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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
18話 レッツパーティーメイク!
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#4 鋼の軌跡、至るまで

【#4】


 ──しばらく時間を巻き戻し、アクセルリスの軌跡を辿ろう。



 カイトラに放り投げられたのち。


「あぎゃーっ!」


 無様な声を上げながらも、着地はカンペキなアクセルリスだ。

 重々しい大地との触れ合いは彼女の体に激震をもたらす。

 その衝撃で影の住人も目を覚ました様子。


「うう、足がしびれるっ!」

〈な、なにがあったんだー!?〉

「おはようトガネ! 私にもわからない! なんかいきなり投げられた!」

〈主なにしたの!? なんか怒らせるようなことしたのか!? 出世が危ういぞ!?〉

「別に私は出世に興味ないし!」


 魔装束の砂埃を払い、落ち着きを取り戻す。


「なんかね、敵が出たの。そしたらいきなりカイトラさんに投げられた」

〈敵が? ますます謎だな、一緒に戦えばよかったのに〉

「うん、だからすっごい困惑してる今」


 魔女と使い魔、両者の頭には『?』が浮かぶのみ。


「まあ、考えてても始まらないし、とりあえず合流しよっか」


 歩きだそうとしたアクセルリスを制止するトガネ。


〈……っと待て、なんか──いる〉

「え?」


 アクセルリスも何かを感じ取り、振り返る。

 その直後。


「SSHHYYYYYYYRRRRRRR!!」


 茂みを散らして現れたのは大蛇だ。

 それもただの蛇ではない──腹部が異様に肥大化した、その存在は。


「え……《テテュノーク》!?」


 そう。最も凶暴な蛇と恐れられている魔物、テテュノークである。

 それも今回の個体はやたら大きい。

 極めつけは、その体色。ドギついピンクの鱗は迷彩など必要ない、という王者の衣か。


 ──いずれにせよ、その姿はアクセルリスの背筋を凍らすのに十分だった。


「よし逃げよう」


 アクセルリスは迷わず逃げた。が。


「SYAARRRR!!」

〈おい! 奴さん、追っかけてくるぞ!〉

「ナンデ!?」

〈わからない! とにかく走れーっ!〉

「なんでこんな目にいいいいいいっ!」


 泣き言を撒き散らしながらも、アクセルリスは走った。





 どれだけ走っただろうか。


「だああああああっ!」


 必死のアクセルリスが飛び出したのは、二人の魔女が睨み合う戦場。


「あら、アクセルリス。速かったわね」

「シャーカッハさん!?」


 転がり着地の後、立ち上がる。すぐに状況確認。

 余裕そうにに立ち振る舞うシャーカッハ。

 そして、それとは対照的な傭兵魔女。肩で息をし、その眼は焦点が定まってない。


「あれはたしか……スカーアイズ」

「ッ!? わ、私の名を呼んだのかァーッ!?」


 彼女はアクセルリスの声に過敏な反応を見せる。


〈……何か様子が変だな〉

「シャーカッハさん、何かしたんですか?」

「さあね? ほら、余計なこと考えてる暇はなさそうよ?」


 見るとそこには、あからさまに危険な武器を振りかざし迫るスカーアイズ。


「アアアアアアアアッ!」

「うっわーあっぶないッ!」


 大振りな一撃を前転で躱し、臨戦態勢を取る。


「なんだあの武器!?」

〈ヒエッおっかねー……〉


 既にこの傭兵に正気は無いようだ。


「ハァーッ……逃げるなァ!!」


 迫り来るスカーアイズ。


「あれはやばいな……内側から崩すか」

 即座に戦術を判断し、指令を出す。

「トガネ! 解析!」

〈合点承知!〉


 トガネは全ての感覚を眼に寄せ集める。

 放たれる赤い光は《暴力》を照らし出し、その内部の精密部分を把握する。


〈読めたぜ!〉

「速い! さすがは私の使い魔ね!」

〈アレはオレに任せろ!〉

「了解ーッ!」

 アクセルリスは親指大の鋼塊を生み出し、その影にトガネを宿らせる。

「いってらっしゃい!」

 そしてそれを弾丸のように撃ち出した。

