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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
8話 鋼鉄の夜の都
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#? 外道の集

【鋼鉄の夜の都 #?】


 某所。

 薄暗いが内装は小奇麗に片づけられている『拠点』。広さはそれなり。

 玉座に一人。その側に一人。壁に寄りかかるのが一人。二人掛けのソファに寝転がっているのが一人。テーブルでカードゲームに興じているのが三人。

 計七人。全員、外道魔女である。


「ゲブラッヘ」


 呼びかけたのは側近。


「……なんだい?」

「以前教えた私たちの方針、忘れているのかしら?」

「『不用意に邪悪魔女には攻撃を行わない』、だろう? 覚えているとも」

「ならばなぜ、貴女はあのようなことを?」

「方針よりも信条を優先させてもらった結果さ」

「鋼の魔女アクセルリスを殺すことが?」

「ああそうさ。理由は何度も説明しただろう」

「……貴女の信条を否定するつもりはないわ。ここにいる者は皆独自の信条を持っているから」


 側近は優しく、かつ叱る様にゲブラッヘに語り掛ける。


「でも集団行動をしている以上、こちらの方針にも従って貰わなければならない時もある。そのことをよく覚えておいて」

「分かってるさ。アクセルリス以外の邪悪魔女には興味ないから、安心するといい」

「ハ──相変わらず可愛げのないガキだ。お前じゃレキュイエムにも気に入られなさそうだな」

「余計な口を挟まないで、バズゼッジ。貴女にも同じことが言えるのよ」

「あァ、そういえばそうだったな。悪ィ悪ィ」


 そんなバズゼッジの横を通り、ゲブラッヘは出口へ向かう。


「どこへ行くの?」

「……此処ではない何処か──かな」


 有耶無耶な答えを残してバズゼッジは消えた。


「我/帰還」

「あら?」


 そして入れ替わりにゲデヒトニスが姿を現した。


「我/すれ違い→ゲブラッヘ/如何様」

「何でもないわ。強いて言うなら……若気の至り、って奴ね」

「我/理解」

「分かったのかよ!?」

「我/聡明」


 小さな体でふんぞり返るゲデヒトニス。彼女の人間味は今や動作にしか残っていない。


「それで? スカウトはどうだった?」

「戦果上々」

「何人?」

「二人」

「いいじゃない。じゃ早速聞かせて貰うわ」


 側近は手早くペンとメモを用意。相変わらずの手際。


「一人目→バースデイ/誕生の魔女←称号」

「バースデイ? 聞いたことない名前だな。オマエラ、何か知ってるか?」


 バズゼッジは身を乗り出しテーブルの三人に尋ねる。


「名前だけならありますわよ」

 答えたのは真紅のドレスに身を包んだ魔女、クラウンハンズ。

「ほんとか」

「名前だけ、ね」

「へぇ、結構有名なんかな」


「次は?」

「二人目→アントホッパー/背反の魔女←称号」

「…………アントホッパー?」


 バズゼッジはまたもテーブルの三人に目線を送るが、三者とも首を横に振る。


「私も知らないわね……」

「アントホッパー/非外道魔女」

「外道魔女じゃない!? どういうことだ!?」

「彼女/自暴自棄→暴走→破壊活動→否、被害ゼロ」

「……はぁ。荒くれ物のたぐいなのね。どうやってスカウトしたの?」

「彼女/倒れていた→道端」

「……」

「……」


 顔を見合わせる側近とバズゼッジ。これ以上深く追求するのはやめた方がよさそうだ。


「何はともあれ、お疲れ様」

「我/疲労困憊」

「うんうん。今日はもう休んでいいわよ」

「我/帰る」


 ゲデヒトニスは姿を消した。



「アントホッパー、バースデイ……」


 側近はメモ帳を見返しながら呟く。


「クラウンハンズ、メラキー、ソルトマーチ……うん、揃った」

「揃ったァ?」

「これで十人。《約束の数字》、揃いました!」


 玉座へ振り返り、嬉しそうに言う。


「……」


 玉座に座す者──戦火の魔女は、黙ったまま頷いた。


「……って何だそりゃ。アタシそんなの知らねえぞ」

「約束の数字。それはね、私があのお方に言われてこの組織を創ったときに決めた、ひとまず集めたかった人数の事」

「へぇ。十ってなんか意味あんのか?」

「私には分からない。けど、あのお方が教えてくださった事なのだから、私たちでは分かりようもない高尚な意味があると信じてるわ」


 側近魔女の戦火の魔女への心酔度が計り知れる。


「それでは、すぐにでも大規模な作戦行動を行いますか?」


 側近のその言葉に、戦火の魔女は指を横に振る。否定。


「もうしばらく様子を見る……という事ですか」


 頷く。肯定。


「かしこまりました」

「ケッ! まどろっこしいな。どんどん動いてどんどん殺せばいいモノを」

「黙りなさいバズゼッジ。不敬よ」

「ハン。今ならあのガキの気持ちが分かるような気がするな」

「バズゼッジ。よーく分かってると思うけど、度の過ぎた独断行動は処罰の対象になるわよ」

「アタシも信条を優先させてもらうだけだ」


 そう言って意地悪そうに笑い、去っていった。


「……ここ最近のバズゼッジの行いは目に余ります。そろそろ制裁を与えるべきだと私は思いますが」


 戦火の魔女は指を横に振る。


「こちらも様子見、ですか。了解いたしました」


 深く一礼。

 そして側近は、いつの間にか他の三人も姿を消していることに気付いた。


「では、私も『本職』の方へ戻らせていただきます。失礼いたしました」


 再び一礼し、彼女も退出した。



 戦火の魔女はしばらく一人でいたが、程なくして玉座から立ち上がった。

「…………私も、仕事に戻ろうかしら」



 その部屋からは生命の息吹が消えた。

 後に残っていたのは赤黒い光だけだった。


【鋼鉄の夜の都 おわり】

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