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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
15話 うろゆめの 想いを手繰る 人形師
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#1 人形と糸

【うろゆめの 想いを手繰る 人形師 #1】


 クリファトレシカ98階、残酷魔女本部。


 薄暗い部屋。

 ソファで横たわるのはミクロマクロ。

 そして、そのソファの陰に佇むのは残酷魔女中最も小柄な魔女、アガルマトである。


「フ、フフフ……フフ」


 彼女は人形を弄りながら不気味な笑みを浮かべていた。傍から見れば呪いの真っ最中か何かと勘違いされるだろうか。



「フフ……西……クリア……東……クリア……南……クリア……北…………ァ?」


 声と手が同時に止まる。


「北ぁ……北ァ……」


 再び発せられた声は震えていた。何があったのだろうか?



「……アガルマト」

「ひゃァぁ!?」


 振り向くと、ミクロマクロが顔を覗かせていた。また狸寝入りか。


「……何が見えた?」

「……」

「……そうか」


 腕を組み、再び横になるミクロマクロ。


「シャーデンフロイデもアーカシャもいないし……どうしたものか」

「ゥ私たちだけで、なんとかしないと」

「それは分かってるよ。ただ、どうするのが最も良い手なのかを考えなきゃいけない」

「ゥぅゥ、そうね……」

「……さて、どうしたものか」


 ミクロマクロが黙考に入ろうとしたとき、部屋のドアが開かれた。


「おはようございます! アクセルリス、ただいま参上しました!」



 嵐のように現れた銀の瞳を見て、ミクロマクロはニヤリと笑った。


「……ナイスタイミング……!」


「……へ?」

 アクセルリスには何が何だか分からなかった。





「どういう状況ですか?」


 ソファに腰掛けるアクセルリス。向かいにはミクロマクロが横たわり、肘掛けにはアガルマトがちょこんと居る。


「隊長もアーカシャさんもいないですし、何が何だか」

「二人は今日オフだからね。私とアガルマトで留守番してたのさ」


 アガルマトはこくこくと頷く。


「ははぁ、なるほど。それで、何が『ナイスタイミング』なんですか?」

「シンプルな問題! 人手が欲しかったのさ」

「……結局いつものですか」


 アクセルリスはため息つく。ここ最近残酷魔女は人手不足に悩まされている。


「さっき、アガルマトが北エリア──つまりテテュノーク地区で異変を察知した」

「といいますと」

「反応が、無かったの」

「反応?」

「私は、人形の、眼が見えるの」

「……?」

 アクセルリスの頭上には疑問符。


「うぅゥぅゥ。ミクロマクロ、説明して……」

「はいはい。アガルマトは人形の魔女。人形を使役する魔法を操るのさ」


 頷きながら人形をぎゅっと抱きしめるアガルマト。

 アクセルリスも度々浮遊する人形を目撃していたため、その事実にはうすうす気付いていた。


「その魔法を使って、魔都中に人形を配置・巡回させて警備を行っている。それがアガルマトの役割なわけ」

「魔都中の人形を同時に操って監視を?」

「そういう事だねぇ」

「……ちゃっかりすごくないですかそれ!?」

「すごい、よ!」

 アガルマトはいつになく自慢気。小さな体を精一杯ふんぞり返らせる。


「……で、今日も元気に巡回してたのよ。そしたら、テテュノーク地区に配置していた人形からの反応が無かったらしい」

「ジャミングを受けてるってことですか?」

「いや……そんなものじゃない……『壊されている』わ……」

「ヒェッ、酷い話だ」

「当然エマージェンシーだ。だがアガルマトはここを離れることが出来ない。かといって、私一人での調査には限度がある」

「……ははあ、なるほど。話が掴めてきましたよ」

「察しが良くて助かるよ。というわけで、北部テテュノーク地区へ調査へ向かう」

「了解しました!」


 立ち上がる二人。何が起こっているか不明瞭な以上、求められるのはなるべく迅速な行動である。



「じゃ、行ってくるよ。留守番よろしくね」

「気を、付けてねぇェぇ」

「アクセルリス、出陣します!」


 アガルマトは手を振り二人を見送った。

