表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
8話 鋼鉄の夜の都
30/277

#1 ざわめく街

【鋼鉄の夜の都 #1】


 魔都ヴェルペルギース。

 魔女機関の本部(クリファトレシカ)が置かれているこの都は、魔女社会において最重要の地。

 それゆえに、防衛・警戒態勢も強固に構築されている。


「んー……」


 その要となるのが、この魔女。

 体格自体は最も小柄。しかしその頭には背丈の二倍はある巨大な帽子を被っているため、総合すれば大柄に分類されてしまう。

 《暴食の魔女》ケムダフだ。

 邪悪魔女8iの彼女の担当はずばり《防衛部門》。

 魔都と魔女機関本部の守護という、重大な役職。



 彼女はあるインタビューでこう語った。

「外道魔女も増えた昨今、防衛というものは一番大事ですからね。我が防衛部門こそが魔女機関の最も重要な役職でしょう」

 ──この発言がかの有名な《邪悪魔女大論争事件》を招いたのだが、それはまた別の話。



 ケムダフは常に長大な杖を持ち歩く。

 この杖で街中に待機する配下の魔女に指示を与え、警備を行わせているのだ。

 また、彼女自身の強い魔力感知能力を更に引き出す、増幅器をしての役割もある。

 ──その感知能力が、ある魔力を捕らえた。


「…………!」


『それ』を感じたケムダフは血相を変えて指令室を飛び出た。





 数刻後。クリファトレシカ99階、邪悪魔女会議室。


「バシカルとシェリルスは任務、シャーカッハは遠征……か。まあ仕方ない」


 集まった魔女を見渡しケムダフは呟いた。


「緊急の話とは一体なにごとだ」

「今から説明する。覚悟して聞いてね」

「……」


 不穏なものを感じ取り皆強張る。


「ついさっき、《戦火の魔女》の魔力を感知した」


 とんと静まる会議室。最初に言葉を零せたのはアイヤツバスだった。

「────ありえない」

「残念ながら事実だよ。私の感知に狂いが無いのはみんな知ってるでしょ」

「その魔力はどの辺りから?」

「分からない。ほんの一瞬だったからね」

「SRRRRRRR……」

「何か、手は」

「勿論打ってある。四つの駅全てで検問を行うよう指示を下した。また、感知力に優れた人員を総動員してもいる」

「──私、残酷魔女の方に行ってきます」

「ああ、頼んだ」


 アクセルリスは食い気味に立ち上がり、そのまま足早に退室した。


「私たちもできることをしようか」

「そうだね。私の部下の中で感知が得意な人員を援護に向かわせます」

「私もだ」

「助かるよ、イェーレリー、アディスハハ」


 二人も部屋を出る。


「SHHHRR……わたしは情報の隠蔽工作をする。余計な情報の流出でヴェルペルギースの経済が乱れるようなことがあってはならない」

「うん、頼んだよカイトラ」


 カイトラも退出。残ったのはアイヤツバス。


「アイヤツバス、君は」

「…………データベースから情報を集め、戦火の魔女の行動傾向を探ってみる。何か有力なものが掴めたら報告するわ」

「うん、ありがたく。それじゃ私ももう行くね」


 ケムダフが退出。残されたアイヤツバスは座ったまま、呟いた。


「──おかしい。何かが」


 まもなく彼女も姿を消し、会議室は静寂に包まれた。





 扉が勢いよく開かれる。


「シャーデンフロイデさん!」

「アクセルリスか。話は伝わっているぞ」


 現在集まっているメンバーは五人。


「戦火の魔女の魔力が検出されたんだってね」

 アーカシャは目線を手元から離さぬまま。


「由々しき事態だ。俺たちが何とかしねえと」

 グラバースニッチは装甲を纏い、臨戦態勢。


「何か対抗手段はあるんですか?」

「そりゃあるさ、なんせウチのエンジニアは一流だからね」

「褒めても何も出ないよ、ミクロマクロ。っと、ひとまず四人分は調整し終わったよ」


