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ムゲンの世界  作者: 持原奏真
第一章
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9話 お勉強の時間

 ドラコ村で目覚めてから、三日が経過した。私は現在もフルトグレーン家にお世話になっている。


 ドラコ村は、アールヴル族という種族のみが暮らす村らしく、フルトグレーン家に住むリーサさん、ダン、そしてリーサさんの夫でありダンの父親であるミカルさんの三人は、全員がアールヴル族だ。


 アールヴル族は、尖った耳が特徴的だ。人間――ここではアース族というらしいが、アース族とアールヴル族の外見的相違は、耳だけらしい。私の感覚で行くと、アールヴル族=エルフ族という印象であり、エルフ族と言えば眉目秀麗な美男美女ばかりというイメージだったのだが、アールヴル族だからといって美男美女であることが決まっているわけではないようだ。眩いばかりに美しいリーサさんは、アールヴル族だからということではなく、単純に彼女個人が美しかっただけということらしい。


 ちなみに、ミカルさんとは目覚めた次の日に対面した。ちょうど仕事で数日家を空けていたらしく、帰宅したと思ったら見知らぬ少女がいたものだから、大層驚いた様子だった。

 しかし、ミカルさんはとても優しく、事情を聞くと二つ返事で私の滞在を許可してくれた。赤髪が特徴的で、少々ふくよかな体格を持つミカルさんは、常々柔和な笑みを浮かべており、性格もとても温厚だ。ダン君を叱りつけるのは専らリーサさんの役目であり、ミカルさんは緩和剤の役割を持っているらしく、フルトグレーン家は、賑やかだが纏まりのある不思議な一家だ。


 そんなフルトグレーン家の人々に助けられながら、私は体の調子を戻していった。


 リーサさんは胃に優しい食事を私用に用意してくれて、ダン君は外で遊ぶ方が好みだろうに、ベッドで横になっていることが多い私を気遣って部屋に遊びに来てくれる。ミカルさんは年頃の女の子が眠っている部屋だから、と滅多に部屋へ訪れることはなかったが、私用の食事の食材調達をしてくれているのはミカルさんだとリーサさんが言っていた。

 私は心優しいフルトグレーン一家に感謝しながら、彼らの心遣いを決して無駄にはしまいとリハビリに励んだ。と言っても、歩行練習や立ち座りといった動作の練習をしたくらいだが。



 今日はリーサさんから借りた本を読もうと、私は借りている一室のソファに腰を掛けていた。


 本のタイトルは『子供でも分かる!イグドラシルってなぁに?』だ。

 ダン君が小さい頃に読んでいたものらしく、表紙には一本の大樹が描かれている。ページ数も少なく、タイトルからも察せられる通り、完全に子供向けの本らしい。私が右も左も分からない状況だということを察したのか、まずは簡単なものから、とリーサさんから渡されたのがこの本だった。


 少々年期の入った表紙を捲り、本を読み進めていく。


 そして、一ページ目を開いた段階で、私はとあることに気付いて頭を抱えた。


(……そういえば、なんで私、この世界の文字が読めているんだろう……)


 表紙を飾る文字も、ページを開いて飛び込んだ文字も、日本語ではない。アルファベットにも似ているが、私の知っているアルファベットとはどこか違う文字だというのに、私には何故かそこに書かれている文字を読み解くことが出来た。


(……異世界トリップのお約束、ってことでひとまず納得しておこう……。不便なわけではないしね)


 ここに来てからというもの、一切の常識が通用しないということで、私は妙に図太くなったような気がする。ある程度のことは「異世界だしね」の魔法の言葉でなんとかなりそうな気さえする。


