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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
19話 戦火の兆し
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#4 宣戦布告

【#4】


 仮設拠点。


 既に全員が帰投し、それぞれ休息を取りながら各々の報告を行っていた。


「……ふう」


 アクセルリスもほっと一息。トガネも彼女の影で安らかに眠っている。


「……」


 ゲブラッヘの最後の言葉がいまだ胸に得も言われぬ不安を残しているが、具体的には説明がつかず、ただ燻ぶっているだけ。

 それはアクセルリスにとって十分すぎるストレッサーであった。


「……あー、だめだだめだー」


 自分の頭を叩き、邪念を払う。


「はぁーぁあ。なーんであんな奴なんかに目ェ付けられちゃったんだろ……」


 うなだれる。その答えは既に知っているはずだったが、反芻せずにはいられなかったのだった。


「──ん」


 ふと。

 理由もなく、ただ何気なく振り向いた。


 そこに見えたのはは駅に収まり切らぬ人の渦。

 雑多の喧騒に包まれながらも、必死にそれを纏めようと尽力するディサイシヴはじめ駅員たち。

 だが、人々の勢いは留まることを知らない。

 異常なほどの熱気が、残酷魔女の仮設拠点にまで届いていた。


 そして、アクセルリスはその光景を見て、心の中呟いた。



 ──なんて、美しいんだ、と。



 生けとし生ける全ての命が抱く、最も根源的な欲望。

 『生きたい』という欲望だ。

 それは何にも代えがたき欲求であり、何にも凌駕されない至高の輝き。

 自らの命を絶やさぬため、這いつくばり汚泥を食んででも『生』に手を伸ばす姿は、この世の何よりも美しいものだ。

 だからこそ、アクセルリスは目の前の光景を美しく、素晴らしく、尊いものだと目を輝かせたのだ。



「何か来るッ!」


 幻夢に酔っていたアクセルリスを此岸に引き戻したのはアガルマトの声。


「──ッ!」


 騒然とする一同。緊張が走る。


「強力な魔力反応接近中!」

「魔力だと!? となると──」


 イヴィユが言うまでもなく、『それら』は嵐のように姿を現した。


 残酷魔女たちの上空を大きな飛竜が横切る。

 そこから飛び降りた、5つの影。

 それらは拠点からやや離れた建物の上に着地し、こちらを見据える。


「あいつら……まさか」

「そのまさかだ、残酷魔女諸君」


 声を上げたのは先頭に立つ魔女。その姿は不明瞭。


「私たちは《魔女枢軸》! そして、私はその特攻隊長《誕生の魔女 バースデイ》だ!」


 バースデイ。彼女は高らかに名乗ったのち、振り返り、他の外道魔女を見た。

 しばらくして再びこちらを見た。


「あー。こいつらはシャイだからな、でかでかと名乗ることはしないらしい」

「そんなことはどうでもいい」


 バースデイの言葉を切り捨て、バシカルは剣を向ける。


「何の用だ」

「我/回答」


 返事の声はすぐ近くからした。

 一瞬のうちに、一同のすぐ目の前に出現した魔女。

 外道魔女ゲデヒトニスだ。


「……ゲデ」


 彼女は一瞬、アーカシャに目線を向けたが、直ぐに振り払った。


「テメェら……!」


 息を吐き、野生を剥き出しにするグラバースニッチ。

 他のメンバーも彼女ほどではないが、殺意を露わにする。

 だがゲデヒトニスはどこ吹く風、敵である残酷魔女たちを舐めるように見渡す。


「面白い顔/どいつもこいつも」

「なんだと……? テメェ、挑発しに来たのかァ……!?」

「挑発←否/もっとすごい」


 一同は息を呑む。


「──宣戦布告」


 ゲデヒトニスは極めて冷たい声色でそう言った。

 アクセルリスたちはみな凍り付いたかのように動かなかった。


「そう。宣戦布告さ」


 横からバズゼッジの声。


「これよりボクたち魔女枢軸は、君たち魔女機関、並びに魔女機関が統治するこの社会に全面的に対立する」

「まあ、そういうわけだ。今日のところは挨拶代わりだな。そろそろ撤退させてもらう」


 バースデイが腕を掲げると、無数の飛竜が群れ成して魔女枢軸の魔女たちを包み込み、そのまま飛び去って行く。


「ッ待て!」


 アクセルリスは鋼の槍を放とうと構えるが、シャーデンフロイデに諫められる。


「シャーデンフロイデさん……!」


 抗議の眼差しを向けるが、彼女は押し黙ったまま何も言わない。その表情から感情は伺えない。

 では他の魔女は?

 辺りを見回す。彼女たちは各々違う表情を見せていた。


 アクセルリスと同じように、今にも喰いつきそうなほど鬼気迫ったグラバースニッチ。

 悲しそうな瞳で飛び去って行く一団──おそらくはその中にいるゲデヒトニス──を見るアーカシャ。

 縮こまり、人形の山に埋もれながら震えるアガルマト。

 至極つまらなそうな顔で街を眺めるミクロマクロ。

 悔しそうに歯を食いしばり目を見開くロゼストルム。

 腕を組み、目を伏せ、黙するのみのイヴィユ。




 そんな彼女たちを包むのは相剋する熱。

 命を食らう熱。命を繋ぐ熱。

 彼女たちが立つのは此方側。


 だが。

 どちらが強いかなどは、分からないのだ。


「…………お師匠サマ……」


 未来は炎の中に浮かぶこと無く。

 何者の手にも収まることは無く、ただ戦火へとゆっくりと進み始めていた。



 シャーデンフロイデの、透明なペンダントが、揺れた。


【戦火の兆し おわり】

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