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一難去らずにまた一難

 椅子から勢い良く立ち上がるも、走り去ってしまった彼女の残像を見るように数秒固まってしまう。


「ほら!森島さんの気持ちわかったでしょ?だから……」

「角井……先生……」


 全ては先生の勘違いからだろう。あまり先生にはイラつきたくない性なのだが、今回ばかりは昨日の事があってイラついてしまう。

 その為、無性に文句が言いたくなった。


「……浅原くん?」

「先生が……悪いんですよ」


 一歩、また一歩と先生との距離を縮める。回数を増すごとに何故か先生の顔が青ざめていく。


「……だ、駄目だよー?」

「何がです?……駄目なのは先生じゃないですか」



 自分が悪い事をしてしまったのを理解したのだろうが、もう遅い。既にイラつきは喉元まで出かかっている。


「いーーやーー!!」

「………」


 話すのに難の無い距離に近づき、それを吐き出そうとした瞬間。

 先生は教卓をひっくり返し、何処かに走り去って行ってしまう。


 教卓は俺の目の前で大きな音を立てて床と衝突、その上に乗っていた大量のプリントが俺に牙を剥いた。


 視界が真っ白に染められ、何が起こっているのか理解出来ずに立ち尽くす。


「……何なんだ?」


 徹夜をしている俺の思考がおかしいのか。考えるのが面倒臭い。


 そんな訳で、とりあえず足元に散らばったプリントを拾うことにした。






 プリントを全て拾い上げ、立て直した教卓に積んでから数十分。やはり、やる事が見当たらずにぼーっとしていると、ちょこちょことクラスメイトがやってきた。


 その度に「めっずらし」「え?頭打った?」「寝ぼけて時間間違えたのか」などと茶化してくる。


「……そんなに言う事なくね?」


 時刻はホームルームが始まる10分ほど前で、この時間に俺が居てもおかしくないはずだが。


 そんな声をシャットアウトさせて、彼女ことを思う。


 何も見なかったかのようにUターンした彼女は廊下を確かに走っていた。彼女が走っているところなど滅多に目にした事がない。

 それだけ彼女は焦っていたのだろう。


 どんどんと俺と彼女の距離が離れていくのを噛み締める。


 もしかして、そのまま家に帰宅してしまったのではないか。そんな考えにもいたる。


 そんなこんな答えの見つからない思考をしていると、俺への茶化の声は一切なくなっていた。


「森島さん、まだ来てないね」


 クラス全体が彼女が未だに来ていない事にざわついていたのだ。


 そんな騒めきが教室外に漏れるほど大きくなった時に扉が開いた。


「……ふぅ」


 扉を開けた正体を見て俺は安堵した。


 そして、クラス全体が静まり返る。彼女の持ち前の無表情を通り越して不満気な顔を見て、俺の時のように茶化を入れるものは居なかった。






 それから数時間が経過した昼前。四限の体育の授業に向けて、男子は教室で着替えていた。


 日曜日の彼女はどんな私服を着ていたのか。色々あり過ぎて確認をするのをしまっていたのに気がつき残念に思っていた時。


「なあ、早く行こうぜ」


 宮村に肩を叩かれた。


「ああ……半袖の君は着替えるのが早くて羨ましいよ」


 ジャージの袖を通して、廊下でうざいぐらいに早く早くコールをする宮村とともに体育館に向かった。


「くぇっしゅん!!……あー、寒ぃ」


 道中、凍てつくほどの寒風に宮村がやられた。どうやらジャージを忘れたそうだが俺には関係ない事である。


「走ろうぜ!さあさあさあ!!」


 そして、彼は全速力で行ってしまった。


 宮村、あんなキャラだったっけ。もう少し落ち着いていた気がするのだが。


 俺の知らないところで唐崎と何かがあったんだろう。


 というか、俺と宮村の性格が入れ替わってる!?


「あー、頭痛くなってきた」


 どうでもいい思考は捨てて、時が過ぎるのを待った。


 そして、体育館にて体操を行い整列。


「今日はバドミントンすんぞー」

「せんせー、バスケやりたいでーす」


 体育館にて合流した笛重さんをずっと見ていると、先生に突っかかるやつが現れた。


「駄目だ宮村。前のクラスがネット張ったままだからな、片付けるのも面倒だろ?」

「それもそうでぐしゅん!!」

「んじゃ、男女でペア組んでダブルスでいいか」

「「えーー」」


 宮村のくしゃみを華麗にスルーする先生が言った方針に女子生徒が懸念の声吐いた。


「まあいいだろ?男女数同じだし。はい、組め組めー」


 そして、勃発したペア探し大会。


「おい、どうするよ修」

「どうって、決まってるだろ」


 慌て出す宮村に俺は落ち着けと促すと歩みを進めた。その先には勿論彼女がいる。


「た、確かにそれしかねえか」

「まあ、任せろ」


 入れ替わった性格でいつもの宮村の口調を真似て言った。


「笛重、こっち来たわよ」

「そうだね……」


 笛重さんとの距離が近づいた時、その間に唐崎がすっと入ってくる。

 唐崎は無い胸を張って俺を睨んできて言う。


「何の用、クズ」


 クズと呼ばれて傷ついたが、好きではない人だったので屈することはなかった。


「何の用って、ペア組みに来た」

「させない。クズと笛重を組ませるわけにはいかない」


 無い胸とともに顔を近づけて断固として曲げようとしない彼女に対して俺は口を開いた。


「別に笛重さんと組むなんて言ってないよ。唐崎、組もうぜ」

「……はあ!?」


 寝不足で滅茶苦茶になった思考回路から導き出された俺の答えに唐崎はたじろいだ。


 しかし、顎に手を当てて考え始めて数秒。


「そうだな。それでいい」


 俺と組む事を許可してくれた。


 後ろに控えていた宮村は流れで笛重さんと組むことになった。

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