表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムゲンの世界  作者: 持原奏真
第一章
2/19

1話 イグドラシル大陸の異変

 


 あなたは、イグドラシル大陸についてご存知ですか?



 ……あぁ、いえいえ、みなまで言わなくても良いのです。無駄な質問をしてしまいました。あなたがイグドラシル大陸についてご存知なはず、ないですもんね。


 イグドラシル大陸とは、世界樹イグドラシルから生まれた大陸のこと。我らが踏みしめているこの地は、イグドラシルが創造した大陸なのです。この地も、そしてこの大陸に住まうすべての種族は、イグドラシルから生まれたとされているのです。


 かつて、周囲は大海に覆われ、孤島の島にただ一つ、イグドラシルのみが存在していた時のこと。果てしなく長い年月を経てイグドラシルは根を伸ばし続け、それはやがて大陸として形を成しました。やがてイグドラシルは、この大陸に別の生命を住まわせようと考え、一つの生命を生み出しました。それが、『アース』と呼ばれる人物。我らアース族の祖先であり、すべての種族の始まりとなるお方です。


 イグドラシルはその後他の種族も作るのですが……、まぁその辺りの歴史は、今は重要ではありませんので、詳細は省きましょう。


 貴方に理解していただきたいのは、イグドラシルとは、世界の生みの親であり、生命の母であり、我々が生活を営むこと大地そのものだということ。


 イグドラシルがこの世界に住まう住人にとっていかに特別な存在であるか、お分かりいただけましたか? ……そうですか、それは重畳。



 さて、問題なのはここからです。


 今からひと月前の話。その世界の母たるイグドラシルに、異変が生じたのです。


 イグドラシルは数千年間、如何なる災害の影響も受けず、常に鮮やかな緑色の葉を生い茂らせていたのですが――その葉が突然、何も前触れもなく赤く染まり始めたのです。


 イグドラシルが紅葉するなど、長い歴史の中でも確認されたことのない事象です。突如前触れもなく発生したイグドラシルの異変に、大陸の人々は恐慌状態に陥りました。勿論我が国とて例外ではありません。普段国交のない国とも情報を出し合い、勢力を上げて原因の追究に明け暮れましたが、結果は著しくありませんでした。


 イグドラシルの異変は、何も葉の色が変色しただけではありません。魔術を使うのに必要なエネルギーである『魔素』を生み出しているのがイグドラシルなのですが、イグドラシルの異変が魔素へも影響しているようで、普段何気なく使っている魔術が上手く作動しないという出来事が相次いだのです。

 魔術とは、戦闘時に必要な能力です。それが使えないとなると死活問題。特に我が国は魔術師が多い国なものですから、国への影響力は計り知れません。


 また、人によって使える魔術に差があるとはいえ、魔術自体は大抵の人間が使える能力であり、生活に身近なものです。かまどに火をつけようとした料理人が大やけどを負い、風を起こして洗濯物を乾かそうとしたメイドが鋭い風の刃で傷を負い、土を耕そうとした農夫が突如せり出した土山に足を取られ骨折するなど、日常生活の中でも怪我を負う人々が増えていきました。


 ――ならば魔術を使わなければいい? ……いいえ、話はそう簡単なものではないのです。あなたが住んでいた世界には、『デンキ』と呼ばれるものがあり、それを使ってとても便利な道具を動かして使用していると聞いていますが、間違いないですか? ……そうですか、歴史書に書かれていたことは本当だったのですね。いえ、それならば話は簡単。ある日突然、『デンキ』を使わずに生活をしろ、と言われて、はい分かりましたと納得できますか?

 ……でしょう? 我々にとって、魔術はあなたの考える『デンキ』のようなもの。普段魔術を前提とした生活を送っていたため、完全に魔術を使わないとなると火を一つつけることさえ困難で、生活が大変不便なのです。結局、生活の不便さを理由に魔術を使い続ける人は後を絶たず、怪我人は増えていく一方でした。



 そして何より、人々が最も恐れたのは、イグドラシルそのものが枯れてしまうのではないか、ということ。


 先ほども言った通り、イグドラシル大陸は、イグドラシルが根を張って出来た大陸です。もしも、大本であるイグドラシルが枯れてしまえば、我々の住むこの大陸そのものが無事で済むはずがありません。


 神たるイグドラシルが滅亡しないよう、人々は天に祈るしかなかったのです。平和を語る大国も、魔を自在に操る大国にさえも、成す術などなかった。




 ――ですが、我が国には一つだけ取れる手段がありました。それが『聖女召喚』。

 そう、あなたを呼ぶのに使用した秘術です。




 あなたを召喚し、翌日経った今日。無事イグドラシルの異変が解消されたことが確認できました。イグドラシルの葉は元の緑色へと戻り、魔術の使用にも問題がなくなりました。あとは、影響を受けて繁殖していた魔物の討伐が残っていますが、そちらに関しては特に問題なく収束するでしょう。


 ……え? 何もしていないのに、何故イグドラシルの異変が解消されたのかですって? そうですね、あなたは何もしてない。ただ呼ばれ、ただそこにいただけ。ですが、それで良いのです。それこそが、我々の望みです。


 聖女とは、ただそこにいるだけで、良いのです。あなたの存在そのものが、我々に幸と富を与えるのです。




 突如人々を襲ったイグドラシルの異変と、それを解消した尊き聖女の行い。

 この度の出来事は、歴史でも語り継がれることでしょう。



 あなたは聖女であり、我々の英雄なのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