諦めろ
訳のわからない状況だ。
俺は物凄く悩んでやっと解決法を思いついた。確かにそれは無茶苦茶で、宮村はアホだと言ってくるかもしれないとは思っていたけど。
「……そうか。宣戦布告か、浅原修」
傑先輩がゴミを見るような目で俺を見てくるなんて想像もしていなかった。
「えっと……怒ってます?」
いつもはそんな目を向けてくる人ではないから理由が本当にわからない。
もしかして、今まで傑先輩が俺のためにやってくれたことを否定してしまったから怒っているのか?
「浅原、盛り上がっているところ悪いが、俺が傑を呼び出した」
「え?どういうことだ宮村」
口数の少ない傑先輩より先に宮村が立ち上がり、頭を掻きながら言った。
俺が遅れたせいで傑先輩と雑談していたわけではなく、元々この三人で笛重さんについて話し合うつもりだったわけか。
「というか、お前の話したいことって何なんだよ」
傑先輩が怒っているのは多分宮村に何かを聞いたから。
「森島はお前に嫌いとは別の感情も抱いていたって話だよ」
それが何なのか宮村は言ったが、それでも俺には理解できなかった。
嫌いとは別の感情、もしかして罪悪感を感じていることだろうか?大嫌いと言われる前、確かに笛重さんは「悪いとは思うけど」と言っていた。
でも、宮村と傑先輩の表情からして違うのだろうな。
「教えてくれ宮村。笛重さんが俺に抱く感情とやらを」
爪が手の平を強く痛めるぐらいの握り拳を作って宮村に聞き耳を立てた。
「……森島は怖がっている」
そんな俺の耳には、疑いたくなる言葉が流れ込んできた。
「笛重さんが怖がっている?俺を?」
ありえない。笛重さんは冷静で冷酷で、俺のことなんてミジンコ並みにしか見ていない。
笛重さんは俺みたいな奴に恐怖を覚えるはずが———
「あるんだよ。森島は強くなんてない。どこにでもいる女の子なんだよ」
宮村は少しキレ気味な口調で言ってきた。
確かに笛重さんは普通の女の子だろう。だけど、だとしても。
「だとしても!俺は笛重さんに怖がられるようなことをした覚えは!!」
「……あるだろ」
全身が震えた。やっと開かれた傑先輩の口から発せられた一言に俺は途轍もなく恐怖を感じてしまう。
こんな感情を抱かせることを俺は断じてしていない。そのはず……だ。
「さっきの宣戦布告、しっかりと受け取ったぞ。だがな指を咥えて待っているつもりもないし、笛重を奪わせるつもりもない」
「……先輩?」
傑先輩は立ち上がると俺も見下した。
その後、もう一言を残して校内に向かってしまう。
「そんなにもクズな奴だとは知らなかったよ、浅原」
「……ま、待ってください先輩!?」
俺の呼びかけに反応することなく先輩は姿を消してしまった。
完全に拒絶されている。あの誰にでも優しい傑先輩に。
「……み、宮村」
頬に涙が伝っているのを感じながら俺は親友である男に縋り付いた。
「どうしてだ?俺には……わからない」
どうしてこうなった。俺の脳内では簡単に次のステップに進んでいたはずなのに。
もう、アホな俺にはどうすることも出来ない。
だからいつもみたいに、アホな俺を導いてくれよ親友。
「森島を諦めろ、浅原」
「……!?」
縋り付く俺を振り払って宮村は咳き込んだ。
嫌な咳だ。俺に口を出させないようにわざと出している咳にしか思えない。
「あいつは傑とくっつく以外に幸せにはなれないんだよ」
「うるせえよ!自分は唐崎と上手くいきそうだからってさ!」
笛重さんは俺と結ばれても幸せなはずだ。俺は彼女をとても愛しているから。
「八つ当たりすんな」
叫んだ俺に宮村はシッシッとあしらってくる。その行為に何かが吹き飛んだ気がした。
「もうどうしていいのかわからねぇんだよ!!だから俺を助けろよ!!アホな俺と違って天才のテメェならいい方法思いつくだろ!!なぁ!!」
高校の敷地内の何処にでも届くぐらい大きな声で叫んだ。喉が凄まじく悲鳴を上げていたが関係なく。
俺はこんなにも本気なんだと、親友に知って欲しかった。諦めろの一言で諦められないことを。
だから、言ってくれ。俺を助けてくれる言葉を。
「わかってる、俺はお前の味方だ」