「……わたしも、手伝わなきゃ」


 ソファの陰に戻り、人形を手繰り始めた。





 家々の屋根を走る二人。


「どのあたりの人形が潰されているんですか?」

〈〈か、片っ端から潰されているわ……既に20体……〉〉


 伝輝石からアガルマトの声が響く。


「酷い話だ……しかしそうなると面倒だな」

「目星が付けられないですもんね……」

「仕方ない、しらみつぶしをするしかないな」

〈〈ぅ、私も援護するわ。生き残った人形を、そちらの周囲に侍らせるわね〉〉

「助かります!」


「よし、気張ろう!」

「はいっ!」


 集まってきた5体の人形を引き連れ、二人はなお駆けた。



 しばらく経って、アガルマトからの通信が入る。


〈〈ぅゥぅ、二人とも、聞こえてる??〉〉

「アガルマトさん」

「聞こえてるよ。何かあった?」

〈〈わかったことがあるわ、ぃ色々と〉〉

「僥倖僥倖。是非とも教えてほしいな」

〈〈ひとつ。東エリア、すなわちケイトブルパツ地区の人形が、ロストしはじめた〉〉

「な!」

「ということは」

〈〈そう。人形を壊した者が、北から東に移動した〉〉

「了解。我々もすぐに向かおう」


 進路を変えるミクロマクロ。アクセルリスはそれに追従しつつ、アガルマトに尋ねる。


「二つめは?」

〈〈ふたつ。人形たちがロストした原因。壊された方法が判明した。それは『首の切断』よ〉〉

「む、むごい」

「なるほど。人形に姿を察知されることなく、その首を撥ねた、と」

〈〈なかなかの使い手であることは間違い無いわぁァぁ〉〉

「理由が読めませんね……人形だけを狩る動機が分かりません」

「それは本人から聞けばいいさ! さ、急ごう!」

「はい!」



 アガルマトの人形は各地区に25体ずつ、計100体の体制で運用されている。


〈〈なぜ移動したのかしらぁ……やっぱり数のキリが良すぎてバレたのかしらァ……〉〉

「考えすぎだ、アガルマト。残った人形で何か確認していないか?」


 5体の人形は、二人からやや離れた所で衛星軌道周回していた。


〈〈めぼしいものは見えないわ……大道芸人や露店くらいしか〉〉

「こっちではありふれた光景ですね……どこにいるのやら」


 ヴェルペルギースの東側に当たるケイトブルパツ地区。

 ここは他の地区と比較して広場的空間が多く、客引きを狙って様々な団体や組織が所狭しと縄張り争いを繰り広げている。

 そのため、四つの地区の中で最も活気に満ちており、利用者もケイトブルパツ駅が最多である。


「トガネ、何か見えない?」

〈うーむ。さっきから観察に集中していたが……さっぱりだ〉

「なんか、何でもいいからない?」

〈強いて言うなら……結構濃度の高い魔力がチラホラ見えた。魔女が芸師に紛れ込んでいるのかも〉

「それは大道芸と扱っていいのかな……」


 魔女と使い魔の会話の中、ミクロマクロはふと思い当たる節があった。


「……魔女、か」


「アガルマト、東の人形は今何体が殺された?」

〈〈3体。いずれも貴女達が通った道に設置されていたものよ〉〉

「この先のエリアや、我々が通らなかった路地などには残っていると?」

〈〈そういう事ねぇェ〉〉

「なるほど。よし、掴めたよ」


「ミクロマクロさん? 何か思いついたんですか?」

「うん。後は簡単な話だ。トガネ君、今から街中に紛れ込む魔女を探り当ててくれ」

〈魔女を? そんなの簡単だが、どうしてだ?〉

「私たちの通った道、及び裏路地には奴は来ていない、と」

「となると、多々ある広場のどっかに紛れ込んでるかも?」

「そういう事だ。我々は気付かぬうちに、犯人を追い詰めていたようだ」


「……一応確認しておきますが、犯人が魔女である、という確証は?」

「人形に存在を察知されず一方的に首を断つなど、魔女くらいにしかできない芸当だろう」

「おー……確かに」

 合理的な推理だ。


「それじゃ、よろしくね」

〈おう! 任せとけ!〉

「アガルマトは各広場の警戒を頼んだ」

〈〈承ったわぁァぁ〉〉





 トガネの感知の元、アクセルリス達は数名の魔女と接触した。

 4、5人ほどと接触したが、有力な情報は得られなかった。


 そして、また一人、ナイフと糸を巧みに使った芸をする魔女を見つけた。


「もし、そこなレディ」

「レディ? とは? 私の事かい?」

