#? 慟哭する怨嗟
暗黒の中。
(────ク。ク。ク。危ない所だった。が)
プレゲーは生き永らえていた。何処までもしぶとい魔女である。
(ここは。誰の中か。いや。誰でも良い。誰にせよ。次はこの者に感染し。再び日の光を望む)
昏い昏い精神の中、プレゲーは更に深くの闇を目指して沈んでいった。
(この者の深層心理を掌握し。水面下に。秘密裏に。この者を蝕む。それこそが我。プレゲーなり)
直ぐに奥底へと辿り着く。深層心理の最下部。その本人ですら知り得ない、本能に最も近い部分。
(ここを鑑賞するのもまた楽しみの一つ。さて。この者はどのような本能を宿してい────)
『それ』を見たプレゲーは凍り付く。
(──なんだ。これは)
何処までも邪悪な、赤と黒に塗れた悍ましい世界。
プレゲーは逆に己の精神が蝕まれていく感覚を味わっていた。
(なんだ。なんだ。なんなんだこれは。これは!)
虚空から大量の眼球が出現し、その全てが同時にプレゲーを睥睨する。
(やめろ。見るな。見るな! 私を見るな!)
怯えるプレゲーの周囲に、赤黒い邪悪が渦巻いてゆく。
(なんなんだこれは……恐ろしい、悍ましい! こんなもの……この世に在ってはならない……!)
邪悪がプレゲーを覆い、取り囲む。
(あ……あ……)
そして、飲み込む。
「うわああああああああーーーーッ!!」
◆
◆
「…………あら」
アイヤツバスは髪を掻き上げ、振り返る。
「お師匠サマ?」
アクセルリスが心配げに振り返る。
「どうかしました? まだ何か残ってるとか?」
「……いいえ、なんでもないわ」
〈なら早く帰ろうぜ! オレももう腹ペコペコだ!〉
「何でトガネが?」
〈あるじのことが心配で心配で、気付いたらすっげー腹減ってた!〉
「あんた、そこまで私の事を……!」
〈……へへっ。ほら、創造主! 行こうぜ!〉
「……ええ、そうね」
彼女たちは楽し気に並んで歩いて行った。
心の中で、呟いた。
(貴女みたいな、ウィルスのように矮小な魔女が、私を飲もうなんて……笑っちゃうわね)
「……フフ」
アイヤツバスは微笑んだ。
その瞳の色は、未だ分からぬまま。
【ミスティク・イノセント おわり】