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五話:一日目の参。  作者: そぃ
1/1

サブタイって何?

 

 1


 アカリはとある一室にいた。

 机と椅子、ライトにベッドと必要以上に物の置かれていない部屋の中央には大きな鉄格子が置かれており、その中では一人の女が座り込んでいた。


「あら、貴女は・・・」


 女の視線はアカリに向けられている。


「ストレガ・・・」

「久しぶりね。貴女は、今、幾つになったのかしら?」

「知らない」

「別に良いじゃない、教えてくれても。最後かもしれないでしょ?」

「・・・十八」

「そう・・・変わらないのね」

「当たり前」

「私の娘は二十を越えたわ。まだ子供っぽいけど立派なレディーよ?」

「知ってる」

「でも、色の付いた話を聞かないのよね・・・好きな人居ないのかしら?」

「知らない」

「そう・・・あっ、居たわ、好きな人!」

「・・・」

「名前は知らないけど顔ははっきりと知ってる。そうそう、その子は元気?今日は一緒じゃないみたいだけど」

「あなたには関係ない」

「お話しを楽しみましょう?」

「・・・」

「教えて頂戴」

「・・・二人でいる」

「あらあら!それじゃあ、二人と会ったら、娘に頑張れって言っておいて」

「言わない」

「意地悪な子ね・・・所で、今二人は何処にいるのかしら?」

「牢屋から逃げて何処かにいる」

「あら、ちゃんと学習したのね!偉い偉い」

「ばかにしないで!」

「してないわ。下に見てるだけ」

「―――ッ!」

「まー、顔が怖いわ。どうしたの?」

「もういい」

「良くないわよ?」

「もういい!」

「貴女は今、遺言を聞いているの」

「悪魔のくせに」

「失礼ね」


 空気が変わった。

 アカリもそれに気付き、牢屋から逃げる際に取り返し、懐に隠し持っていたナイフを取り出して右手に構えた。

 お喋りは、ここで終わりみたいだ。


「―――私は魔女よ?」


 ストレガは一瞬で鉄格子の中から消え、アカリの背後に立つ。

 直ぐ様ナイフを逆手に持ち替えたアカリは声のした方へと刃先を突き出す。

 しかし、手応えは無くナイフは空を切るだけであった。


「やっぱり貴女では役不足」


 ベッドに腰掛けたストレガがアカリを挑発する。


「似合わないわよ、そのナイフ」


 返してあげたら?と続けるストレガに、力一杯床を踏み込んだアカリが刃を向ける。

 だが、やはりナイフはストレガには当たらなかった。


「お願い、死んでーーーッ!」


 アカリの口から出たのは心からの願いだった。


「そんな事を言わないで。私達は姉妹じゃない」

「違う!」

「違わないわ。貴女も、私も、あの子も、家族なのよ?」

「ちがうっ!!」

「まるで、遅れてきた反抗期ね」


 必死に否定するアカリの姿に笑いを堪えられず、ストレガはクスクスと声を漏らした。


「・・・なに?」

「いいえ、別に」


 ストレガはまだ笑っている。

 自分を嘲笑うストレガの姿に怒りを抑えられず、アカリは拳を強く握り血を滲ませた。

 興奮はしているが我を忘れるほどでは無い。


「遺言を言ったなら、もう消えて」


 アカリの言葉に、被せてくるようにストレガが返す。


「それ、嘘よ?」


 途端、黒い靄がアカリを覆っていく。

 足が、胴体が、腕が、指が、動かなくなっていくのが分かる。

 指の感覚が完全に無くなった時、ナイフが甲高い音で床を鳴らした。

 無駄な足掻きはしない。

 これに飲み込まれるのは初めてではないからだ。

 これは黒魔術。周囲のモノを転送させる力。

 だからこそ分かる。抵抗するだけ無駄なのだと言うことを。


「もう少しだけ世界を面白くさせてからじゃないと、死ねないわ」


 きっとストレガはその様な事を言いたかったのだろう。

 しかしそれを全部言う事は叶わなかった。

 何故か?