「ええ、ええ。思わず目を奪われる糸使いでした」

「これはこれは。君の口の上手さは一流だね」

「世辞ではありませんよ、麗しいレディ」

 口説き慣れしているミクロマクロ。とんだ女たらし魔女である。


「ミクロマクロさん、そろそろ本題に」

「おっと、そうだったね。つい夢中になってしまった」

〈素なのかよ……〉


「我々は今あることを調査中でね。貴女にも協力を願いたい」

「私に? 良いだろう、口上手なあなたに免じて」

「助かるよ、レディ。私たちがいま取り組んでいる問題は」

「『監視人形の相次ぐ破壊』、でしょう?」


 その魔女の言葉に、アクセルリスたちは一瞬言葉を喪失する。


「──今、なんと」

「私だよ、その犯人は」


 まさかの回答に、ミクロマクロですら一瞬動きが固着する。

「ッ」

 即座に捕獲行動の指令を下すも躱される。

 糸で吊るされたかのような不自然な挙動で、二人から離れる。

 アクセルリスは叫ぶ。

「名乗れ!」

「《狡猾の魔女 スクワリド》! 一流の工作魔女さ!」

「姿を現し、高らかに名乗るなど、工作員としては三流なのでは?」

「何を言うか。一流すぎるが故に、己をひけらかせずには居られないのさ!」

〈……それを三流って言うんじゃ……?〉

 使い魔から疑問符は消えない。


「なぜアガルマトさんの人形を破壊して回った!」

「テストだ! 私の工作は、本元の魔女機関に対してどこまで有効なのかを試しておきたかった!」

〈ホントに分からねえなー! おもしれ! 魔女っておもしれ!〉

 トガネの中では理解不能から愉快痛快へとパラダイムシフトしていた。

「ともあれ、その自己顕示欲が破滅へと至ることになる。しめやかにお縄に付いてもらおうか」

 ミクロマクロは歩み寄る。一方で、スクワリドは不敵な笑みを浮かべたまま、手首を触る。

「ン──」

「もちろん! 逃げる!」

「あっ待て!」

 スクワリドが何らかの仕掛けを作動させ、逃亡を図る。


 そのときであった。

 がしり、とスクワリドの頭を掴む者あり。

「む……?」

 訝し気に目を向けた、その先に居たのは。

「記憶/記憶/記憶」

「──」

 アクセルリス、絶句。ミクロマクロ、臨戦体勢。


「なんだ? 何を言っている?」

 スクワリドは苛立ちを込めてその手を払おうとする。が、華奢なその手は異常な膂力を備えていた。

「む……おい、お前。いい加減にしろ。おふざけにしてもさんりゅ──ヴッ!」

 スクワリドの体が突然跳ね、急痙攣する。

「ア……アバッ! ア、アアアーッ!」

「我/蹂躙→貴様の記憶」

 手の輪郭が青白く光り、ノイズを撒き散らす。その間もスクワリドは跳ね続ける。


「──ゲデヒトニス……! なぜここに!? 一体何を!?」

 焦燥に駆られ、アクセルリスは槍を構える。今にも襲い掛かりそうな彼女を、ミクロマクロは至って冷静に抑える。

「何をしているんだ、一体」

 落ち着いた様子で語り掛ける。アクセルリスは気が気でない。

「我/何も理由なし=戯れと同じ」

「……やれやれ。凶悪な犯罪者である魔女枢軸のメンバーには、話が通じないか」

「我/安い挑発←不搭乗」

「挑発のつもりはなかったんだけどね」


「ぅ……あ」

 ノイズが止む。ゲデヒトニスは手を離す。動きの止まったスクワリドは落ちる様に俯く。

 そして、呟く。

「…………殺す……」

 ゆっくりと顔を上げ、アクセルリスを睨む。強い憎悪の眼で。

「……貴様……貴様ァ……ッ!」

 明らかに様子がおかしい。

「お前、何をした」

「記憶/改竄」

「具体的には?」

「邪悪魔女5i/両親の仇」

「──は?」


「殺すッ!」

 スクワリドがアクセルリス目がけて一直線に走る。

「最悪だ……!」

 躱す。が、復讐の獣に作り替えられたスクワリドは止まらない。

「死ねェ!」

「ぐ……!」


「──」

 ゲデヒトニスは己がもたらしたその血戦に興味を持たず、既に背を向けていた。

 アクセルリスの声が響く。

「ミクロマクロさん! 逃がさないで! ここは私で何とかします!」

「うん。君ならそう言うと思っていた!」

 ミクロマクロはアクセルリスを一瞥もせずに、路地に消えていったゲデヒトニスの追跡を始める。信頼ゆえの無視であった。


【続く】

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