 さて、早速出鼻を挫かれたが、今日の目的は少しでもこの世界のことを知ることだ。

 止まっていた手を動かし、ページを読み進めていく。



 本の冒頭にはこう記されていた。


『世界の根源で有り全ての生命の生み出した大木、“イグドラシル”。私たちが立っているこの地は、イグドラシルが幾万にも根を張り続けた結果に出来た大陸だ』


 見開きの左ページにそう書かれ、右のページには地図のようなものが描かれている。

 地図はぐるりとドーナツ状の形をしており、中心には孤島が浮かんでいる。その孤島部分に「イグドラシル」と書かれていた。


『今よりはるか過去の話。大陸中を巻き込む大戦が起こった際、イグドラシルにまで戦火が広がるも、イグドラシルは炎に焼かれることなく、ただそこにあり続けた。

 しかし、なおも争い続ける人々に悲しんだイグドラシルは、大陸となっていた根を動かし、大地を割った。

 現在イグドラシルが生えている地は巨大な海に囲まれており、誰もイグドラシルに近づくことは出来ない』


 この本曰く、元々一つの丸い形をした大陸だったものが、戦争が引き金となって大陸が変動し、現在のドーナツ状の形になったということらしい。


 しかし、イグドラシルに感情?があるか分からないが、もしそうだとすれば……、例えば土地を略奪するために戦争を起こし、そのことにイグドラシルが悲観したら、略奪しようとしていた土地、または侵略者側の土地が海に沈められることもあるってことなんだろうか。

 だとすると、なんとハイリスクローリターンなことか。よっぽどのことがなければ戦争を起こそうという気にもならない気がする。日本生まれ日本育ちの平和主義者である私としては、抑止力となっているイグドラシル様様だ。争いなんて起きない方が良いに決まっている。



  ペラリ、とページを捲る。


 次のページにはデフォルメされた6つの人の姿と、イグドラシルのイラストが描かれており、イグドラシルからは6つの人の姿に向かって線が伸ばされていた。

 六人の姿はイグドラシル大陸に住んでいる種族を表しているらしく、それぞれの種族名が記載されている。


 まず一人目。

≪アース族≫と書かれた姿は、極々普通の西洋人っぽい姿をしている。特に目立った特徴は見当たらず、≪人間≫って感じだ。


 二人目。

≪アールヴル族≫はリーサさん達の種族のことだ。耳が尖った姿が描かれており、やっぱり≪エルフ≫に見える。


 三人目。

≪ドヴェルグ族≫は、他の人達に比べて頭一個分以上背が小さく描かれており、豊かな髭が特徴的だ。片手には金槌を持っており、私がイメージする≪ドワーフ≫の姿そのものだ。


 四人目。

≪ヨトゥン族≫は、ドヴェルグ族とは反対に、一番大きく描かれている。筋骨隆々なその姿は、≪巨人族≫っぽい。


 五人目。

≪デリング族≫はとても分かりやすい特徴がある。頭上に生えたふさふさの耳と尻尾だ。所謂≪獣人族≫というやつなのだろう。


 六人目。

≪デックアールヴル族≫はアールヴル族と同様に耳が尖っているが、褐色の肌をしている。アールヴル族がエルフなら、デックアールヴル族は≪ダークエルフ≫というところだろうか。



『私たちの先祖は、すべてイグドラシルから生み出された。姿形の違う種族だが、元を辿れば同じ存在から生まれた、いわば兄弟である』


 その記述に、なるほど、と一つ頷く。


 全く異なる種族に見える彼らが同じ存在から生まれたということに一瞬不思議な感覚を覚えたが、地球では多種多様な人種が存在している中、人類の祖先は猿であり、最初の生命体は一つの細胞で出来た単細胞生物だとされているのだ。見た目の違うアジア人も西洋人も、突き詰めれば始まりは人種も何もない単細胞生物。そう考えれば、それぞれ異なる特徴のあるアース族やその他の種族がたった一つの存在から生まれたというのも何となく理解することが出来た。イグドラシルを単細胞生物と同等の扱いにしていいかは分からないけど。



  ペラリ。またページを捲る。


『私たちが普段使っている魔術。魔術を使うために必要なのは≪魔素≫というエネルギーだが、そのエネルギーを放出しているのもイグドラシルだ』


 ≪魔素≫という単語に、私はリーサさんから言われた言葉を思い出した。



 ――魔力枯渇ってのは、魔力の使い過ぎで魔素の器が空っぽになっちまった状態のことさ。魔力は一度枯渇すると、薬を使わなきゃ治らないし、放置しようものなら死に至る。



 リーサさんの言い方だと、魔術に必要なのは≪魔力≫だと思っていたけど、そもそもその≪魔力≫を生み出すのに必要なのが、イグドラシルから発生しているエネルギーである≪魔素≫ということなんだろうか。


 要するに、周囲に漂っている≪魔素≫を何らからの形で吸収し、それを≪魔力≫に変換させることで、≪魔術≫を使うことが出来る……ってことなのかな?

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