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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
20話 戦火の残滓
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#3 Side:A

【#3】


「…………」


 アクセルリスは夜景を見下ろす。

 会議は終わったものの、どうにも帰る気分が起きず、92階の展望デッキからヴェルペルギースの街並みを眺めていたのだ。


〈主〉

「どったのトガネ」

〈これからどうなるんだろうな〉

「……どうにもならないでしょ」


 投げやりな答えにトガネは面食らう。


〈なんだそりゃ……主らしくないぞ?〉

「そう?」

〈主は今何考えてるんだ?〉

「んー……これからのこととか……お師匠サマのこととか……戦火の魔女のこととか」


 夜風を受けて銀の髪が揺れる。


「私は……私は戦火の魔女を殺す」

〈うん〉

「けどそのあと……私はどうなるんだろうって、ふと思ったんだ」


 軽く髪をかき上げ、憂いを眼に浮かばせる。


「今の私は『戦火の魔女を殺す』ことを何よりの目標にしてる。でも、その目標は、私にとってあまりにも大きいものなんだ」

〈だろうな、人生の復讐なんだから〉

「だから怖いんだ」

〈怖い?〉

「大きな大きな目標を達成した後、私は何を目標として、何をして生きるのか、が」


 銀の瞳が映しているのは、少し先の未来と、それよりさらに先の未来。


「私が生きる理由は、まだわかってなかったんだ。ただ眼前の目標ふくしゅうに向かって走ってるだけ、って気付いたんだ」


 脳裏に浮かぶはかつての日々。ただ生きることを生きる理由としていた、残酷そのものだった幼い日の自分。


「だからある意味、戦火の魔女は私に生きる意味を与えた魔女なんだ」

〈……ヒニクだな〉

「でしょ? 今のアクセルリス・アルジェントを作ったのは、お師匠サマと戦火の魔女の二人。すべてを与えた者とすべてを奪ったもの。二律背反の生殺与奪」

〈なんかよくわからなくなってきた……〉


 アクセルリスの思考はトガネの処理能力を超えようとしていた。


〈要するに、戦火の魔女を殺した後のビジョンが見えない、ってことだな?〉

「うん、そだね。トガネも賢くなったね」

〈元から賢いんだよオレは! ……っと、そんなことは置いといて〉

「お、お利口だ」


〈ま、先のことなんてそれこそどうにもならないぜ。その時のことはその時になってから考えればいいさ〉

「まあそれが結論なんだけど……」

〈一人で悩むこともねぇしな。オレも、創造主もいるんだから〉

「……そっか」

〈みんなで見つけていけばいいんだ! オレたちは家族だろ〉


 トガネの言葉に、アクセルリスは心を打たれた。


「家族……私と、お師匠サマと、トガネが?」

〈そうだ。違うか?〉

「違くない……違わないよ……!」


 アクセルリスは俯く。その肩はやや震えている。


〈……主? 泣いて……?〉

「…………ありがとね、トガネ」


 バッ、と夜空を見上げる。その瞳に曇りはなく、どこまでも澄み通った銀が満ちていた。


「よしっ! 帰ろう!」

〈え、急だな!?〉

「お腹空いたからね! これから忙しくなる、お腹は満たしておかないと!」

〈お、おう! 何かすっげーいきなりだけど、いつもの主だな!〉


 影の中に赤い灯火を宿した鋼の魔女は、生命力の導くままに駆けた。


(そうだ──私たちは、家族なんだ)



 そして、抱いた。何よりも残酷で、何よりも強い、決意。


 ──これから待ち受ける過酷な定めを、そして全てを殺し、喰らい、生きる、その決意を。



【戦火の残滓 おわり】

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