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ReGameGame  作者: お茶漬け
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再構築と始まり

ゲームを作ることが私の夢だった。受験勉強で鬱屈した高校時代、俺はゲームクリエイターにあこがれていた。必ず大学に入ったらゲームをつくるのだと意気込んでいた。大学に入学したとき、まず初めにプログラミングの本を手に取った。本にかじりつき、プログラミングの文法を学んだ。


ゲームを作るためにはプログラミングの文法だけでは不十分である。ゲームを作るためのコンピュータ環境を構築し、ゲームの基本的なシステムを知らなければならない。ネットで調べながら苦労してゲーム作りの土台が整えたとき俺は戸惑った。俺はゲームの作り方を知らなかった。


俺はどのゲームを作るか決めていなかった。ただ、なんとなく世界観があり、登場人物同士が物語を作っていくものだと感じていた。


ゲームにはあらゆる要素が組み合わさっている。システム、シナリオ、イラスト、BGM、サウンドエフェクト、演出、レベルデザイン…etc


だが、それだけでは不十分だった。


ゲームを作るにはゲームを完成させるという才能が必要である。


俺は、逃げたのだ。ゲームを完成させることから。ゲームを完成させることから逃げ、イラストを描き、作曲をすることで「ゲームクリエイター」に近づいているという妄想をしていただけなのだ。


俺は大学時代、あこがれの「ゲームクリエイター」になるためにプログラミングの本を読み漁った。汎用的なシステムを作るうえでの設計の方法も学んだ。イラストも、作曲もした。しかし、俺は気づいてしまった。私では到底ゲームを完成させることができない。私は作品を完成させることを恐れていた。


ついに俺は大学期間中にゲームを完成させることができなかった。



===================



俺はビジネスバッグを片手に高層ビル群の歩道を歩いていた。客先との打ち合わせを終え、現在は昼休憩中である。


俺は就活を終え、システムエンジニアになっていた。すでにプロジェクトを持つ身であり、入社してから6年目が経過していた。


仕事は充実している。不満があるとすれば、多忙なことに比べて給料が若干低いところぐらいである。人間関係にも恵まれており、今のところ大きな不満はない。


コンビニでコーヒーとおにぎりを3つ買い、外に出た。これから、自社に戻り仕様書を書かねばならないと考えると気が重い。


革靴の足先を見ながら信号が青に変わるのを待っていた。


「あれ、鈴木さんじゃないですか」


横からさわやかなイケメンスマイルがにょきっと現れた。2年後輩の田辺だ。


「田辺も、飯でも買いに来たのか?」


「そうですけど、鈴木さんもですか?」


「ああ、そうだよ」


私はそう言って、片方のレジ袋を少し持ち上げた。


「嫁に弁当でも作ってもらえれば、わざわざコンビニに行かずに済むんだけどね」


「やめてくださいよ、鈴木さん。僕だってコンビニ飯なんですから」


独身が二人そろって青信号を待つ。なんだか、趣があるものだ。


「あ、それと僕、結婚することになりました」


手が緩み、レジ袋を落としそうになったが、慌てて握りなおす。

なんだよ、田辺。独身だと思ったのは俺だけだったのか。

俺だけが婚期を逃していたのか。何だろうこの寂しさは。

まあ、このイケメンならば仕方あるまい。


俺は、ややため息交じりに田辺の祝福をした。


「お前なら、いつか結婚すると思ったよ。おめでとう」


「なんだか祝福されてないみたいですね」


「心から祝福するよ。旦那にコンビニ飯を買わせる、お優しい嫁さんをお幸せに」


「おちょくらないでくださいよ。それに彼女には弁当を作ってもらわないように言ってるんです」


「それはいいこった。夫婦ともお互いに気楽でいい」


「そういう鈴木さんは、ずっと独身でいそうですね」


「はは、そうかもな。そっちの方が性に合ってるよ」


嘘である。実際は親から孫の催促が来ており、いつかは結婚しなければならないと考えている。いつかは。おそらく。たぶん。


若干の焦りとともに、右足を踏み出した途端。どこかで耳鳴りがした。よろめきとともに足がもつれ、ひざをついてしまった。


「どうしましたかっ、鈴木さんっ」


「ああ、いや、少し疲れているみたいでな。や、大丈夫だ。すぐ治る」


立つために右足を踏みしめようとした。しかし、力が入らない。度重なる多忙に無理がたたったのだろうか。有休を使って病院に行く必要がありそうだ。今後の予定を考えていた時、


女性の悲鳴が上がった。


「鈴木さん、な、ナイフを持った男がっ」


「……田辺、逃げろ」

そう。俺は昔から運がない。中学生ぐらいのいじめっ子のグループに暴行を受けていた子を助けた時は、他の大人に誘拐の容疑をかけられ、警察沙汰になったときがあった。むしろ、いじめっ子グループに標的が俺の方に変わり、ぼこぼこに殴られたから、俺は被害者に含まれるのだが。無力な大人に集団攻撃はあかんよ。


