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宿題やってない

 今さっきの出来事を忘れたかのように騒がしくするクラスメイト達。いつもの活気を取り戻すどころか動物園と見間違えてしまうぐらいに熱気が上がっている。


 そんな中、俺は落胆してしまう事態に見舞われていた。


「宿題やってねぇー……」


 あれから家に帰ってすぐにシャワーを格好つけて浴びてサッパリした。それからの記憶が全く持ってない。


 なので宿題などやる暇がなかった。今思うと部活をやってた時は良く宿題なんて意味の無い物をやれていたなと。


「まあ、一回ぐらい許してくれるだろ」


 学生の本分は勉学だ!宿題をやらないなんて論外だ!と、うちの担任は毎朝言っているが今日は言ってなかったし大丈夫だろう。


「よし、切り替えよう」


 頭の中から宿題という言葉を放り捨てて炭になるまで焼却。笛重さんのことで一杯にする。


 俺は笛重さんに好かれなければいけないが、現状途轍もなく嫌われている。


 どうして俺は嫌われているのか。


 それは遊園地で笛重さんの口から直接聞いた。傑先輩を好きでいるために俺のことを嫌いとすると。


 笛重さんは傑先輩のことが家族としてではなく異性として好いている。その思いを知ってしまった傑先輩は嫌われる行為を取った。


 そこには家族愛があり、確かにそれは笛重さんのためだった。笛重さんもそれくらいは理解しているだろう。

 二人の関係は家族で兄妹、異性として見てはいけない。


 こうなれば笛重さんは傑先輩を諦めざるを得なくなる。



 でも、そうはならなかった。



 傑先輩が笛重さんのためだけではなく俺のためにも嫌われようとしたからだ。

 俺という異分子が二人の関係をややこしくしてしまった。


 嫌われようとする理由を全て俺に押し付けることで笛重さんの中で丸く収まったのだろう。


「……つまり」


 俺が思考を高速に巡らせているフリをして答えが出かけた時、扉が開かれ冷気とともに宮村が帰ってきた。


「あ、どうだった?」


 透かさず声をかけて呼び止めるが宮村は目を細めて俺をじーっと見てくる。


「えーっと、そんなに見つめられると……照れるな」


 マスクによって強調された目元に耐え切れなくなり目を逸らして若干顔を赤らめてしまう。断言しておくが、決して宮村に恋心を抱いてしまったとかそういうのではない。


「……はあ、俺も佐西ちゃんに風邪で捕まるところだったよ。あと、きもいぞ」

「無言で見つめてくる方がきもいだろ!」


 咳き込みながら言ってくれる宮村に噛み付くように叫んで、そういえばと続けて口を動かす。


「風邪なのは本当なんだろ?佐西先生と一緒にいられるチャンスをみすみす逃すなんて宮村らしくないな」


 もしや唐崎と上手くいきそうだからって、佐西先生を切り捨てたんじゃないよな宮村!見損なったぞ!


「……ちょっとな」


 見えない下唇を噛みしめただろう後にそう言って横を通り過ぎていく。


「お、おい」

「悪いが色々と整理がしたい。放課後……そうだな中庭にでも来てくれ」

「……なぜ中庭?」


 笛重さんについての情報を一切話してくれないまま、一限開始のチャイムがなった。

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