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tsヒロインの仮面

 私は男として生まれ、十七の夏、急病に倒れた。

 突然の事だった。

 早すぎる人生の終着に涙を流すことはなかった。


 が、息苦しさに苛まれ、自然と甲高くうるさい声と涙が出た。


 私は、第二の人生が始まったのを理解した。

 一つ不満があったとするならば、女として生まれてしまったということであった。







「先生、私帰っても……」

「駄目だ、今回の件は森島も関係していると浅原が言ってるからな」


 浅原 修に告白されて一夜が経ち、授業後に帰り支度をしていると職員室に呼び出され今に至る。


 大柄で丸々とした担任の教師が私を帰すことはなく話が進んでいく。

 私が浅原を避けようとしたのが災いしたのだろうが、周りが勝手にやった事で私には関係のないことなのに。


「まず、何で浅原の首を絞めたんだ?」

「それはこいつが笛重に酷いことをしてたから……」


 教師の質問に海鳴は不満そうに答える。今日は朝からこの調子であり、いつも以上に平坦な日に思えた。昔から当然のように隣にいた彼女が、少し距離を取っていただけだというのに。



「本当か、浅原?」

「酷いことはしていません。ただ、単純に話してただけで」


 海鳴を挟んで向こう側にいる修は事実を言う。ストレートに何の迷いも無く口を動かす。

 確かに私は酷いことなどされていない。


「はぁ……。あと、宮村に暴行を働いていたという情報もあるんだが?」


 お互いの主張を聞いて面倒になったのか教師は早く終わらせようと話を進めた。

 それに海鳴は大きく動揺し、職員室内なのに大声で言う。


「そ、それは!あいつがからかってきたから!」

「それは宮村が唐崎に告白して…ぐべしゃッ!!」


 ここからは本当に無関係だと思い、窓から見える景色を眺めていると横から打撃音が耳に入った。

 振り向くと痛そうに鼻を押さえている修が、今朝のように胸ぐらを掴まれていた。


「お前それ以上言ったらどうなるか、わかるよな?」

「ほら!先生!!この暴力女が全ての元凶です!!」


 荒れる二人を止めに入る教師は呆れていた。


「はいはい、もういいわ。浅原、唐崎の怒りを買わないようにしろ。はい、解散」

「適当だな!」


 それ以上に呆れていた私は、解散の言葉を聞く前に職員室を出ていた。






 昇降口で靴を履き替え、校門に向かう。


 いつもは私の方が早いのだが兄である傑が既に待っていた。


 男であった時は一人っ子で、兄弟がいったいどのようなものなのかを良く想像したものだ。


 転生し女となり、それは兄妹になった。その関係を想像した事など無かったため、初めは傑の存在に戸惑った。


 でも、今は傑が大好きである。


「待たせてごめん、傑」

「全然待ってないよ。それじゃ帰ろうか」

「……うん」


 大好きと言っても異性としてではない。

 傑も私を異性では無く、家族として見てくれる。


 対して、他の男は私を嫌な目で見てくる。気持ち悪い目である。

 私も以前はあんな目をしていたのかと思うと気が気でない。


「今日は行かなくて良かったの?」

「ああ、毎日行っても困られるだろうし」


 傑は高校三年生。高校の過程を残りわずかとしていた。


 既に推薦で大学に合格し自由登校期間であるが、毎日学校に足を運んでいる。

 私の為もあるのだろうが、バレーボールをやる為である。

 傑の腕前は凄いもので、大学からスカウトを受ける程であった。


 教師達が許可をして、体育の授業が無い時は体育館を好きに使っていいという。


 そして傑は面倒見が良い。一人での練習が終わった後、部活に顔を出して後輩達に指導している。


「じゃあ、今日……どっか行く?」

「そうだなぁー、ジムとか?」


 冗談で答える傑。何度も聞いたことあるその返答だったが、私は心から安心した。


「なにそれ、あはは!」


 そんな傑の前だからこそ、唯一異性の前で私は本音を出す事が出来る。

だから、冷酷な仮面を外しても何の問題もない。


「それよりも、大丈夫なのか?」

「ん?何のこと?」


 笑い終えた傑は、心配そうに言ってくる。


「浅原に……な?」

「あー……それ、ね。傑は修の事どう思ってるの?」


 聞かれたくない質問が来てしまう。傑は私の反応に気を遣い、これ以上詮索をして来ないとは思うけど。


「浅原、最近部活来てないんだよなぁ……」

「そうなんだ」

「練習休まずに毎日真面目にやってたのになぁ。三年で主将の俺にも臆する事なく話し掛けて来たりして、メンタル強いなぁと思ってたんだけどなぁ」


 浅原 修もバレーボールに所属している。それを知ったのは大会を見に行った時である。同じクラスの男子が居るな程度にしか見ていなかったけど。


 最近、顔を出していないのは私の後ろを付きまとっていたからだろう。


「まあ、アホではあるが気の利くいい奴だぞ浅原は」

「……そうなんだ」


 その言いまわしに私は違和感を感じた。胸が焼けるような感覚だった。


 まるで——修と付き合っても良いんじゃないかなぁ——と言っているように感じたのだ。


「ゲーム屋、行こ……」

「あ、ああ」


 強引に腕を取り進路を変えて歩く。真横に並んで歩く傑は、私の行動に戸惑いを見せていたが上手く直視出来なかった。


 嫌だ。なんか嫌だ。

 別に、妹が男を避けている事を何とかしてやりたいという考えなのだろうけど。


 本当に嫌だ。

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