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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
17話 ミスティク・イノセント
73/277

#3 隠されし兵器、隠されし闇

【#3】


 そうして、ケイトブルパツ駅へと辿り着いた。


 アクセルリスはまず手始めに、魔行列車の運行を執り行う、魔列社の代表──《鉄道の魔女》ディサイシヴへの接触を図った。

 彼女はすぐ見つかった。


「ディサイシヴさんッ!」

「おや!? おや、貴女はアクセルリス殿! こんばんはですね、わたくし──」

「はじめましてじゃないです!」

「──おっと。以前お会いしていましたね、これは失敬!」


 普段と変わらず飄々としたディサイシヴだが、その呑気さが今のアクセルリスには腹立たしい。


「本日はどのようなご用件で?」

「魔行列車を出して欲しい! 特急で!」

「行先はどちらまで?」

「どこでもいい!──じゃない、エントラッセまで!」

「承りました! それでしたら……第9ホームにお越しくださいませ! わたくしは一足先に向かっておりますので!」


 ディサイシヴは足早に立ち去った。準備があるのだろうか。


 いずれにせよ、助かった。

 アクセルリスは胸をなで下ろす。だがまだ油断は出来ない。

 細心の注意を払いながら第9ホームへと向かった。



「……」

 幸い何事もなく、無事に第9ホームへ降り立ったアクセルリス。

 周囲に人はおらず、どこか寂れており、まるで長年使われていないような感じである。

 アクセルリスはどこか既視感を覚えたが、四の五の言っている場合ではない。


「ディサイシヴさん」


 ディサイシヴはそこに一人ぽつんと立っていた。

 アクセルリスに背を向けたまま、何も言わずに。


「あの……」


 先程とは真逆なその様子に、アクセルリスも不安を覚える。


 そして近づいた、その瞬間。


「──ッ!?」

 何かを感じ取り、咄嗟に展開した鋼の盾。


 そこに鋭く重い衝撃が走り、砕ける。

「な──な」

 アクセルリスが見たのは、『何か』を構えるディサイシヴの姿。どうやら盾を砕いたのはその『何か』から放たれた物らしい。


「銃……!?」


 そう。それは『銃』。魔女機関が開発を進めている、最新鋭の兵器。

 アクセルリスの脳が渦を巻き混乱する。


「何故あなたが持って……いや、それよりも何故、私の命を……!?」


 ディサイシヴはゆっくりと顔を上げる。


「二つ──ウソをついていました」


 その眼は呑気な駅員のそれではない。

 殺す者──『残酷』な『魔女』の眼光である。


「なぜわたくし──いや、私が銃を持っているか。至極簡単なことだ。これは、『私が生み出したもの』なのだから」

「……は?」

「困惑するのも無理はない」


 ディサイシヴは銃を投げ捨てる。それは手を離れるとすぐに消滅した。


「順を追って説明しよう」


 ゆっくりと歩き始める。アクセルリスは警戒心を最大限に研ぎ澄ませる。


「一つ目。私、ディサイシヴの称号は偽造されているもの。《鉄道の魔女》というのは先代魔列社代表の称号」

「……称号の詐称は魔法律によって禁じられているはずじゃ」

「未認可ならばな。残念ながら私の場合は、魔女機関によって認められている」

「いったい……あんたは何者なんだ……!」

「私の本来の称号は《兵器の魔女》。兵器を生み出す魔法。作り出される兵器は、時代の最先端をゆくもの。まだ誰も目にしたことが無いもの」

「その魔法で……銃を生み出し……魔女機関に提供したと……?」

「そういう事だ。まあ、原理は私にも分からない」


 歯噛みする。疑念はまだ付きない。


「なら──なんであんたが私を? どこから情報を得た……!?」

「二つ目。私の真の職務は魔列社の代表などではない」

「なら何」

「──《残酷魔女》だよ」


 アクセルリスは一瞬、がくんと脳を激しく揺さぶられるような感覚に墜ちた。

 その思考回路はオーバーヒートが近い。次から次へと襲い来る情報の波を捌き切れない。


「……どういう、ことだ」

「表立っては、隠居した先代の代理としてこの社の代表を名乗っている。だがそれは仮初の器。本当の私──残酷魔女としての私は、各駅を管轄し、魔都から逃亡する外道魔女を処分すること」


