォンからはぼそぼそと話す教授の声が流れている。

 火曜日3限目、大学2年生の音は建築計画の授業を受けていた。いわゆるオンライン授業というやつである。ノートパソコンの狭い画面上には見知った顔の学生たちが並んでいる。たまに乱れる音声と止まる画面に少し苛立ちながら、猫背の姿勢でレポートを書いていた。


 大学構内への立ち入りが禁止されてから9か月。オンライン授業は音の日常の一部となり、一日外出しないでいることにもすっかり慣れてしまった。テレビをつければ、視聴者の不安を煽りたいとしか思えないニュースばかりの日々である。


  こんな授業で大丈夫なのかな


 不真面目に授業を受けている訳ではないが、将来に対する漠然とした不安がいつも脳の端っこにへばりついているような感覚があった。

音は建築家を目指しており、今は図面を描いたり模型を作ったりという課題を自室で行っている。1年生の時は学校で友達と、ああでもないこうでもないと言いながら設計課題に励んでいたが、一人での作業は思っていた以上に苦しい。部屋で一人で考え始めるとデザインの軸がぶれていく気がして、自分の強みもよくわからなかった。


  私は何が作れるんだろう


 教授が授業のまとめと課題の説明をして授業が終わった。イヤフォンを外して大きく伸びをする。4限目は休講。机の端に積んでいた、読みかけの専門書を手に取った。

 オンライン授業が日常になってから、いい方向に変わったことが一つあった。本を読む時間が増えたことである。学校まで通う時間が無くなり時間ができたため、今まで手を出すことをためらっていた建築の専門書や、文学部の友人に勧めてもらった小説を読んでみることにしたのだ。


  こんな状況でもないとこの本一生読まなかったかも


 公共空間についての内容で、住宅の設計がやりたくて建築学科に進んだ音にとっては、今まで授業以外で触れてこなかった分野である。


  知らないことだらけ…


 新しい知識が増えていく感覚は気持ちがいい。

 先の見えない不安は付き纏うが、今この瞬間得たものは決して無駄にはならないだろう。自分が何者になれるかわからないし、人に誇れる必殺技もない。たまに沈むことがあっても、それでも学び続けるしかないのだ。


  私は何を作りたいんだろう


 背筋を伸ばしてパソコンに向かう。もうすぐ5限目が始まる。



 私自身、現在大学生で音と同じく建築を学んでいます。

 オンライン授業が始まって学校に通えなくなり、将来に対する不安や、今の学びに対する不満を抱えている学生は多いのではないでしょうか。私も不安なことがたくさんあります。

 迷ったとき、自分の中で指針としている恩師の言葉があります。「人生一生、学びの連続ですよ」小学校の先生に言われたこの言葉が頭に浮かびます。

 コロナ禍で失ったものは多かったかもしれませんが、きっとこの状況下だったから得られたものもあったと思います。それらはこれからの社会にとって、絶対無駄にはならはないと信じています。



 ほおずき団地という名前の架空の団地を舞台に、そこに住む人々のさまざまな日常を描いています。一話完結の物語ではありますが、この話に出てきた人物が別の話にちょこっと登場することもあります。ぜひ、ほかの小説も読んでいただけると嬉しいです。

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