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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
20話 戦火の残滓
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#2 Side:G

【#2】


〈────では、これで一先ずの方針は立った。であれば、次に考えるべきは敵。《魔女枢軸》及び《戦火の魔女》である〉


 戦火の魔女。その名を聞き、その場に居た魔女たちは息を呑む。


〈此度の襲撃は魔女枢軸なる者共の行いであるという事が残酷魔女たちによって暴かれている〉


 静まり返った室内に、キュイラヌートの駆動音が控えめに響いている。


〈魔女枢軸。諸君らの中にはこの名を聞きなれぬ者も居るかと思う。ので、ここは先にこの組織の情報を今一度共有する。シャーデンフロイデ〉

「ここに」


 立ち上がったのは残酷魔女隊長シャーデンフロイデ。


「《魔女枢軸》。《戦火の魔女》を中心とした10人の魔女で結成された、外道魔女の組織だ」


 その声は力強かった。まさに、残酷魔女の隊長にふさわしい生命力。


「《頽廃の岡の大戦火》を区切りに、一切の活動を見せてこなかった戦火の魔女。奴が、再び動き出した」


 どよめきが生まれる。無理もない。この場にいる魔女の中にも、戦火の魔女の影響を多かれ少なかれ受けた者も少なくはない。


「現在までに判明している構成員は、《記憶の魔女ゲデヒトニス》《鉄の魔女ゲブラッヘ》《誕生の魔女バースデイ》《剣の魔女バズゼッジ》《死体の魔女コフュン》そして《戦火の魔女》だ」

「このうち、バズゼッジとコフュンは死亡が確認されている」


 と、横からグラバースニッチが付け加えた。


「残りのメンバーも、ある程度の推測はできている。が、無用の混乱を招くのを避けるため、確定情報以外は箝口する」


 一呼吸置いたのち、再び話を始める。


「魔女枢軸の目的は現在のところ不明。だが、あの戦火の魔女が関係している以上、打算的な組織ではないのは明らかだろう」


 シャーデンフロイデの眼はどこか遠くを見通すようで。 


「我々も奴らの目的と戦火の魔女の正体を探ろうと試みてはいるが、なかなか成果が実らずにいる」


 アクセルリスの眼に、曇り気な表情の残酷魔女たちが映る。きっと、アクセルリスも同じような表情をしていたのだろう。


「そんな中、魔女枢軸による《ニューエントラル襲撃》並びに宣戦布告が成された」


 シャーデンフロイデは拳を強く握りしめた。


「これは魔女機関、そして魔女社会にとって危険な状態だ。だが、同時に好機でもある」


 その目に光と炎が宿る。希望と決意の光炎が。


「必ず我々は、戦火の魔女の正体を暴き、そして殺す」


 強く言い切るシャーデンフロイデ。


「それに関して、ひとつ」


 滑り込んで来たのは研究部門アイヤツバスであった。


「私が戦火の魔女について調査を行ったわ。役に立つかは分からないけど、ね」

〈アイヤツバスか。良い、先ずその調査結果を〉

「私からも、是非頼む」


 キュイラヌートとシャーデンフロイデの声を受けて、アイヤツバスはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「今回私は、過去に戦火の魔女が関与したとされる戦争と、今回の──《ニューエントラル襲撃》を比較してみたわ」


 双の資料を取り出す。


「かんたんに総括すると。今回のは、一から十まで全てが魔女枢軸の手によって荒れ散らかされている。彼女たちが総力を挙げて破壊活動を行ったようね」

「ニューエントラルの破壊被害状況から鑑みても、その事実は正しいと言える」

「──対して、戦火の魔女のは……立場上、私がこう言ってしまうのはいささか躊躇いがあるのだけれど……『芸術』ね」


 辺りが不思議な静寂に包まれた。


〈──芸術、とは〉

「戦火の魔女が引き起こしたとされる戦争には、彼女自身の痕跡はほんの僅かしか残っていない。ごくごく最小限の関与で、あれほどまでに大規模な戦争を幾つも引き起こしているのよ」

「奴本人は破壊活動を行っていないという事か?」


 シャーデンフロイデの眼が細められる。


「そうとも言い換えられるわ。そしてこの点から、戦火の魔女の魔法は何らかの精神汚染型魔法と推察できるわね」

〈精神汚染──珍しいタイプだな。使い手ともなれば限られよう〉

「ええ。故に、その正体を暴くのに役立てられるんじゃないかしら?」

〈然り、だな。マーキナー、会議が終わり次第情報を洗い出すように〉

「了解であります! ええ、ええ! わたくしにお任せあれば、数刻もしないほどに!」


 マーキナーは相も変わらぬ情緒で任務を快諾した。


「……私から言えるのはこれくらいね。力になれれば幸いだけど」

「十分すぎる情報だ。提供感謝する、レディ・アイヤツバス」

「貴女の様な魔女にそう言われると光栄よ、うふふ」


 大人の気品にあふれたやり取りを見て、アクセルリスは。


(かっけぇ……)


