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無慈悲な結果

 予想通りの展開だった。


 何の変哲も無い日曜日に遠くの遊園地に行こうなどと言われれば怪しむのは当たり前である。


 初めは、わたしが怒っているのを見て気を遣ってくれたのかと思った。


 だが傑は嘘を付くのが下手過ぎる為、その線は一瞬で消え去った。


「……なんで」


 私は絶望している。


 傑に甘えれば、傑は私を離したりはしないだろう。

 そう思い、夜中まで一緒にゲームしたり弁当を作ってあげたりした。


 でも結局のところ、傑は私を遠ざけたいという思いは初めから固まっていたのだろう。


「……でも」


 私の為なんだ。それは分かっていた。

 私の自己中心的な思いを傑に求めていただけだ。


 傑にだって好きな人はいるだろう。

 もしかしたら、その誰かと付き合う為に私を遠ざけたのではないか。


 だとしたら、私は傑にとって邪魔者だろう。

 家族の脛をかじってニート生活を満喫している人と大差ない屑だ。


「……」


 彼には悪い事をした。


 確かに私と傑の関係が壊れた最大の原因は彼だ。

 しかし、そこには初めから無数の亀裂が入っていたのだ。彼はその上に乗ってしまっただけだ。


「……」


 辺りを見回す。私が探しているのは、傑か修か。

 分からなかった。


 先程の考えからすれば、私は修に会って謝らなければいけないのだろう。

 だが考えではそうであっても、感情がそれを許してはくれなかった。


 自己中心的である私が彼を許せるはずはない。


 かと言って、傑に会ってしまっても同じ事だ。

 傑は修と違い、御構い無しに激怒してしまうかもしれない。そういう仲なのだから。


「……どうしよう」


 四方八方を人に囲まれていた私は、空を仰いだ。






 俺は走っていた。何の迷いもなく、目的地に向かって。


「傑先輩!!」

「お……おう」


 目的地に到着する前に俺は叫んだ。

 無数にいる人の中で頭一つ飛び出ていた先輩はそれを聞き、何とも言えない感じで返事をした。


「まあ、計画通りだ。流石に嫌われただろ」


 笛重さんと同じ色を持っていた瞳は死んだ魚の目の様に濁りきっていた。


「……俺も嫌われましたよ」


 巻き添いを食らった俺は今どんな目をしているのだろうか。

 自分の容姿は人の心ほど、本当にわからないものだ。


「……それは、悪かった。俺的には、笛重がくっついて来る事がなくなる。俺だけ叶っちまったな」


 取り返しのつかないミスをした先輩を少し怒ろうかと思ったが、そんな気には到底なれなかった。


「反省してるなら良いです。それより、笛重さんが心配です。連絡取りましたか?」


 別れ際の彼女の表情は何時もと変わりわなかったが、そこから冷酷さが感じられなかった。

 何かが大切な物が抜けてしまった感じだ。


「それが、何度も掛けてるんだが出てくれなくてよ」

「……俺、探してきます」


 心臓を罪悪感に似た何かに握り潰されそうになり、気が付けば足が動いていた。


 学校の何十倍も広い遊園地に無数の人。ここから一人の女性を見つけ出すなんて無理に等しい。


 それでも、俺は探し続けた。


 好かれる事よりも苦しんでは欲しくはないから。今じゃないと、一生彼女は苦しんでしまうかも知れないと思ったから。






「はぁ……はぁ……」


 走り続けて何時間経過しただろうか。


 巨大な乗り物に、落ちかけている夕陽の光をほのかに反射していた。

 無数に居た人が少しだが減っていた。中心部で行われるパレードを見る為だろう。


「何でいないんだ……」


 流石に体力が底を尽き、足を止めてしまう。


 もう帰ったのかも知れないと先輩に連絡を取ろうとスマホをポケットから取り出そうとした時、身体が動かなくなった。


「……いた」


 巨大な乗り物の中でも随一の大きさを誇る観覧車の陰に彼女はいた。

 見た感じ、今降りてきたところの様だが、列の最後尾に並んでしまった。


 俺は、止めてしまった足を再び動かしてその列に並んだ。


「あの……」


 呼びかけると彼女はゆっくりと振り返る。


「……」


 だが、何も言わずに前を向いてしまった。その態度に振る舞いに俺は声が出なくなる。


 何時間も探して、やっと見つけた彼女が目の前にいるというのに、俺はどうする事も出来なかった。


 そして、刻一刻と時間が過ぎていき最後尾にいた筈が一番前まで来ていた。


 係員に案内された彼女は空のゴンドラに足を掛けると振り返った。


「……乗って」


 そして、手を差し出された。


 この状況に俺は頭が真っ白になるが、少しずつ動くゴンドラを見て、その手を取っていた。




「……」

「……」


 小さな空間で俺と笛重さんは向かい合っていた。


 もう、数分が経過し頂上付近に差し掛かっていたが一言も交わされる事はなかった。


「……どうして、私を好きになったの」


 夕陽が山と山の間に沈み込まれていくのを見ていた笛重さんは、こちらを見て言った。

 それは均衡をいとも簡単に破壊した。


「一目惚れ。あとは、冷酷で冷静なところ」


 正直に答えた。


「冷酷で冷静か……。その仮面は、人を寄せ付けない為にしてたんだけど。……十人十色、貴方はそれが良いんだ」


 それに対し、目を細め口角を上げ笛重さんは答えた。

 決して幻覚などではなく、微笑んでいる。


 初めて見る笛重さんのその表情に俺は口を塞ぐ事が出来なくなった。


「本当に、消えて欲しい存在。今まで上手くいってたのに貴方のせいで……」


 その表情とは裏腹に酷い事を言われた。

 傷つく心を隠して、俺は血を吐く様に言う。


「……ごめん、笛重さん。でも、傑先輩の事は嫌いにならないでくれないか?あの人は」

「知ってる。世界で一番優しい兄だから、嫌いになんかなれない」


 その言葉に俺は安堵した。死んだ魚の目をしていた先輩もあのままではいけないと思っていたからだ。


「だから……悪いと思うけど、嫌いになる対象を全て君に移すから」

「え?」


 頂点にて夕陽に照らされた笛重さんは、口角を目一杯上げて最後の一言を言い放つ。


「大っ嫌い」


 その満面の笑みはいつもの冷酷さとは別のベクトルで残酷さを俺に与えるものだった。

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