#? 外道の集
【鋼鉄の夜の都 #?】
某所。
薄暗いが内装は小奇麗に片づけられている『拠点』。広さはそれなり。
玉座に一人。その側に一人。壁に寄りかかるのが一人。二人掛けのソファに寝転がっているのが一人。テーブルでカードゲームに興じているのが三人。
計七人。全員、外道魔女である。
「ゲブラッヘ」
呼びかけたのは側近。
「……なんだい?」
「以前教えた私たちの方針、忘れているのかしら?」
「『不用意に邪悪魔女には攻撃を行わない』、だろう? 覚えているとも」
「ならばなぜ、貴女はあのようなことを?」
「方針よりも信条を優先させてもらった結果さ」
「鋼の魔女アクセルリスを殺すことが?」
「ああそうさ。理由は何度も説明しただろう」
「……貴女の信条を否定するつもりはないわ。ここにいる者は皆独自の信条を持っているから」
側近は優しく、かつ叱る様にゲブラッヘに語り掛ける。
「でも集団行動をしている以上、こちらの方針にも従って貰わなければならない時もある。そのことをよく覚えておいて」
「分かってるさ。アクセルリス以外の邪悪魔女には興味ないから、安心するといい」
「ハ──相変わらず可愛げのないガキだ。お前じゃレキュイエムにも気に入られなさそうだな」
「余計な口を挟まないで、バズゼッジ。貴女にも同じことが言えるのよ」
「あァ、そういえばそうだったな。悪ィ悪ィ」
そんなバズゼッジの横を通り、ゲブラッヘは出口へ向かう。
「どこへ行くの?」
「……此処ではない何処か──かな」
有耶無耶な答えを残してバズゼッジは消えた。
「我/帰還」
「あら?」
そして入れ替わりにゲデヒトニスが姿を現した。
「我/すれ違い→ゲブラッヘ/如何様」
「何でもないわ。強いて言うなら……若気の至り、って奴ね」
「我/理解」
「分かったのかよ!?」
「我/聡明」
小さな体でふんぞり返るゲデヒトニス。彼女の人間味は今や動作にしか残っていない。
「それで? スカウトはどうだった?」
「戦果上々」
「何人?」
「二人」
「いいじゃない。じゃ早速聞かせて貰うわ」
側近は手早くペンとメモを用意。相変わらずの手際。
「一人目→バースデイ/誕生の魔女←称号」
「バースデイ? 聞いたことない名前だな。オマエラ、何か知ってるか?」
バズゼッジは身を乗り出しテーブルの三人に尋ねる。
「名前だけならありますわよ」
答えたのは真紅のドレスに身を包んだ魔女、クラウンハンズ。
「ほんとか」
「名前だけ、ね」
「へぇ、結構有名なんかな」
「次は?」
「二人目→アントホッパー/背反の魔女←称号」
「…………アントホッパー?」
バズゼッジはまたもテーブルの三人に目線を送るが、三者とも首を横に振る。
「私も知らないわね……」
「アントホッパー/非外道魔女」
「外道魔女じゃない!? どういうことだ!?」
「彼女/自暴自棄→暴走→破壊活動→否、被害ゼロ」
「……はぁ。荒くれ物のたぐいなのね。どうやってスカウトしたの?」
「彼女/倒れていた→道端」
「……」
「……」
顔を見合わせる側近とバズゼッジ。これ以上深く追求するのはやめた方がよさそうだ。
「何はともあれ、お疲れ様」
「我/疲労困憊」
「うんうん。今日はもう休んでいいわよ」
「我/帰る」
ゲデヒトニスは姿を消した。
「アントホッパー、バースデイ……」
側近はメモ帳を見返しながら呟く。
「クラウンハンズ、メラキー、ソルトマーチ……うん、揃った」
「揃ったァ?」
「これで十人。《約束の数字》、揃いました!」
玉座へ振り返り、嬉しそうに言う。
「……」
玉座に座す者──戦火の魔女は、黙ったまま頷いた。
「……って何だそりゃ。アタシそんなの知らねえぞ」
「約束の数字。それはね、私があのお方に言われてこの組織を創ったときに決めた、ひとまず集めたかった人数の事」
「へぇ。十ってなんか意味あんのか?」
「私には分からない。けど、あのお方が教えてくださった事なのだから、私たちでは分かりようもない高尚な意味があると信じてるわ」
側近魔女の戦火の魔女への心酔度が計り知れる。
「それでは、すぐにでも大規模な作戦行動を行いますか?」
側近のその言葉に、戦火の魔女は指を横に振る。否定。
「もうしばらく様子を見る……という事ですか」
頷く。肯定。
「かしこまりました」
「ケッ! まどろっこしいな。どんどん動いてどんどん殺せばいいモノを」
「黙りなさいバズゼッジ。不敬よ」
「ハン。今ならあのガキの気持ちが分かるような気がするな」
「バズゼッジ。よーく分かってると思うけど、度の過ぎた独断行動は処罰の対象になるわよ」
「アタシも信条を優先させてもらうだけだ」
そう言って意地悪そうに笑い、去っていった。
「……ここ最近のバズゼッジの行いは目に余ります。そろそろ制裁を与えるべきだと私は思いますが」
戦火の魔女は指を横に振る。
「こちらも様子見、ですか。了解いたしました」
深く一礼。
そして側近は、いつの間にか他の三人も姿を消していることに気付いた。
「では、私も『本職』の方へ戻らせていただきます。失礼いたしました」
再び一礼し、彼女も退出した。
戦火の魔女はしばらく一人でいたが、程なくして玉座から立ち上がった。
「…………私も、仕事に戻ろうかしら」
その部屋からは生命の息吹が消えた。
後に残っていたのは赤黒い光だけだった。
【鋼鉄の夜の都 おわり】