#5 平穏の食卓
【#5】
数日後。
アイヤツバス工房、朝。
家主は紅茶を味わいながら新聞に目を通す。
「『大盗賊団は逮捕され、バンディーの森には再び平穏が訪れた』、ね」
優雅なモーニングタイム。もう一人の住人も階上から現れる。
「おはようございますお師匠サマ!」
〈オレもいるぜ!〉
「おはよう、アクセルリス、トガネ」
「あ! それはもしや!」
銀の瞳は記事に目ざとく反応する。
「ええ、あの件よ」
「私の名前載ってます? 載ってます!?」
「ちょびっとね」
「えー、ちょびっとかー」
〈……そんな大事なのか?〉
「いや、何か嬉しいじゃん?」
浮かれポンチ。邪悪/残酷魔女になり結構経つが庶民感は抜けきっていないようだ。
「何はともあれ、今回も一件落着ね。さ、ごはん食べましょ」
「はーいっ」
アクセルリスが席に着こうとした丁度その時、ドアがノックされる。
「ぅおっと?」
「あら? 誰かしら」
アイヤツバスが解錠するのと同時にドアが開かれる。
「おはようございまっ!」
立っていたのはエルフの少女だ。
「ファルフォビア? 何しに?」
「私だけじゃないよ! ほら!」
彼女の後ろには二つの影。ダイエイトとバウンだ。
「よっす!」
「ダイエイトさんにバウン! どうして?」
「活躍を聞いたら居ても立っても居られなくってな! 超スピードで戻ってきたわけよ!」
「俺も、改めてあんたたちに礼が言いたくて」
「もう、いらないよそんなの!」
「本当に感謝している。ありがとう」
「ちょ、やめってってばー!?」
深く頭を下げるバウン。焦ってそれを止めるアクセルリス。それを見守るファルフォビアたち。
「……そうだ」
アイヤツバスは何か思いついたようだ。今回はよからぬことではなさそう。
「せっかくだし、皆でごはん食べましょうか」
〈名案だな!〉
「やーりぃ! 思惑通り!」
手を叩き喜ぶファルフォビア。
「こ、こいつ最初っからこれが目的で……」
その計算高さにアクセルリスは震えた。
「アクセルリス、手伝ってくれるー?」
キッチンの方からアイヤツバスの声。
「はい、ただいま!」
「アイヤツバスサンの手料理……久々だなあ……!」
「アレ……めっちゃくちゃおいしいですよね……」
「だよな……毎日食べてるアクセルリスが羨ましくてたまらん……」
「わかります……」
ダイエイトとバウンは涎を垂らしながらただ待っていた。
一同は庭に創られた即席食卓を囲む。製作はアクセルリスだ。
「はい、お待たせー!」
両手いっぱいに料理を持ったアイヤツバスとアクセルリスが現れる。
〈イェーイ! 待ってました!〉
「あんたも手伝え!」
「んん~いい匂い~!」
「ま……待ちきれない……!」
「耐えろ! 耐えるんだバウン!」
「ははは……大騒ぎだ」
それぞれの様を見てアクセルリスは苦笑い。
配膳を終え、二人も席に着く。
辛抱たまらんといった具合の三人と一匹。
「じゃ、お師匠サマ。お願いします」
「うん。ではみんなで……」
アイヤツバスの号令の元、一斉に手を合わせ、言う。
「「「いただきます!」」」
ささかな祝賀の宴は、森の奥でしめやかに華を咲かせた。
【圧政・支配・外道女帝 おわり】