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プロローグ 一端の音色に酔いしれていた

 森島笛重(ふええ)、冷酷な彼女に俺は今日告白する。

 容姿端麗な彼女に一目惚れして以降、ずっと思いを馳せてきた。


「笛重、帰ろうぜ」


 彼は森島傑先輩。彼女の兄であり、成績崖っ淵、運動神経抜群の三年生。

 二つ下の彼女にゾッコンらしい。


(スグル)は先に帰ってて、用事が……ある」

「に、にいちゃんより大切な用事か?」

「同じ位かな……」

「わ、わかった」


 高身長の傑先輩は大きな体を丸めて残念そうに去って行く。

 冷酷である彼女でも傑先輩には優しいらしいのだが、それを遠ざけさせるとは一体どの様な用事なのか。


「……そこに、いるんでしょ?」

「え?」


 冷たく鋭いその口調で発せられた言葉は確実に俺に向いていた。


 用事とは、俺の事だったのか。

 な訳ないと心を落ち着かせる。何故なら俺は今、彼女の死角に隠れているからだ。

 が、次の一言で確信に変わった。


「浅原 …(おさむ)

「俺か……」


 その名とは十五年間共に過ごしてきた仲だ。間違えるはずはない。


「えーっと?」


 自分の名を呼ばれて逃げる訳にもいかず、彼女の前に姿を見せた。


「何、私に用があるのでしょう?」


 全てお見通しというような冷淡な声でめんどくさそうに、それでいて凛々しく尋ねてくる。


「好きだ」


 俺は尋ねられた事を素直に答えた。若干頬が赤くなるがその気持ちに一切戸惑いがない為、後悔はしていない。


「……」


 それを聞いた彼女は表情を変える事なく沈黙した。

 予想通りの回答に呆れているのか、予想外過ぎて困っているのか。

 張り裂けそうな位好きだというのにわからない。


「それで?」


 その沈黙は長く思えたが、実際のところ数秒であった。


「付き合って下さい」


 更なる問いに迷わず答えた。

 一切動こうとしない瞳が、俺の瞳を見つめている。


 頬がかなり赤くなってきた。

 告白するよりも彼女に見続けられる方が照れくさく思う。いや、興奮しているのか。


「……私と修くん、接点、少ない。それで、付き合うの?」


 確かに一目惚れしただけで、彼女と何かあった訳ではない。よく知りもしない男からの告白を受け入れてくれる事はまずないだろう。


「そうして貰えると嬉しい。嫌ならこれから友達として接点を増やしていき、いつか付き合おう」


 しかし、俺は食い下がらない。結婚を前提に彼女を前提に友達になれば良いのだ。


「……うん、私も……そうして貰えると嬉しい」


 また彼女は、驚いたのか引いているのかわからないが答えた。

 悔しい。彼女の事がわからないのが悔し過ぎる。


 だが、彼女はOKをくれた。

 友達からであるがそれでも、十歩は前進しただろう。


「これから宜しく笛重さん」


 俺は手を差し出した。

 友達になったのだ。握手ぐらいするだろう。


「……宜しく、修」

「……!!」


 貫かれた。俺のハートはブレイクした。

 笛重さんに、下の名を呼び捨てで呼ばれるとは予想外だった。

 ああ、顔が真っ赤になっている。


 更に追撃を仕掛ける様に、柔らかく滑らかな彼女の手が俺の手を握った。


 俺の脳は爆破した。冷静な判断が出来なくなるぐらい。


「今日、うちに来ない?」





 高校に入学して一年が経過しようとしていたある日、私はある存在に気づいた。


 ずっと私の後ろに一人の男がいるのである。

 それはまるでストーカーの様であった。


「浅原 修」


 今、私はそんな危険な存在の男に声を掛けた。


「俺か……」


 男は私の呼び掛けで柱の後ろからひょいっと姿を見せた。


「えーっと?」


 その男はわざとらしく口を動かし偶然を装い近付いてきた。

 一歩一歩、近づいて来るたびに何をされるのかわからない恐怖に苛まれた。


「何、私に用があるのでしょう?」

「好きだ」


 恐怖が限界に達した為、歩みを止めさせる様に起伏の少ないのトーンで尋ねると男は、間を空ける事なく簡潔に答えてくる。

 その驚きで男が何を言ったのか理解するのが遅れる。


「……」


 私は告白されたのか、と理解する。しかし、それに対しては何の驚きも感じられなかった。今まで男に幾度となくされてきたからだ。


「それで?」

「付き合って下さい」


 こういう時、何と答えるかは決まっていた。

 端から私にそのつもりが無いのだから。それに。


「……私と修くん、接点、少ない。それで、付き合うの?」


 ロクに知りもしない男と付き合うはずがないだろう。


「そうして貰えると嬉しい。嫌ならこれから友達として接点を増やしていき、いつか付き合おう」


 男は食い下がった。最後に微妙に足掻いているが。


「……うん、私も……そうして貰えると嬉しい」


 ここはこれで手を打とう。ストーカーを全否定するとどうなるか、何となく想像できる。ただ問題を先延ばしにしているだけかも知れないが。


「これから宜しく笛重さん」


 男は手を差し出してきた。


「……宜しく、修」

「……!!」


 その手を何の迷いもなく握り締めると、男は体をビクンッとさせた。

 そして、若干だが顔が赤らんでいる。

 私は血の気が引いたので手を離そうとするが、男は言い放った。


「今日、うちに来ない?」


 男は知らない。私が転生をし性転換もしている元男という事を。

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