自己中の俺だが
握り心地は今までふれてきた誰の手よりも良い女の子の手を持つ彼女は、いつもに増して冷淡な声を吐き捨てた。
「………」
それが今、彼女が俺に向けている感情。
誰しも裏の顔を持っている。他人には見せたくない顔。
「っち、放せっての!」
「………」
口調も一人称も彼女の物とは思えないほど鋭く、俺の心は揺れていた。
「放せよ!!この、変人!!」
女の子の力では振り払うことが出来ない俺の手をもう片方の手を使って振り解こうとする。
「この!この!!」
「………」
それでも、振り解く事は出来ない。その理由として、片手にはぐしゃぐしゃになった紙を破れるぐらいに握り締めているからだろう。
「もう……いい……」
「……!?」
そして、俺は彼女が泣いている事を知った。
紙を離して、自由になったその手の爪を俺の手を突き立てる。
「いっ!?」
その痛みに怯んだ一瞬に彼女は手を引っ込め、勢いよく扉を閉めた。
「………」
奥の方に走っていく足音を微かに耳が拾った後、俺は口を開いた。
「宮村、あんな笛重さん、見た事あるか?」
「……ねえな」
流石にやり過ぎたのか。薄々どころか普通に分かっていた。初めから、彼女が受け入れてくれない事は。
それでも、信じたかった。俺が俺でいれば、運命の相手と上手くいくって。
考えたって近づけない。考えていたらどんどん遠くに行ってしまう。
「……あ」
手から流れ出たほんの少しの血が地面に落ちる。そして、飛び散りぐしゃぐしゃの紙に付着した。
俺はその紙を拾い上げ、文が書いてあることがわかった。
——笛重へ。
これから母とアパート探しに行ってくる。もう大学生だ。一人暮らししないとな! 傑 ——
「成る程。……先輩、俺の為に笛重さんから離れようとしてくれているのか」
先輩が俺の為にしてくれた事。それにより彼女は怒っていたのだろう。
彼女は、笛重さんは傑先輩が大好きだ。元々、一人暮らしをする予定では無かったのだろう。離れ離れになってしまうのだ、怒って当然だろう。
「……笛重さん!!」
諦めちゃいけない。先輩がしてくれた事がいけない事だっただなんて認めては、優しい先輩の事だ、自分を心の底から攻めるだろう。
「俺は!!絶対に貴女に好かれてやる!!」
終わらない。終わらせない。終わらせてたまるものか。
先輩の為もだが、何より自分の為に。俺はまだ、彼女の事が好きだ。大好きだ。この上なく大好きなんだ。
「だから!!」
自分の為に、彼女を幸せにしてやりたい。
「俺は絶対に貴女から逃げたりはしない!!ずっと一緒に居てやる!!友達だろうがストーカーだろうがなんだろうが!!」




