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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
14話 灰燼被り姫
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#1 オードブルはいつも突然に

 常夜の都・魔都ヴェルペルギース。

 その中央に存在する、魔女機関本部が在する塔、クリファトレシカ。


 その99階。邪悪魔女会議室。

 10人の邪悪魔女が一同に揃い、様々な話し合いや取り決めを行っていた。



「──以上。本日の夜会はこれで閉会とする」

 バシカルの号令の元、今日もまた邪悪魔女の会合が幕を閉じる。

 いつもならばこのまま各々退席し、それぞれ解散する。

 しかし、今日は様子がおかしかった。


「──それで、だ」

 バシカルがそう言う。席を離れようとしていた魔女たちは、その動きを止め、バシカルを見る。


「今年も《アレ》の開催が近くなってきている」


 いち早く察知したのはパーティーメイカーズの三者。

「……ああ、《アレ》ね」

「うふふ……楽しみねぇ」

「RRRRRRRR♪」


 その声は楽し気な色を含む。

 イェーレリーやシェリルス、アイヤツバスもおおむね察した模様。



 ……となると。


「……?」


 怪訝な顔をしているのは残った二人、アクセルリスとアディスハハだ。


「ふむ、二人は初めてとなるか」

「何が始まるんです?」


 アクセルリスは嫌な予感を胸に抱えつつも、バシカルに尋ねた。


「なに、そう気張るな。皆が楽しめる大イベントだ」

「うさんくさ……」


 アクセルリスの隣でアディスハハは呟く。


「で、結局何なんです?」

「それは──」


 二人は息を飲む。

 バシカルの喉が動き、震え、声を放つ。



「──《邪悪魔女お料理対決》だ!」



「──え?」

「──へ?」



【灰燼被り姫】


【#1】


 頭の理解が追い付かず、思わず間抜けな声を出した二人。


「えーと……私の聞き間違いかな? アディスハハ?」

「うーん、私もなんかおかしな言葉が聞こえたんだよね。お料理対決? って?」

「えっ、きぐうー。私もそれ聞こえたよ」


「聞き間違いではないぞ。何度でも言おう、《邪悪魔女お料理対決》だ」

「あああ……聞き間違いであって欲しかった……」

「非常に分かりやすい名前のイベントですねー」

「内容は」

「言われんでも分かりますよ……料理で対決するんでしょ……」

「話が早くて助かる」


 満足げなバシカル。なんでだろう。



「まったく、誰なんですかそんなトンチキ企画考えたの……」


 ポロリとアクセルリスの口から本音が漏れる。

 アンサーを出したのはバシカル。


「総督だ」

「──え」


 時が凍ったかのような沈黙。


〈──そう。我だ〉

 氷漬けの時を溶かしたのは、これまた氷のような声。背後からだ。


「……マジですか?」


 ゆっくりと振り返りながら、アクセルリスはキュイラヌートに恐る恐る問う。


〈マジだ〉

「……ええ……」

「うそでしょ……」


 悪い夢を見たかのような心地の二人。


〈我もかつては毎年参加したものだが。この体になると流石に料理も難しいのでな〉

「はっはっは、そうでしょうね」


 楽しげに話すバシカルとキュイラヌート。


 その様子を見て。

「……諦めようか、アクセルリス」

「……そうだね、アディスハハ」

 二人は身を寄せ合い観念した。

 こうなれば、あとはこの組織ぐるみのトンチキ波に飲まれるほか道はない。諸行無常。


 ◆


「ではルール説明だ」


 バシカルは立ち上がり、まるで演説をするかのように話し始める。

「開催は7日後。会場はここクリファトレシカの中庭、北方面。食材はこちらである程度用意するが、各々持ち寄っても構わない」


 重要な点のみを簡潔に伝える。アクセルリスはうんうん頷きながらメモを取る。


