序文
物質主義。
不安定。
色欲。貪欲。
醜悪。
無感動。残酷。
愚鈍。拒絶。
無神論。
十の邪悪。十の聖痕。
相克する二つが互いの尾を噛み合う時、隠された扉は開かれ、災禍は再び舞い降りる。
禍は嘲る様に地を這い、世界は無に。無の世界。
沈め。
掻臥せ。
さもなくば、生きよ。
【残酷のアクセルリス】
常夜の都、魔都ヴェルペルギース。
その中央にそびえ立つ魔女機関本部の塔、クリファトレシカ。
その91階にて。
「ふむふむふむ……ほうほうほう……!」
独り言をどよもしながら、望遠鏡を覗く一人の魔女がいた。
「これはこれは……今日も一層興味深さがある……!」
彼女の名は《ネビュラアイ》。
魔女機関において《星見台》の役職を担当している、いわゆる《キュイラヌート直属》の一人。
では、《星見台》とは一体どのような役職なのか。
簡単に言ってしまえば、それは《星占術師》である。
ヴェルペルギースの夜空を観測し、その星々の鼓動や光輝より運勢、時世、引いては未来を見通すのが《星見台》であるネビュラアイの任務である。
常夜の都ヴェルペルギース。その空は作られた夜空ではあるが、星々の動きは魔女達にも制御できない。
その点を逆手にとった初代邪悪魔女1i《天の魔女ティエラ》が考案したものなのだ。
「なんだこれは……目まぐるしさがある……! かつてないほどに……!」
天を見渡しながら、ネビュラアイは恍惚に満ちていく。
知的好奇心を満たしつつ、魔女機関への貢献ができる。ネビュラアイにとってはまさに天職なのだ。
──ふと、その時。
「……うん? おやぁ?」
その動きがピタリと止まる。ある一点を見つめたまま。
「…………悪い」
小声でこぼす。その声色は震えを帯びていた。
「これは……ヤバ……さがあるんじゃ……?」
上昇したボルテージは一瞬のうちに最低値へと塗り替えられる。
冷汗が止めどなく流れ出す。
「何か……何か起こる……!」
【2章 破曲:戦火の魔女】