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思いついちゃいました。




私の絶叫が聞こえたのでしょう。使用人たちとともに両親がバタバタと入ってきました。そんなことを無視して私は座り込みながら自分の顔をむにむにと触っています。私は、私は、一体何者?



「クロエは…どこかわるくなってしまったんでしょうか?」




私がわけのわからないことを大声で叫んでしまったため…ではなく、倒れてしまったため我が家の主治医が父によって呼ばれました。主治医のライアン先生は朗らかに笑いながら説明をしてくださりました。




「いえ、一時的なもので少し動揺してしまっただけでしょう。はじめてバンシーの声をきいたんです、無理もない。」




その言葉を聞いて安心したのかお母さまが椅子に座った私を後ろからぎゅっと抱きしめてくださいました。




「ごめんなさい、クロエ。貴女には早かったわ…。あなたのせいよッ、まだはやいっていってるのにつれて行ったりして!」


「悪かったと言っているだろう、クロエはジャンにとても懐いていたから、最期を見届けさせたかったんだ…」




両親の夫婦喧嘩が頭上ではじまりました。

私は一人、今の状況について考えます。これはもしかして転生というものでしょうか?アニメで見たことがある、ファンタジー世界への転移?転生?をしてしまったということでしょうか。しかも、悪役令嬢のクロエ・イザベル・ヴァランタンに。ヒヤリ、と冷や汗が落ちます。これは…



「ユリス王子と結婚できる……!?」



ハッとひらめいたように言うもんですから大人たちはびっくりしたようにこちらを伺ってきます。

思い付きで口走ってしまったことに私も思わず口を押さえて両親の様子を伺っていると急に父が笑い出しました。



「ははっ、クロエ。クロエにはまだ言っていなかったがユリス王子とクロエは婚約しているんだ。私と王は昔からの付き合いでね、クロエが生まれたとき決めたんだ。」



なんということでしょう、私がどうするまでもなくユリス様との結婚が決まっていました。とてもうれしくって笑顔が隠せません。そんな私をにこやかに見守る両親と先生。穏やかな空気の中、バァンッ、と扉があきました。



「----…クロエ!僕のクロエ!大丈夫かい!」



大きな音とともに入ってきたのは実のお兄様でした。お兄様ことルシアン・ジョン・ヴァランタン。ゲームの攻略キャラだ。フェミニストでありお色気担当。女の子にモテモテでにこやかだが愛に飢えていという設定です。しかしヒロインから愛されて彼は幸せになる…というのが彼のルートなのです。



「大丈夫ですわ。ルシアンお兄様。」



そういってふわりとほほ笑むと部屋の雰囲気が変わった。部屋の隅で存在感を消してた使用人たちでさえざわざわと声を漏らしている。



「ク、クロエ、クロエが返事をしてくれた…ッ!」



彼はそういって膝から崩れ落ちてしまいました。平然とした母があらあら、と兄に近寄って肩を貸してあげています。父に至ってはあんぐりと口を開けたまま、微動だにしません。それで、思い出しました。



私、クロエ・イザベル・ヴァランタンは未来の悪役令嬢ということもあってとても我儘でした。父と母とはまともに会話をするものの兄や使用人など自分より上と思っていない人に対してはとても冷たく当たっていたのです。嫌がらせはもちろん気に入らなければ独断でクビにしてしまうこともありました。転生に気づく前とはいえ自分がしてきたことに対する罪悪感がずっしりとのしかかりました。




「ライアン先生、わたくしは今、何歳ですの?」


「……クロエ様は最近10になったばかりですよ」




ライアン先生は少し驚いたように見えたがカルテのようなものに少しメモをするだけでにこやかに答えてくれた。年齢を聞いて私は安どした。なぜなら「あの子」がまだ屋敷に来ていない年齢だったからだ。クロエ・イザベル・ヴァランタンは12歳になったとき、学園に連れていくために年齢の近い使用人を与えられる。平民あがりのその使用人をクロエが許すはずもなく、ただただ苛め抜き、最後には殺してしまう。それで第二王子との仲は悪くなるのだ。




「クロエっ、クロエっ、大丈夫なのか、記憶がないのか、ああ、ぼくのクロエ、大丈夫かい」


「ルシアンお兄様、わたくし大丈夫ですわ。少し確認したかっただけですの。」




誰よりも先に心配そうな声を上げた兄ににこやかに笑いかけると彼はほっとしたようで笑顔を見せてくれました。





ーーーーーーーーーー






あのあと、お兄様はお母様に摘まみ上げられて部屋を退出し、お父様とライアン先生も部屋を後にしました。使用人たちも一緒に出てもらったので今はひとりです。

机の引き出しからノートを取り出すとペンをもってベッドに腰掛けました。

自分に起きていることを確認するために日本語ですらすらと書いていきます。





今はクロエ・イザベル・ヴァランタン、10歳。

ゲームの舞台であるコールリア魔法学園に入学するまで5年ある。

殺してしまう「あの子」がくるまで2年ある。

「あの子」の名前はゲーム内では描かれていない。

学園で一年間過ごした後、先輩方の卒業祝パーティでクロエは婚約破棄され、平民へ降格される。




ん…?



「婚約破棄…!?平民に…!?」




その原因はヒロイン、シャルロット・エデン・トルトゥリエによるものが大きい。ゲームの中でヒロインは絶対であるため、ヒロインがどんな選択肢を選ぼうがライバルの悪役令嬢であるクロエは婚約を破棄され、平民となってしまう。最悪の場合国外追放ということもあるのです。そのことを思い出すと血の気がサーッ、と引きました。




「平民になったら…どうしよう…」




平民にならない方法よりも平民になった後を考えるほど、ゲームの中のクロエはひどい目に合うのです。それを考えると、どうしても、どうしても平民としてでも生きていける方法を考えてしまいます。そして、ハッと思いつきました。前世の記憶をフルに生かしてできる仕事を。






「メイドカフェよ!!ううん、執事カフェも!そう!これよ!!」







ノートをぱんっと閉じ、その場でぴょんぴょんはねながらそんなことを言っているとまたも大声に驚いた両親とルシアンお兄様が来てしまいた。


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