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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
12話 すすみ化け 戻り来るは かをり風
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#3 任務後アフターレイド

【#3】


 その時。アクセルリスの直感センサーが何かを捉える。

 にこやかだった顔が一瞬にして鋭くなる。


「──」


 見つめるは森。何か、よからぬ感じがする。


「……すいません、ちょっと失礼します!」


 居ても立ってもいられず、走り出す。


「おや?」

「どうかしたの?」

「トガネも待ってて!」

〈え、おい!?〉




 何かイヤな感じがする。一歩、また一歩、感覚が囁く方に進んでいき──

 そして、辿り着く。


「……ゲブラッヘ……!」


 待ち構えていたのは鉄の魔女ゲブラッヘ。アクセルリスの命を付け狙う狂人。


「やあやあやあ。ご機嫌は如何かな、アクセルリス?」

 切株に腰掛け、優雅に挨拶。


「良くボクの事を見つけることが出来たね。やはりキミの直感はアテになる」


 アクセルリスは即座に槍を構えて臨戦態勢だ。


「おっと、そう血気立たないでくれよ、なあ?」


 やはり優雅に立ち上がり、わざとらしくアクセルリスを制止する。その動きには一幕のスキも無く。


「今日はキミと戦うつもりはないよ。その気があるんだったらもっと早く乱入したからね」

「ならなにが目的だ」

「目的も何もないさ。ただゆったりしていただけ。こういうのを極東地方では『つれづれ』と言うらしい」

「……」


 アクセルリスは暫く黙った後、静かに舌打ちをする。

「外道魔女の処分、それが私たち残酷魔女の使命。お前がどんな理由でここに居ようと、私はお前を殺す」

「カッカするなって。ボクに戦う気は無いと言っているだろう」

「……」


 何も言わず、一本、槍を放つ。

 ゲブラッヘはそれを溜息混じりに軽く切り払う。


「……そうだ。ボクを見つけることが出来たゴホウビに、一ついいことを教えてやろう」

「……何だ」

「ボクたちの組織、《魔女枢軸》の情報さ」

「!」


 アクセルリスの眼が僅かに動く。このまま無限回廊問答を繰り返すよりは有意義であろう。


「……言ってみろ」

「魔女枢軸、その席は10コ。これはボクらのリーダーが決めた数だ」

「それは『常に10人』という意味なのか?」

「否、だね。バズゼッジが斃れた今、魔女枢軸は9人の組織さ」

「そうか、情報提供感謝する」

「それほどでも」

「じゃあ死ね」


 無数の槍がゲブラッヘを取り囲み、一斉に牙を剥く。


「……やれやれ」


 気怠そうに刀を舞わせ、槍を弾く。


(こいつ……鍛えたな)


