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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
10話 誰が為の鎮魂歌
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#? 鎮魂に交わる剣

 良く晴れたある日。

 カイコー村は壊滅の危機に瀕していた。


「キハハハハハ! 逃げろ! 足掻け! 希望を探せ! その悲鳴が、アタシを滾らせる!」


 バズゼッジという外道魔女がやって来たからだ。

 彼女は逃げ惑う村人を蹂躙し、絶望させ、殺して回っていた。


「お邪魔しまァーす」


 また新たな家に押し入る。


「隠れても無駄だぜェ?匂いで分かるから……な!」


 箪笥に剣を突き立てる。

「キャアアアア!」

 悲鳴が聞こえる。中からだ。

「もっとだ!もっと叫べ!喚け!死ね!キィーハッハハァッハ!」

 数十本の剣を絶え間なく刺す。いつの間にか悲鳴は止んでいた。

「ふう……まだ、居るなァ?」

 振り返る。人気は無いが、バズゼッジは直観的に理解していた。

「どこだァ? どーこーだー?」

 潜伏者はすぐに見つかった。


 藁の中。子供が隠れていた。

「みぃ~つけたァ!」

「ひっ……!」

「いいねいいねェ……ガキは良い声で哭くから、なぁッ!」

 剣を振り下ろす。だが、その手を掴まれ阻まれる。


「待ってくれ」

「あ?」


 無謀な救出者か、とバズゼッジは無感情に剣を振るう。だが、躱される。


「……魔女か、お前も?」

「そうだ。私の名は《レキュイエム・プレルード》」


 彼女の深淵を宿す目を見て、バズゼッジは直観的に『同類』と感じる。


「……アタシは《バズゼッジ・マーデルラー》。で? 何がしたいんだ、テメェ」

「簡単な話さ。その子供を殺さずに、私に譲ってほしい」

「あ? 何でだ?」

「趣味でね」

「養育がか?」

「いや。人間を加工して楽器にするんだ」


 屈託のない笑顔でそう言うレキュイエム。バズゼッジは深く考えなかった。


「ま、いいだろ」

「良かった。そんな君に折り入って、もう一つ頼みがある」

「何だ? 言うだけ言ってみろ」

「ここの村人、二割を私に回してくれないか」

「二割? ダメだ。全員アタシの獲物だ」


 立ち去ろうとするバズゼッジ。レキュイエムはそれを急いで止める。


「ああ、待ってくれ。勿論君にも対価を払うよ」

「なんだそりゃ?」

「私の魔法を使って、村人を逃げられないようにする」

「──ほう?」

「これならいいだろう? 普通に殺していちゃあ、必ず何人かは取り零すだろう。だが私が協力することでそれをゼロにできる」

「へぇ。悪くねえな」

「だろう?」

「悪くねえが──取引としてはまだ足りねぇな」

「欲張りだなぁ、君は……では、私の住処を君にも提供しよう」

「ほう!」


 バズゼッジの目が初めて輝く。


「どうせ君行く当てなどないのだろう?」

「偏見が過ぎるな。ま、そうだが」

「では、これで取引成立だな」


 一安心という表情のレキュイエム。


「じゃ、早速その力を使ってくれよ」

「もうしているさ。魔法で柵と霧を発生させた。これでもう一人たりとも脱出は不可能だろう」

「へぇ。手早くていいじゃねえか。それで、何をすればいいんだ?」

「殆どは今までと変わらない。君は好きなように蹂躙し殺戮すればいい。ただ、私が目を付けた人間は殺さずに半殺しで抑えて欲しいだけだ」

「半殺しでいいのか?」

「ああ。こう見えて医者だからね、私は」

「へえ。サイコな医者もいたもんだな」

「最高、の間違いだろう?」

「……そういう事にしてやってもいいぜ」

「ケヒヒ……やっぱり君とは上手くやっていけそうだ」

「ケハハァ、同感だぜェ」


 二人は笑った。これからの痛快な生活を予見して。




「帰ったぜェ」

「お帰り、バズゼッジ。収穫は?」

「ぼちぼち、だな」

「……ふむ。ここしばらく不作だねぇ」

「魔女機関の奴らだな、原因といえば」

「あいつらが?」

「ああ。外道魔女対策を強くしてきやがってる」

「ふぅん。姑息なことをするもんだね」

「全くだ。アタシたちを止められる訳ねえってのによ!」

「違いないね、ケヒッ。ま、警戒するに越した事は無い。気を付けるんだよ」

「わーかってるよ」

「…………お前が居なくなると、私は……」

「分かってる! 分かってるからそんな顔すんなよ……ほら、飯だ飯!」

「……そうだな」



「……なあ」

「どうした?」

「なんか……勧誘を受けたんだ」

「何の?」

「『外道魔女を集めて同盟を作る』だのなんだの」

「なんじゃそりゃ。怪しすぎるだろ」

「だよな…………でも、最近さ、辛くなってきてねえか?」

「う……そりゃここ最近どんどん外道魔女対策も強まって来てるし、私もお前も嗜好を果たせてないしではいるが……」

「この同盟に入ったら、結構な支援が受けられるらしいんだよ」

「お前……入るつもりか?」

「勘違いしないでくれ。アタシのためであり、お前のためでもあるんだよ」

「……そうだな。お前がそこまで考えてくれているんだったら止めはしないよ。ただ、私は所属しないぞ」

「分かってる、分かってるさ。お前がこういうの好かないってのは」

「……ならいいんだ」

「……わりぃな」

「……いや、ありがとう」



「レキュイエム」

「ん? 出掛けるのか?」

「ああ、ちょっとぶらついて、いい感じな奴見つけてくる」

「殺るのか? 最近はあの同盟の方でも派手な行動は避ける様言われてたんじゃないのか?」

「アタシに我慢が出来ると思うか、お前」

「いや全く」

「だろ? そういうことだよ」

「まあ、だから私も止めはしないが……」

「なんだ?」

「……気を付けて行ってこいよ。そして、必ず帰って来て」

「分かってるよ、今更」

「……だよな」

「じゃ、行ってくる」

「ああ、待て」

「なん──」


 不意にキスをする。


「な──」

「……安全のお守り。少し、大胆過ぎたか……?」


 そう言うレキュイエムの顔は真っ赤。

 そして、色が移る様にバズゼッジの顔も紅潮する。


「っ……行ってくる!」

「……いってらっしゃい」


 驚き、焦って出て行くバズゼッジの背を微笑みながら見送る。



 これが最後のやり取りになるとは、夢にも思わずに。

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