 と、心の中で欲を吐いていた。

 アイヤツバスが、戦火の魔女の話でやや暗化していた心を癒すのに役立った形となる。


 残酷のアクセルリスがそんな風にしている間にも、シャーデンフロイデは演説を進める。


「──我々は他の部門にも助けを求める。些細なものでもいい。戦火の魔女について何か手掛かり、情報を手に入れたのならば、残酷魔女に一法を頼みたい」


 彼女の言葉を耳にし、アクセルリスは辺りを見回す。大勢の視線が残酷魔女に向けられている。

 だがその中、アイヤツバスの様子に目が行った。


(お師匠様──悲しそう)


 俯きがちなその顔に、残酷は確かに『哀』の感情を読み取った。


 だが、その疑念は、すぐに新たな声によって掻き消された。


「私からもよろしいでしょうか」


 挙手するはキュイラヌートの脇に控える一人の魔女。星見台ネビュラアイである。


「ひとつ、違和感があるのです」

〈許可する〉

「先日……《ニューエントラル襲撃》の際にも、私は星見を行っておりました。そこで魔女枢軸による破壊が始める数分前に、凶兆を見たのです」


 なんてことはない職務の報告。だがキュイラヌートは、確かにその言葉の内より違和感を感じ取った。


〈──数分前?〉

「はい、わずか数分前です」


 その言葉を聞き、集まった魔女たちのうち、一部が疑念の表情を浮かべる。


〈ヴェルペルギースの星々が映し出す未来は遠くて数月後、近くても24時間より後というのがルールだ〉

「それが、今回は違ったのです。映し出したのは『わずか数分先』の未来でありました」

〈──異常だ。前例が無い〉


 キュイラヌートですら経験したことのない事象。総員息を呑む。


「ひいては戦火の魔女の魔法に起因したことであると推察し、過去の戦火を調査する──ことを試みました」

「ですが。ですが結果は芳しくなかった!」


 声を上げたのはマーキナーだった。


「戦火の魔女が引き起こしたとされる戦争、それらが起こる際に星々はどのような予兆を見せていたか! それらがことごとく、削除されていたのでありました!」

「星見台と情報管理官、双方の前任者に確認を取ろうともしましたが……残念なことに、どちらとも故人でありまして」

〈理解した。戦火の魔女に関係する者がその情報を消し、前任者両名をも消した、ということで間違いない〉


 消した。その言葉が含む意味は、それ以上でもそれ以下でもない。


〈つまり。魔女機関の中に、情報の抹消を行った、戦火の魔女に通じる者がいた──あるいは、今もいる〉


 恐ろしい、あまりに恐ろしい宣告。

 それを聞き、眼光を光らせる者がひとり。


〈フネネラル〉

「分かっています。裏切り者の処分は我が使命。必ず逃がすことなく殺めましょう」


 執行者フネネラル。彼女の意志は鋭い。


〈頼んだぞ〉


 総督は己の直属部下たちに的確な指示を与えた。それは、氷のように冷たく。



〈────では〉


 氷の一声。この場にいる皆が冷気を感じ、その身を引き締める。


〈今一度。纏めるとしよう〉


 キュイラヌートの装置が駆動を始める。それぞれに下した令を纏め直し、細分化しているのだ。


〈環境部門。汝らが主となり、ニューエントラルの復興に努めよ。避難所となる施設を優先するように〉

「はい、了解です」

〈防衛部門。依然、ヴェルペルギースの維持に尽力せよ。避難者たちの所在を重視するように〉

「了解だ」

〈医学部門・薬学部門。決して避難者の命を絶やすな〉

「了解よ」

「かしこまりました!」

〈財政部門・威力部門。資金と人員の調整を。厳しい局面となろう。気を引き締めよ〉

「了解」

「ウィ」

〈研究部門。戦火の魔女を覆うベールを剥ぎ取ってしまえ〉

「頑張るわ」

〈法務官。そのままであれ〉

「了解ッ」

〈執行人。これから忙しくなる。覚悟はできているな?〉

「無論です。我が称号に誓い、我バシカルはキュイラヌート様の手足となりましょう」

〈善し〉


 キュイラヌートは一瞬の沈黙へ至り、そして拡声と共に宣言した。


〈これにて緊急会議を終える。各々、己のすべき事を果たせ〉


 強い語気を示しすように周囲が凍てつく。


〈全ては──世界のために〉


 これからの命運を握る、長いようで短い会議が幕を下ろした。


【続く】

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