 アーカシャが見せたのはゴーグル。見た感じでは何の変哲もない。


「レンズ部分に魔法石を使っててね。これを装備すると、特定の魔力──今回なら戦火の魔女だね。それが可視化される」

「ハイテクぅ」

「これを使って魔力を辿り、発生源を特定してもらう」

「残留魔力が消えちゃパアだからね、なる早で頼んだよ」

「了解です!」


 アーカシャはゴーグルを渡して回る。アクセルリス、グラバースニッチ、ミクロマクロ、そしてアガルマトに。


「…………え?」

 アガルマトに。

「え?」

「え? じゃないよ、あんたにも行って貰うんだよ」

「わ、私が……?」

「当たり前でしょ、人数足りないんだから。バカ武器マニア(イヴィユ)たかPお嬢様(ロゼストルム)も全然帰ってこないし」

「わたし、なんか、違くない?」

「何言っても無駄だかんね。あんたは西」

「う、ううぅゥぅ……」


 めちゃくちゃ嫌そうな顔のアガルマトには目もくれず、各メンバーに割り振りを行う。


「グラバースニッチは北、ミクロマクロは南、アクセルリスは東ね。ほら、分かったらとっとと行く!」

「了解です!」

「了解だ!」

「了解ー」

「ううゥ……」


 四人は迅速に任務を開始した。


「頼んだぞ」





 街に降りたアクセルリス。活気は相変わらず。情報は漏れていないようだ。

 通りを進んでいては通行人に阻まれロクに活動できない。そのため彼女は家々の屋根を飛び渡って調査を行っていた。

 だがなかなか見つからない。


「トガネ、起きてる?」

〈起きてるぜ、始めっからな〉

「そんなら話は早い、あんた魔力とか探せないの?」

〈そうだな、なんとなくだけど匂いで分かる……かも〉

「分かるんだ!?」

〈期待されてなかったのかよ!?〉

「どう? なんとなく匂い感じない? 私はまだ何も見つけてないんだけど」

〈んー……右から何となく焦げ臭さを感じる〉

「右」


 アクセルリスは言われるがまま右を向く。


「……ん」


 彼女の目は捕らえた。路地裏に続く道。そこにわずかだが、赤黒い色をした残光があるのを。

「あれか! ナイストガネ!」

〈へへん。もっと頼ってくれていいんだぜ?〉

「それは保留!」

〈なんでさ!?〉



 残光に沿って進むアクセルリス。進めば進むほど色濃くなってゆく。


「これは当たりなんじゃないか?」


 一歩、また一歩と進み、路地の角に当り、曲がろうとしたその時。


〈主! 上だ!〉

「ッ!?」

 トガネの声で素早く上を向く。

 頭上から襲いかかってきたのは数本の鎖。先端は楔状になっていて、危険だ。

 アクセルリスは地面を強く踏み込み、前方にステップ回避。

 回避された鎖たちは石畳に深く突き刺さる。トガネがいなかったらと思うと恐怖しか感じない。

 そして鎖はすぐに霧散した。

「なんだったんだ?」

〈主! まだだ、まだ来る!〉

「マジか、マジで!?」

 トガネの言葉通り、鎖は再び襲来する。

 今度は前後左右、横方向の退路を封じる様に。

「マジだ! なんなんだ!?」

 足裏に鋼の棒を生成することで上方に回避。だが。

〈まだ来る!?〉

「どこまで……!」

 三度。今度は前後上下左右あらゆる方向から、それも時間差で襲い来る。

 不安定な鋼棒の上では回避は悪手。

 棒から家々の屋根に飛び移り、その場からの撤退を試みる。

 ──が、そう上手くもいかない。

「……ッ」

 アクセルリスの目に映るのは、無数の発射待ちの鎖。

「……いいよ。相手してやる。かかってきな」

 言い終えると同時に鎖たちが牙をむく。

 アクセルリスの残酷なる銀の瞳はそれらを一つずつ、的確に見切り、最善の動作、最善の回避行動を取る。

 次第に鎖の量が増え、攻撃が激しくなる。回避動作も自ずと限られてくる。



 ──そして、アクセルリスはとある広場に降り立った。


【続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