#1 スリー・マジア・レイド
パーティーメイカーズ。
邪悪魔女の夜会の際に供される晩餐を選ぶ、グルメな一団。
まさに魔女機関でも最高の食通達。
夜会では彼女たちの舌を悦ばせた逸品が並ぶのだ。他の邪悪魔女たちを愉しませる為に。
そして、今回、アクセルリスはその任務に同行させて貰えるという。
当然、食いしん坊なアクセルリスにとっては最高の任務。
「……だのに」
嬉々として魔行列車に乗り、上の空で3人に着いてきたのだが……
「だのになんだこの状況はーッ!」
【レッツパーティーメイク!】
【#1】
叫ぶアクセルリス。彼女が置かれた状況。
すぐ側にはパーティーメイカーズ、即ちカイトラ、シャーカッハ、ケムダフの三人。
そして、彼女たちを包囲する三人の魔女。
「ここから先には行かせぬよう、依頼主から言われておるんでな」
「お前達がこの先の《ブツ》に接触するのは見過ごせない問題らしい!」
「というワケで。邪魔しに参ッタ」
ただ者ではない雰囲気を放つ三人組だ。
「犯罪者共が雁首揃えて、私たちに何の用かしら?」
「犯罪者ではない。我々は傭兵。金づくで仕事を請け負う孤高の仕事人だ」
「あら、そうなの? これは失礼」
口元を隠し微笑むシャーカッハ。その脇でケムダフは首をかしげる。
「傭兵制度って魔女機関で認可されてたっけ?」
「されていない、とイェーレリーは言っていたハズだ」
カイトラはそう答えた。
「じゃあ犯罪者じゃない! やっぱり私の審美眼は凄いわねぇ」
「ちょっとちょっと!? 傭兵に疑問を抱いたのは私なんだけど?」
「それに回答したのはわたしだが」
「……」
「……」
「……」
三者とも笑顔を張り付けたまま剣呑な雰囲気に満ちてゆく。
そして、アクセルリスがそれを裂く。
「こんな時にそんな事言ってる場合ですかーッ!?」
あまりに呑気すぎるパーティーメイカーズにアクセルリスは頭を抱える。
「そうね。ここは仲良く、いつも通り、三人みんなの手柄ってことにしておきましょう」
「そうだね。連帯責任!」
「待たせたな。では、名乗れ傭兵ども」
三人の眼つきが変わる。
その様子を見たアクセルリスは。
(何なのこの人たち……オンとオフの切り替えがすごい)
「では。お言葉に甘え、自己紹介を」
正面の魔女が仰々しく一礼する。
「我が名はゼットワン。《領域の魔女 ゼットワン》なり」
一行の正面に立つ、メガネの魔女。
「《隻眼の魔女 スカーアイズ》! 覚えておけ!」
右後方に立つ、左目に眼帯の魔女。
「《貫徹の魔女 インペール》ダ。まァ、よろしク頼ム」
左後方に立つ、口元マスクの魔女。
計三人の魔女に囲まれていた。
「貴様らは完全に包囲されているッ! 容易に私たちから逃げられると思うなよ!」
高らかに吠えるスカーアイズ。だが三人は一抹の興味も持たず。
「声でっか」
とカイトラが呟くのみであった。
「まァ、死ぬカ戦うカだ。いずレニせよ、腹は括っテ貰う」
「腹を括る? 笑わせないで欲しいわねぇ」
「何が言いたい?」
「私たちは気高き邪悪魔女。いついかなる時も覚悟を緩めたときなんてないのだけれど」
「お前らみたいな泥臭い違法傭兵共とは背負ってるものが違うってことだね」
「然り。腹を括るのはきさまらの方だ」
決然と言い切る三人。アクセルリスは内心で。
(かっ、かっこいい~)
と感動していた。
「私たちに覚悟を問うか。面白い」
「ならどうする? どうするってんだッ!?」
「始めルカ? 殺し合いを」
「ふん。それもまあやぶさかではないが」
カイトラはそう言いながら、流れるようにアクセルリスの脚に触手を絡ませる。
「ぅえっ!?」
「あとで、また会おう」
「なにおおおおおおおおおおーっ!?」
言い終わるも早く、触手はアクセルリスを後方に遠く遠く放り投げた。
「おやおやおや貴女。おのずから仲間を減らすと? 正気か貴女?」
「狂っている──はじめからな」
そう言いながらカイトラは、シャーカッハとケムダフの体にも触腕を伸ばしていた。
「お前達も、あとでな」
「ええそうね。少し一人になりたかった気分だし?」
「私も私もー!」
二人を左右に投げる。その姿はすぐに点になる。
「逃がすな!」
ゼットワンの号令の元、二人の傭兵は空を舞う二人の邪悪魔女を追った。
【続く】