 新たな銃口を向け、言い放つ。


「そう。お前のような」

「ッ──」


 破裂音が響く。ディサイシヴは一切の躊躇なく発砲した。


「小癪な……鉛玉ごときで……!」


 銃弾は鋼によって弾かれる。


「悪いが私は加減を知らない。他の奴らとは違って、本気で殺しに行く」

「…………殺れるもんなら……」


 鉤爪を生み出し駆け出す。


「殺ってみろよッ!!!」

「よく吼える」


 ディサイシヴは撃っては捨て、撃っては捨てを繰り返し、止め処なくアクセルリスを圧する。

「効か……ねえッ!」

 だがその程度で止まるアクセルリスではない。今の状態ならば猶更。

 時に躱し、時に弾き、ディサイシヴの目前へと迫った。

「死ねええッ!」

「いや。死なない」

 鉤爪は銃身によって止められる。

 そして、もう片手に持つ銃が火を噴く。

「ッ!」

 咄嗟に身を躱したおかげで、掠り傷で済んだ。

 が、そんな事を安堵している間もなく、ディサイシヴは仕掛ける。

 空になった銃をアクセルリスに投げつけ、その間に新たな銃を生み出す。

「クソッ! 油断も隙も無いッ……!」

「これが伝承に伝わる《二段撃ち戦法》だ」

「知らねえよ! そんなもん!」

 本能のまま、思うがままに暴れるアクセルリスに対し、ディサイシヴはどこまでも冷酷に緻密に戦闘を構築していた。

 だがアクセルリスの本能も腐ったものではない。致命の弾丸を的確に弾き、貪欲に敵の心臓を狙っていた。

「逃げんなッ!」

 弾丸を撃ちながら後退するディサイシヴを、アクセルリスは何処までも追いかける。

「GAAAAAAッ!」

 もはや理性をかなぐり捨て、獲物の首筋に噛みつこうと迫る姿は獣そのもの。

「そんな野獣に、私たちが後れを取るわけがない」

 銃を用いた防御姿勢。アクセルリスは眼に映った銃に迷うことなく噛みつき、一瞬の内にそれを砕く。

「化け物か」

 銃を失った右手でアクセルリスの首を掴む。

「AAAAGGGHH!」

 首に手が伸びた瞬間、その腕を逆に掴み返し、爪を食いこませる。

「ッ。痛いな」

 ディサイシヴの表情がやや硬くなる。

(出血する前に、反撃を)

 左の銃床でアクセルリスの頭を打った。普通ならば、気絶してもおかしくはない強さで。

「……」

 だが。

「なんだ……なんだよ……ッ!」

 アクセルリスは全くブレることなく、どこまでも残虐な眼でディサイシヴを睨んでいた。

(まずい)

 ディサイシヴは咄嗟に手を離す。それとほぼ同時にアクセルリスもまた手を離した。

「AAAGGGGGGHHHHッ!」

 闇雲に振るわれた左腕が銃を捕らえる、と同時に握り潰す。

「潰す……潰す……! 何もかも……ッ」

(まずい。うまくない。これ以上は──)

 ディサイシヴには一つの懸念があった。

「どこ……見てんだよ」

「お前だ。お前の中の」

 それは、『アクセルリスが目覚めること』だった。

「はああああァァァァアアアア……」

 深く深く息を排気する。

「ワケわかんねえこと……言うんじゃねえ」

 そう言った直後、床に凹みを残し、アクセルリスが消える。

(後ろか──)

 殺気で位置を感じ取る。

 振り返るも、既にアクセルリスは攻撃態勢に入っていた。

「──」

「AAAGGGGGGGHHHッッ!」

 獰猛に振り被られた腕がディサイシヴを穿つ、その寸前。

「なあッ!?」

 その右腕は虚空に固定される。

「ぐ、ううううッ!」

 力任せに振り解こうとするも、その拘束は異常なまでに固い。

「ち……いィ!」

 砕けてしまうのではないかと思うほど、強く歯軋りする。

 そして、アクセルリスはその時気付いた。

 拘束は自身の四肢全てに施されていることを。


「しまっ──」


 気付くも遅く。身動きできず、無防備を晒す。

 そして、それを待っていたかのように、無数の黒い魔法陣が出現し、アクセルリスの身体を縛り上げる。

「う……あアッ!」

 もがくが、抜け出すことは不可能だった。


「やっと来たか」

 ディサイシヴは階段の方を見やる。

「!」


 そこから現れたのはいくつかの人影。


「あ……あ」

 アクセルリスの全身が絶望に包まれる。


「そこまで。大人しくしてもらうわね」

「お……お師匠……サマ……!」


 メガネの下の目は相変わらず微笑んでいた。冷たく、あるいは熱く。


「今日の夕飯を考えていたのだけれど、こんなことになるとはね」

「突然のお呼び出し、失礼いたしました」

「いいのよ、気にしないでね」


 アイヤツバスだけではない。シャーデンフロイデ、フネネラル、ミクロマクロ、そしてトガネまでもが集っていた。


「そ……そん、な」


 もはや冷や汗すら乾き切り、砂漠に放り出されたかのような乾燥感がアクセルリスを抱擁する。


〈あるじ……〉

「全員集合、だね、これでもう流石に逃げられないんじゃないか?」

「ミクロマクロの言う通り。お前はここで終わりだ」


 シャーデンフロイデが克明に宣言する。


「────疫病の魔女プレゲーよ」


【続く】

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