「小賢しい……小賢しいいいいいいッ!」

 吼えるスカーアイズ。《暴力》を振り、鋼を弾く。

 だが、トガネの制御下に置かれた鋼は極めて精密な挙動を取り、その内部に入り込む。

「何……!?」


 鋼に宿ったトガネはある一点目がけてただ突き進む。

〈捕らえたぜ! 歪みの一点を!〉


「……だからどうしたあああああッ! お前は、死ねええええええええッ!」

 悍ましい音を立てながら《暴力》が振り上げられる。

 だがアクセルリスは動じない。トガネを信じているからだ。

「ああああああッ!」

 《暴力》が最高点まで達した、その時だった。

 その呻き声が、変わる。

「な……あッ!?」

 それにいち早く気づいたのはスカーアイズであった。

「貴様……何を!?」

 アクセルリスは答えなかった。否、答える必要が無かった。

 《暴力》は嫌な軋み方をし、やがてその駆動が止まる。

「バ……バカなァッ!? 私の……暴力が!?」

「へん! おまえの暴力とやらも、大したもんじゃなかったってことね」

〈そうだぜ!〉

 赤い光が舞い戻る。

〈複雑な機構が複数絡み合ってる分、崩すのも簡単だったぜ!〉

「だ、そうだよ」

 アクセルリスの顔は嘲笑の色に染まる。恐らくトガネもだろう。


「ふ……ふざけるなあああああッ!」

 スカーアイズは空しく吼える。

 動きが止まろうと知ったことではない。磨り潰してしまえばすべて同じもの。

 力任せに止まった《暴力》を振り下ろした。


 ──が。


「ふん!」


 最大の特長である残虐駆動が失われた今、これは単なる棒に過ぎない。

 ゆえに、鋼の拳に軽々と砕かれてしまうのだ。


「──」


 隻眼は言葉を失う。


「残念ながら、私の暴力の方が強かったみたいだ」

 そう言って笑みを見せる鋼の拳にキズはない。


「──アアアアアアアアッ!」

 スカーアイズは叫んだ。もはや、全てをかなぐり捨てるほかない。

 《暴力》を投げ捨て、その身一つでアクセルリスに迫る。

「散れえええええッ!」

 自らの魔法により躱されることは無いが、ダメージを逃がすこともできない。まさに諸刃の、頭突き攻撃。


 だが。


「おらあッ!」

「ぐあ……ッ!」


 強くよろめいたのはスカーアイズだった。


「そっちから来てくれるなら好都合だ!」


 敵が突っ込んでくるのならば、真っ向から突き返す。それがこの魔女、アクセルリスである。


「あ……」


 元々捨て身で突っ込んだ一撃。真逆からの強烈な一撃との力が合算した場合の威力は、想像したくもない。


「あ」


 白目を剥き、額からは流血。

 そしてそのまま倒れ伏す。無事気絶である。



「ふぃ、いっちょあがり」

〈おっつおっつー〉


 一息つくアクセルリス。そんな彼女にシャーカッハが歩み寄る。


「お疲れ様、アクセルリス。助かったわよ、私も有効打が無かったから」

「あ、いえいえ。私もテテュノークに追われてたまたまここに来ただ……け……」


 ふと、アクセルリスは脳裏に引っ掛かるモノを摘み上げる。


「……そういえばシャーカッハさん、さっき『速かった』って言って……」

「あら、やっぱり目ざといわね貴女は」


 シャーカッハはいつものように、不敵そうにクスクス笑う。


「ええそうよ、あの子──テテュノークは私の使い魔」

「え、えええ」


 驚愕のアクセルリス。


〈俺たちをここに連れてくるように仕向けたのか……?〉

「賢い使い魔ね。流石はアイヤツバス謹製」

「回りくどすぎでは?」

「といってもねえ、伝気石も持ってなかったし、この位しか手はなかったのよ……っと」


 言葉を中途で切り、シャーカッハは髪を掻き上げる。


「お喋りが過ぎたわね。次はケムダフの番」

「そっか、ケムダフさんも同じ状況ですもんね」

「というわけで……ほら」


 振り向くシャーカッハ。アクセルリスもそれに倣い振り向くと。


「え゛」


 いつの間にかそこに立っていたのは三つ首の大狼。

 即ち《カーバロソ》である。


「ウソでしょ……」

「じゃ、気張ってね~」


 がっくりと肩を落とすアクセルリス。シャーカッハは楽しそうな表情で手を振る。


「…………GUGGOOOOOO!!!」

「もうやだあああああーっ!」