 それは凄くありがちだが、今まで経験した事の無い体験。


「痛ってー・・・」


 ストレガの上に、彼が、降ってきたのだ。


「大丈夫ですかー?」


 声のした方を見上げると、一部分に穴の空いた天井からレジスタが顔を覗かせていた。

 理解し難いこの現状に短く説明を付けるのであれば、それは。

 屋根裏を通っていた彼が丁度転送された天井の上にいたと、そうなる。

 アカリにとっては幸運以外のなにものでもない状況。

 どこか知らない場所に転送される所を助けられたのだから当たり前だ。

 しかし、だからと言ってアカリの表情が晴れる事は無い。

 むしろ怒りに染まっている。


「あっ、柔らかい・・・」


 原因は彼。

 息をするかの様にストレガのたわわに実ったおっぱいを揉みしだく彼に腹が立って仕方がない。


 絶対、わざと。


 その後、アカリの拳が少年の頭に突き刺さったのは言うまでもないだろう。



 2



 薄暗い世界。

 光は頭上にひとつのみ。

 机の上に横たわる人に、音が交ざり、そこから黒い靄が広がっていく。

 酷い景色。

 悪意の世界。

 闇から目を覚まし、ヒトに変わる老婆と少女。

 泣いているのだろう。微かに聞こえた涙の弾ける音が、自分を恐怖させる。

 いつまでも残り広がってゆく靄に、幾多も、涙を流す。

 次第に景色が消え、音が消え、靄が増え、また、薄暗い世界が訪れた。

 愛の無い世界で俺は思った。


 ーーーこれは、俺の世界じゃない。


 それが夢なのか現実なのか俺には分からない。

 夢ならば悪夢、現実ならば悪夢。

 どちらでも悪夢と呼べる映像が、頭の中を駆け抜けていった。

 叶うのであれば夢であってほしいと願う。


 実際の所、現実にいるはずの俺の手にはおっぱいがあるのだからどちらかと言えば夢である可能性が高いとーーーおっぱい?

 はて、おっぱいとは何ぞや?

 それは永遠に尽きる事の無い議題。

 この世に男がいる限り話題に上がり続ける事となる。

 答えの無い問い掛けに、男は夢中になってそれらしい事を言い続ける。

 それではここで、彼女のおっぱいに対し俺が言ったそれらしい答えを聞いて頂きたいと思う。


「男の理性を壊し胎児化させうる可能性を秘めたおっぱい」


 どうやらアカリとレジスタには賛同ーーーと言うか、理解はして貰えなかったみたいだ。


「おばさん趣味があるんですね」


 冷たい視線を飛ばすレジスタの言葉に、少し膨らんでいたモノが落ち着きを取り戻していった。

 俺に潰され気を失っているこの綺麗な人がおばさん?

 レジスタに何故分かるのかと聞き返すと「雰囲気で大体分かるんです」と答えが返ってきた。

 どうやら彼女は俺が思っていた以上に頭がハッピー状態であるみたいだ。

 しかし、もしレジスタの言う通り見た目の割りに年齢が上なのだとしたら、それはそれで有りなのではなかろうか?


「うそー・・・」


 独り言の様に呟く。

 それは、レジスタの返事に対してなのか、歳上もイケる口だった俺自信に対してなのかは定かでは無いが、とっさに口から出たその言葉はきっと俺の本心に違いない。

 もう一度じっくりと下敷きにしている女性に視線を落とす。

 やはり、とてもじゃないがおばさんには見えない。

 俺の母親なんて小皺が目立ってきてるのに、この人はレジスタと姉妹なんじゃないかってくらい若々しいぞ。


「あら、嬉しい」


 聞き覚えの無いエロい声が聞こえた。

 どこから聞こえてきたのかは分からないが、もしかして、俺は先程思っただけのつもりだったのを無意識に声に出してしまっていたのだろうか?