「そして最も重要となる点。それは『2人1の組チーム戦』だという事だ」

「2人1組……ってことは、5チームで争うんですか?」

「これがそうでもないのだ」

「うぇ、そうなんですか」

「審査員を務めるパーティーメイカーズ及び総督は除外される。よって残った6人、3チームで勝利を争う形となる」


 バシカルは律儀に指を折りながら解説する。


「今年もよろしく頼むぞ」


 三人に目配せする。カイトラは触手を蠢かせ、シャーカッハは不敵に笑い、ケムダフは無邪気な笑みを浮かべる。

「手加減はしないよ。融通効かないからね、私たち」

「SYRRRRRRRR」

「『食』に関してはうるさいわよー?」

 納得のメンバー。この対決の真剣さが垣間見える。


「チーム分けはどうやって決めるんですか?」

「ランダムだ」

「くじ引きとかです?」

「いや……違うが……違くもない……」


 言葉が濁る。


「これに関しては見てもらった方が早いだろう。キュイラヌート様、お願いします」

〈請負った〉


 キュイイイといった駆動音が鳴る。キュイラヌートの方からだ。

 程なくして、アクセルリスの肌が気温の低下に俊敏に反応する。

 見ると、キュイラヌートの球状装置から冷気が放たれているのが分かる。

 どれだけの冷却が行われているのだろうか。窓には当然のように結露が生まれ、シャンデリアには小さなつららが生える。


「寒……」

「あっためてあげる!」

「んぅ」

 アディスハハが抱き付く。引き剥がそうとも思ったが、温かいのは確かなのでこのままにすることにした。


 一同が見守る中、氷が固まる音が聞こえてくる。


「!」


 キュイラヌートの前に6つの氷球が生まれている。

 よく見ると、その表面には数字が刻まれていた。1から5、そして9。


〈良し〉


 装置が発光すると同時に氷球が輪となり、円を描く。それはさながら運命のルーレット。

 そして、二つずつ輪から離脱し、キュイラヌートの前に三列に並んだ。



〈振り分けが決まった〉

「助力感謝いたします」


 バシカルは一組ずつ組み合わせを読み上げる。


「『1と9』。『2と4』。『3と5』だ」



 邪悪魔女1iと9i。バシカルとアイヤツバス。《チーム師匠》。


 邪悪魔女2iと4i。アディスハハとイェーレリー。《チームヤングエイジ》。


 邪悪魔女3iと5i。シェリルスとアクセルリス。《チーム弟子》。


 これが今回の組み合わせである。



「私とバシカル、ね。うんうん、面白い組み合わせじゃないかしら?」

「ふ──一理あるな」



「イェーレリーかぁ! いい出汁取れそうだよね!」

「お前マジで言ってるのか……?」



(──シェリルス、さん)


 アクセルリスの心に暗雲が立ち込める。

 灰の魔女シェリルス──彼女とは、今だ打ち解けていない。

 否。それどころか、大きな障壁が両者の間に建っていることすら感じていた。


(…………)



「────以上で、組み分け発表並びに本日の夜会を閉会とする。各自解散」

 上の空でいたら、会合はいつの間にか終わっていたようだ。

 邪悪魔女たちがそれぞれ退出してゆくのが見える。


 アクセルリスも退出しようとした、その時。


「おい、アクセルリス」

「ひゃっ!? しぇ、シェリルスさん!?」

 急に背後から肩を叩かれ、変な声を上げるアクセルリス。それにつられて呼びかけの主──シェリルスもやや驚く。

「おっ、おぉ……あー、お前明日暇か?」

「明日? 一応オフですけど……」

「ならいい、ちょっとツラ貸せや」

「えっ、え?」

「明日の先のハチの0にテテュノーク駅な。ちゃんと来いよ」


 それだけ言うと、すぐに立ち去ってしまった。

 残されたアクセルリスの心境は。


(ひぇ~、チンピラだぁ~)



 後が怖いので素直に向かうことにした。


【続く】

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