 カーバロソに追われるように、再びアクセルリスは駆けだした。





 どれだけ走っただろうか。


「どああああああっ!」


 必死のアクセルリスが飛び出したのは、二人の魔女が睨み合う戦場。


「お、きたきた」

「ケムダフ……さん……」


 滑り着地の後、立ち上がる。肩で息をしながら状況確認。

 余裕そうにに立ち振る舞うケムダフ。

 そして、それとは対照的な傭兵魔女。目を大きく見開き、その呼吸は荒い。


「あれはたしか……インペール」

「追手か……!? この状況デ……クソ、ツいテイない……!」


 後ずさるインペールを見て、トガネは呟いた。


〈さっきの奴よりは落ち着いてそうだな〉

「だね。ま、いずれにせよぶっ飛ばすだけだけど」

「そりゃ頼もしい。じゃ、よろしくぅ」

「はいっ!」


 ケムダフに背を押され、アクセルリスは駆け出す。


「ハァァァー……ッ」

 バシュッと音を立ててインペールのマスクが開く。

〈何か来そうだ、気をつけろ!〉

「言われんでも!」

 迷うことなく、真正面から突っ込む。

「バカめ……ヨいカモだ……!」

 インペールは目を大きく見開く。

 そして、次の瞬間。

「シャアッ!」

 その口内から、神速の貫舌が伸びる。

「うおおっ、速!」


 音を突き破るほどの速度を誇るインペールの舌。まさに一撃必殺の舌技。


 だが、影の眼はそれよりも上手だった。


〈見切ったぜ!〉

 アクセルリスは迫りくる舌を、極めて最小限の動きで躱した。

「ナニ!? バカナ!」

 己の必勝戦術が破られたインペールは、狼狽しながらも舌を巻き戻す。

 が、その動作は既に遅きに失していた。

「逃がさないよ!」

 舌は帰路の途中でアクセルリスに掴まれ、その動きを止める。

「ウげッ!」

 えずくインペール。舌を思い切り掴まれたのだから無理もない。

「確かに優れた武器だね。でも……」

 アクセルリスは容赦なく舌を引っ張る。

「弱点でもあるという点はナンセンスだ!」

「ウエゲゲゲゲーッ!」

 さらに激しくえずく。その体は痙攣し、眼からは涙が滲み出す。

「楽にしてあげる! トガネ!」

〈合点招致!〉

 赤い光は伸びた舌の影を伝い、インペールの影に侵入し、その動きをさらに束縛する。

「ア、アアアやメロ!」

「痛いのは一瞬だから! 力抜けよ!」

 舌を放り投げ、アクセルリスは全速力で迫る。

「う、う、あああアアワアアアアああ!」

「どっせーいッ!」


 アクセルリスが選んだ攻撃は、頭突きだった。

 鋼のように固い意志を映したかのような一撃は、インペールの頭を強く揺らし、そして気絶させる。


「あ……」


 額から血を流し、無様に白目を剥く。

 トガネが開放すると同時に倒れる。無事気絶である。


「よっし、いっちょ上がり!」

〈……頭突き、気に入ったのか?〉

「ん? まあねー。なんか、すごい強烈な一撃をぶちかましてる感じがして、好い」

〈おおよそ魔女の発言とは思えないな……〉

「えっ今更じゃない?」


 一息つくアクセルリス。そんな彼女にケムダフが歩み寄る。


「アクセルリスおつかれー。いやあ悪いね、わざわざ」

「いえいえ。にしても、もう少しまともな案内の方法はなかったんですか?」

「なかった!」

「断言!?」

「いやぁ、ねえ。シャーカッハから聞いたと思うけど、これが今は最善だと思ったのよ……っと」


 言葉を中途で切り、ケムダフは帽子を深く被り直す。


「私の話はこの辺にして。次はカイトラだね。あの子のことだからあまり心配することはないと思うけど」

「……これ、まさか」

「そのまさか、かもね」


 振り向くシャーカッハ。アクセルリスもそれに倣い振り向くと。


「……」


 いつの間にかそこに立っていたのは巨大な触腕。


「カイトラの体の一部だね、これは」

「…………」

「じゃ、気張ってね~」


 がっくりと肩を落とすアクセルリス。ケムダフは嬉しそうな表情で手を振る。


「ちくしょおおおおーっ!」


 触手にに追われるように、再びアクセルリスは駆けだした。


【続く】

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