 だとしたら恥ずかしい以前に危険すぎる。

 もしそうなのだとしたら、俺がアカリに抱いているこの思いや劣情や口では言えない様な卑猥な想像が筒抜けになっていたかもしれないという事になってしまう。

 俺は急に不安になり周りを見渡すと、何かに気付いた様な表情を浮かべるレジスタと、鋭い眼光でこちらを睨み付けながらナイフを構えるアカリがいた。


 ふぅむ・・・アウトっぽい気がするぞ。


「ちょっと退いて貰えるかしら?」


 再び聞こえた声。

 残酷な現実に冷や汗が止まらない俺は、二度目にして漸く色っぽい声がどこから聞こえてきていたのかを理解した。


「なるほど、下か」


 その言葉を最後に、大都会にある巨大な城のとある一室から俺達は姿を消した。



 3



 むやみやたらと飾られた派手な椅子に座る彼女の前には、片膝を着き頭を下げる男がいた。


「魔女は見つかったのぉ?」


 甘ったるい声が王室に響き渡る。

 黄金の国トラディ王妃マリー、彼女の声は不愉快以外の何物でもない。


「直ぐに城下町も散策しましたが、未だ四人を見た者すら現れていません」


 それはこの城で騎士団長を勤めるウーノも例外では無かった。

 しかし彼はそういった感情を表に出す事無く、至って冷静に報告をした。


「使えない。本当に、使えないわぁ。王国最強もゴミ探しは猿以下ね」

「申し訳ありません、マリー王妃」

「アナタねえ・・・二人の時はもっと楽になさいと言ってるでしょお?」


 ニヤリと笑い、マリーは続けた。


「奥さんと話すみたいに、ねぇ?」


 ウーノからの返答はない。ただただ頭を下げたまま自分の方すら見ようとしないウーノに、常人よりも短気なマリーは苛立ちを隠せないでいた。


「腹立たしいわねぇ・・・早くこっちに来なさい、ウーノ」


 マリーの表情の変化に気付いたウーノは渋々といった様子で返事を返した。


「あぁーーー分かったよ、マリー」


 しかし、どんなに接近しようともウーノが彼女と目を合わせる事は無かった。



 4



 同時刻、シジーロはウーノの指示により脱獄者を探しに城下町へと下りてきていた。

 脱獄させてしまった張本人グレイブも隣にいる。


「いやー、大変な事になっちゃったっスね」


 相変わらず能天気なグレイブに苛立ちを隠せないシジーロは、怒る訳でもなく、手を出す訳でもなくただ無言のまま歯を食い縛っている。

 今はグレイブに当たるよりも先に脱獄者を探し出さなくてはならない。


「あいつらも、どうせもうこの街に居ないでしょうし飲み行きましょうよ先輩」

「・・・一人で行けよカスが」

「えっ?なんスか?」

「そんな気分じゃねーつってんだよ」

「そっスか」


 グレイブの言うことはもっともだ。

 脱獄した後にまだこの街をうろうろしている様な奴は馬鹿か間抜けのどちらかでしかない。

 だからと言って捜索を止める訳にはいかないのだ。

 グレイブと違い騎士団長の座を狙っているシジーロとしては少しでもやる気のある姿勢を見せておき、今回の不手際による自分への処分を軽くしておきたいところである。


「せめてウーノさんには・・・」


 現騎士団長ウーノ。

 その座を狙っているとは言えシジーロはウーノに対して恩義を感じているため、彼が在席中の今は狙う事はせずただウーノの評判を下げないように必死であった。


 辺りは夕焼け色に染まりつつある。

 かれこれ小一時間ほど探し回っているシジーロの後ろには既にグレイブの姿は無かった。

 少し前に酒場へと入って行ったのだが、シジーロは足音がひとつ減った事にすら気付かず、放浪者の如く城下町を徘徊し続けた。

 日が暮れてもなお意味の無い徘徊は続いた。

 次の日も、その次の日もシジーロは城内と城下町を歩き続け、頭の中が少し狂い始めた七日目にして漸くその行動に終わりを向かえた。

 それは何故か。

 理由は簡単な事であった。

 彼の探していた三人と、再び出会えたからである。

 トラディ城の一番上、だだっ広い王室で、自分の血で紅く染まり動かなくなったマリーと返り血で血まみれになっている三人とーーー。


 シジーロは再開を果たしたのであった。







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