楽しいバドミントン
唐崎と組む。
そうすることで直接笛重さんと接する事は無くなり唐崎が怒り狂う事もない。
そして何より、笛重さんと敵としてバドミントンが出来る。
計画通り。俺&唐崎対アホ村&笛重さんの対決が始まった。
「んじゃ、俺からサーブいくぜー。とぅ!」
アホ村の謎のフォームから放たれたシャトルは高い所をゆらりゆらりと舞う。
「クズ、ちゃんと返しなさいよね」
「わかってる……って!」
俺の元に落ちてくるシャトルをしっかりと捉えて打ち返す。
それは、アホ村のサーブにも引きを取らないほど高く飛び、笛重さんの頭上を捉えて下降する。
「……む」
上を見上げた彼女はラケットを構える。
流石に構えるのが早すぎて、そのままコート上の時間が停止したように思えた。
「……ここ」
そして時間が動き出した瞬間、コツンっという音が鳴る。
打ち損ねたのか縁にシャトルが当たった音だ。
その音と彼女のフォームに気を取られていたせいで気づくのに遅れる。
「まじかっ!」
弱々しく飛んで来ていたシャトルはネットを掠めて急降下していたのだ。
滑り込んで拾い上げようとするも追いつくことはできなかった。
俺はシャトルが完全に停止するのを体勢を崩して見る事しか出来なかった。
偶々……いや、狙った?
「……ふっ」
今の状況に至る経緯を考えていると、前方から嘲笑う声が吐き捨てられた。
背筋が凍っていくのを実感しながら、顔を上げて笛重さんを見た。
決して笑う事の無かった彼女は二度も俺にそれを見せてくれた。
どちらも俺の求めるものではないのは明らかで、今も完全にウジ虫を見るようであった。
「ちゃんと取りなさいよクズが!」
「ひっ!」
求めるものでは無かったがその新鮮な彼女の顔を1秒でも長く拝もうと停止していると、唐崎に胸倉を掴まれた。
「ごめんなさい、次は取ります」
「……絶対よ!」
体が宙に浮く前に、何故かお怒り状態になられた唐崎を鎮める。
俺、もうこの人嫌いなんだけど……
「さぁ!!もう一本!!」
しっかりと守備につき、再び始まったプレーは何度もラリーが続いた。
「はっはー!!海鳴、甘いぜ!!」
しかし、その均衡を崩しアホ村が叫ぶ。笛重さんにより、前に落とされたシャトルを何とか返した唐崎の緩い返しを思い切りぶちかますようだ。
「行くぜ!!修!!」
「クズ!ちゃんと取りなさいよ!」
頭のおかしくなったアホ村とプレッシャーをかけてくる唐崎。
やはり、笛重さんとバドミントンを楽しむにはこの二人邪魔だな。
「おりゃっクションッ!!!」
やはり俺の計画は間違っていたか。
と考えていると、アホ村から強烈な一撃が放たれた。
もの凄い勢いで飛んできたシャトルは俺のラケットに吸い込まれ、ガシャっと大きな音を響かせる……
という訳では無かった。
打つ直前くしゃみをしてしまったアホ村は力んでしまい、狙っていた俺とは全く違う方向にシャトルは飛んでいた。
それは、アホ村の身体能力を知ってか俺に飛ぶと確信してラケットを構えていなかった唐崎を襲う。
それも最悪な事に顔面を直撃した。
「…………」
生々しい音では無かったのは彼女がいつも掛けていた黒縁眼鏡が身代わりになってくれたからだった。
そして、彼女は体勢を崩して倒れ込んだ。
「だ、大丈夫か唐崎!!」
俺は慌てて駆け寄り、宮村も一歩遅れて来る。
「………」
だが、宮村は何も声をかける事はしなかった。
出来なかったのだろう。二人の関係が最近不仲な上に起こった事だからか。
「……いてて……足捻っちゃった」
黒縁眼鏡は外れていて、いつも隠れていた素顔が露わになった唐崎はそう口にした。
眼鏡のお陰で顔には怪我をしなかったようだが、倒れ込んだ際に足をやってしまったらしい。
「………」
そんな、彼女を宮村は信じられないような顔で見ていた。
「宮村、お前保健委員だろ?」
「え……あ、ああ」
「先生には俺が伝えとくから」
そんな宮村に俺は呆れて声を掛る。
宮村が、佐西先生と仲良くなる為にジャンケン大会で勝ち抜く事で手にした保健委員という称号。こんな時に活かされることになるとは。
宮村にとっては地獄だろうが。
「海鳴……肩」
「……う、うん」
気まずそうに唐崎を支えながら体育館を出て行った。
「……海鳴」
気づいたら横にいた笛重さんは心配そうに言う。
その後、先生に伝えると仕方ないから二人でやっとれと言われ笛重さんとバドミントンをする事になった。
しかし、浮かない彼女は緩い返しでも上手く捉える事が出来ずに俺の一方的な試合になってしまった。
気まずいのはこちらも同じか。
昨日の今日。あんな別れ方をして、朝にも色々あって、今はただ無言でバドミントンをしている。
寝不足の俺にはそれ以上考える事が出来なかったのがせめてもの救いだった。




