死んでください
「そうですか。なら、先輩。さっさと死んでください」
数百回と先輩を殺しはしたけれど、何も使わずに素手で先輩を殺すのは初めての試みだった。
見よう見まねで首を絞めているからか、先輩はなかなか死んでくれない。
苦しげな表情はいつしか、わたしの瞳に、とても魅力的なものとして映されていた。
「…………ぁ、ぐ」
「先輩?」
気管を潰しているはずなのに、先輩の口から声が漏れた。
とても小さく、掠れた声。
だのにその言葉は明瞭で、わたしの耳は、ハッキリとその声を聞き取った。
「ご……め、……ん」
「――ッ!!」
頭が真っ白になった。
わたしは無意識の内に先輩を突き飛ばし、先輩は地面に倒れ伏せてむせ返る。
その様が霞んで見えた。
意識が遠のきそうになった。
感情がぐちゃぐちゃになって、ごちゃ混ぜになって、どうにかなってしまいそうだった。
どうして……、
「どうして、先輩が謝るんですか!! 謝っちゃダメって、言ったじゃないですかっ!!」
「ごめ、ん。君の辛さに、気づいて、あげられなかった…………」
「……っ」
「ごめん……」
先輩は目を伏せて、何度も謝った。
その謝罪がわたしにとって、何よりの苦痛だとも知らずに。
欲しかったのは、謝罪の言葉じゃない。
それだけは言って欲しくなかった。
言われたくなかった。
「大好きです、先輩。とても、とても……!」
「が、ぁ……」
倒れたままだった先輩の上に、馬乗りになって再び首を絞める。
立ったままだと身長差があったから、この方がやりやすい。
全体重を乗せて、首を絞めることができた。
「殺したい程に愛しています。殺す程に愛が深まっていきます。先輩、愛しています。世界中の何よりも愛おしく思います! 先輩、先輩、先輩!! 好きです、大好きです!!」
変色しつつある先輩の顔に、水滴が垂れた。
それは雨じゃない。
わたしの双眸から流れ落ちた涙だった。
わたしの中から抜け落ちつつある、何か大切なものだった。