「でも、鈴木さんがっ」

田辺よ、まずは自分の身を心配しろ。ナイフ男が振り回している最中に逃げろ。

男はまだこちらを見ていない。


「田辺っ俺のことはいいから、逃げろっ」

俺はつくづく運がない。足には力が入らない。おまけに殺人鬼ときた。悪いことは重なるものだ。泣きっ面に蜂ってやつか。


「……くそっ、鈴木さんには生きてもらいます」


田辺は俺を羽交い絞めにしてナイフ男から遠ざかるように引きずった。

ずるずるずるずる…。後輩に引きずられる大の大人。情けない。


すでに周りの人たちは逃げ去っていた。殺人鬼のほかには俺たちしかいない。

殺人鬼が俺たちのほうを向いた。じっとこちらを見ている。


「す、鈴木さん」

声が震えていた。

「田辺、俺を置いて逃げろ。はやく」

殺人鬼を刺激しないように、すっかり縮こまってしまっている田辺に小声で伝える。自分でも声が震えているのが分かった。


「逃げたら、警察と救急車を呼んでくれ。俺は大丈夫だ。あとからすぐに行く。いいな」

殺人鬼から目を離さないように小声で話す。まるで殺人鬼を熊として見立てて行動しているかのようだ。ついでに猟友会も呼んでおこうか。


「……くっ、わかりました、絶対にすぐに来てくださいね、お願いしますよ」


田辺の手が離れた。田辺が走り去る音を聞き届け、目の前の男に集中する。

よく見るとその男は、フードをかぶっており、病的に白くやつれている。フードから除く目は焦点が定まっておらず、足取りはふらふらとおぼつかない。


こんな時に相手を冷静に分析している自分を不思議に思っていた。

あまりのことに一周回って頭が冷えているようだ。


まるで俺はこれからライオンに捕食されるシマウマのようだ。俺は同族のシマウマの群れを逃がすための生贄のようだ。


ちょっと卑屈すぎるか。


そして俺はこれから自分の人生が終わるのだと直感的に理解していた。


男がナイフを横わきに構えて突進してきた。


何とかして体をよじってかわす。しかし、足が言うことを聞かず倒れてしまった。


ああ、ここまでだ。どうせこんなことになるのなら、仕事を辞めてゲーム制作に専念していればよかった。


ナイフが横腹に突き刺さる。肉を溶かすような熱さとともに、嗚咽が出た。ぶちぶちと音を立てて、ナイフが離れる。耐え難い激痛とともに急速に体が冷えていくのを感じた。やはり出血がひどいらしい。


どうせ死ぬのなら、せめて、田辺を逃がす時間を稼がねば。


再び向かってくるナイフを手でつかんだ。指の肉が裂ける痛み。ぼたぼたと指から血が流れでる。


痛みで失神しそうになるの舌を噛んでこらえながら、眼前にある血塗られたナイフを押し戻す。


いきなりナイフを掴んだことで相手はひるんだようだ。手が緩んだところを見計らい、相手のナイフを奪い取った。


時間がない。体が冷え切っている。ナイフを持ち直し、俺は相手の胸にナイフを突き刺した。


どさりと音を立てて殺人鬼が倒れた。


あたりが血だまりになっている。もう、俺は助からないだろう。体から力が抜け、重力に従って倒れた。

田辺は俺を置いてきたことに自分自身を責めるだろう。それが、心残りだ。


俺は、この人生で何かを達成できただろうか。自分にしかできないことはできただろうか。これまでの人生を振り返ってみると、中途半端な人生だった。


本当にほしかったものは手に入れることができず、すり抜けていった。


逃げるような人生。何のために生きているのか、なぜ死なないのかも分からず、流されるように生きてきた。


苦しいことばかりだったが、俺らしい人生だったのかもしれない。


雨音が聞こえる。


寒い。


ああ、思考がうまくまとまらない。耳鳴りがする。


『――再構築プロセス――遷移――完了』


『――新規世界を再構築中――書庫を参照――完了』


女性の音声が聞こえる。機械のような声だ。何だろう。幻聴だろうか。ついに俺の頭は狂ってしまったのか。


『――新規プレイヤーを再構築中――』


……プレイヤー。俺は死ぬときでさえゲーム脳だというのか。

ゲームを作る夢はすでにあきらめてしまっていた。自分で世界を作ってみたかった。それも今となっては永遠にかなわぬ夢だが。


『リクエストと一致する書庫を検索します――「創造主」――書庫と一致――現在の魂の強度が足りません――魂の強度と見合うスキルを検索します――「工作師」――書庫と一致――「工作師」のスキルを付与――成功』


こうして殺されるぐらいなら、山奥で過ごすのもよかったのかもな。できるかどうかは別として。


『リクエストと一致する書庫を検索します――「サバイバル」――書庫と一致――「サバイバル」のスキルを付与――成功』


ああ、頭がぼうっとする。思考がうまくまとまらない。

今まで、頑張ってきた。だけど、どうにもならなかったな。学びが足りなかったのだろうか。


『リクエストと一致する書庫を検索します――「学者」「書庫閲覧」――書庫と一致――「学者」「書庫閲覧」のスキルを付与――成功』


死んだら無になるのだろうか、それとも別の世界に行くのだろうか。もし死後の世界があるのならば、できれば天国に行きたいけど、どうなのだろう。


『リクエストと一致する書庫を検索します――「介入者」――書庫と一致――「書庫閲覧」のスキルと統合します――成功――「書庫管理者」のスキルを取得しました』


そういえば、さっきから何だ。この音声は。静かに死なせてくれ。


ああ、意識が遠のいていく。どうやら、もうお迎えが来ているようだ。俺はこの世界からいなくなる。後悔ばかりの人生だったが、なんだかんだいって、精一杯生きてきた。そんな頑張ってきた自分をほめたい。後悔がないといえばうそになるが、まあ、一つ欲を言うのならば――


『新規世界へようこそ。マイマスター』


――できれば、最後は静かに死にたかった。



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