 その様を見たアクセルリスはそう感じた。以前までとは太刀筋のキレが違う。


「……これ以上キミと話すことは無さそうだ。この辺でおさらばさせてもらおう」


 鎖を生み出し、それに乗るゲブラッヘ。


「待て!」

「待たないし、追わせもしないよ」


 言葉通りだった。アクセルリスの両脚には鎖が絡みつき、その追跡行動を阻害する。


「ち……!」

「また殺しに行くよ。生きていたら、ね」


 再戦の布石を残し、ゲブラッヘは消えた。

 彼女が姿を消した後、アクセルリスを束縛していた鎖は消えたが、それはゲブラッヘが追跡圏外に至ったことを意味していた。


「……」


 ふう、と一息つく。


「……戻ろ」


 二人とトガネを大分待たせてしまった。戻って謝らねば。


「……?」


 周囲に気配を感じる。一つではない。複数。少なくとも5体。


「……なんだ?」


 警戒態勢に入るアクセルリス。ガサガサと茂みが揺れる音が聞こえてくる。

 その音はアクセルリスを翻弄するかのように、あちこちを転々とする。

 そして、一際大きな音が鳴った。


「後ろかッ!」

 奇襲を見破れないアクセルリスではない。

 振り向くよりも早く背後へ槍を放つ。

「GUEEE!」

 絶叫。腹部を貫かれたのは、翼の無い竜種。その姿はトカゲに近しいが、角や甲殻から竜種であると判断できる。

「こいつは……?」

 絶命したその生物は腐る様に黒化し、霧散するように消滅した。明らかに真っ当な生物ではない。

 アクセルリスは奇襲者の存在に謎を抱く。だが、深く考える暇はなかった。

「CHASHAAAA!」

「SHHHHRRRR!」

 周囲の茂みから次々と現れる。それらは皆同じ姿、地を這うドラゴンだ。

「うわっ! な、なんなんだ!?」

 二本の剣でそれらの攻撃をいなすが、多勢に無勢。

 時折槍を放つも、硬い甲殻に阻まれ、絶命させるまでには至らない。

「く……!」

 仕方がない、と腹を括る。アクセルリスを中心に、その足元から大きな銀色の魔法陣が出現。

 諸共衝撃波の餌食にする作戦だ。無論、アクセルリスもただでは済まない。

 意を決し、炸裂させようとした直前。

「GYUA!」

 バァンという発破音と共にドラゴンの一体が吹き飛ぶ。

「アクセルリス!? 大丈夫か!」

「イヴィユさん!」

 イヴィユの銃撃である。

〈全然帰ってこないから、心配になって見に来たら……〉

「何なんですのこの状況はー!?」

「私にも……分かりません……!」

「とにかく、こいつらを片付けるぞ!」

「分かっていましてよ!」

 一気呵成の加勢により、奇妙なドラゴンたちは1体、また1体と倒れていく。

 全ての個体が息絶えるのにさほど時間はかからなかった。


「……ふうー……」


 見渡すアクセルリス。全ての死骸が1体目と同じようにグズグズに腐食し、消滅する。


「なんだこりゃあ」

「フツーの生き物ではありませんわね、どう見ても」


 イヴィユやロゼストルムにもその正体は分からなかった。

 危機こそ去ったものの、得体の知れない物に各々困惑や恐怖を抱いていた。

 と、その時。


〈くんくん……くんくん……〉


 アクセルリスの影の中のトガネが、なにやら残滓を嗅ぎ回っている。文字通り。


「トガネ?」

〈これは……この匂いは……〉

「何か分かるの?」

〈ああ、わかる……この匂いは、オレと同族だ……!〉

「同族……って」

〈使い魔だよ! あのバケモンどもは使い魔だ! 間違いない!〉

「なんですって? 本当なの?」

「アクセルリス、ここに他の魔女はいたか?」

「……ゲブラッヘがいました。だけど、あのドラゴン達の魔力とゲブラッヘの魔力は異なった物でした」

「となれば、協力者のものか」

「でもあの使い魔、生み出すのに相当なコストが掛かりそうですわ。それを何匹もなんて……おいそれと出来るものではなくってよ?」

「使い魔を生み出すのを得意とする魔女……なのかも」

「ふむ、調べてみる必要がありそうだな。帰還し、アーカシャに尋ねてみよう」

「そうですわね。またひとり、枢軸の魔女の正体を明かせるかもしれませんわ!」


 新たな方針を固め、帰路に付こうとした二人。

 そんな彼女らをアクセルリスが引き留める。


「あの、待ってください」

「ん?」

「いかがいたしまして?」

「スラッジは……?」


「「……あっ」」











 あれから、少しの時間が経った。


 スラッジ。

 彼女は今、先程よりも厳重に簀巻きにされた姿で横たわっている。


「チクショーッ! 逃げきれなかったー!」

「まったく、少し目を離しただけで逃げ出すとは……」


 疲れ顔のイヴィユ。探すのに大分苦労したのだろう。


「よっこい、せ」


 イヴィユは簀巻きを抱え上げ、仲間たちの元へ向かう。

 運ばれながら、スラッジは叫んだ。



「とほほー! もう外道魔女なんてこりごりだー!」


【すすみ化け 戻り来るは かをり風 おわり】

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