#2 冷たき姉妹
【冷たき姉妹】
──閉廷よりもやや前。
よく似た顔の二人の魔女が、クリファトレシカ6階の倉庫で鉢合わせた。
「おや、バシカル殿」
片や、環境部門秘書、カーネイル・キリンギ。
「姉様」
片や、邪悪魔女1i、バシカル・キリンギ。
そう。この二人は姉妹だったのだ。それも双子。
「奇遇ですね、このようなところで」
「お久しぶりです、姉様はここで何を?」
「私は探しものを。──部門長からの頼みですので」
「部門長──アクセルリスですか」
「然りです」
「彼女は上手くやっておられますか?」
「ええもちろん。流石は貴女が見込んだお方」
会話がそこまで続いたところで、バシカルは眉をひそめる。
「あー、そのですね」
「いかがなされまして?」
「今は我々二人しかいない様子。かしこまらず、いつもの話し方で良いのですが……」
「これは失礼。長いこと秘書として働いていたため、自然と定着してしまったようで。……ですがそれならば」
「?」
「貴女も自然体で振舞うのが礼儀ではないでしょうか?」
「……それもそうでした」
二人は同時に目を閉じ、同時に深呼吸。流石は双子、息がぴったりだ。
「それじゃあ──」
「自然体で──」
「で──そっちは最近どうなのさ、姉ちゃん」
「ん~もぉバッチシ! アクセルリスちゃんもぉ、一人前だしぃ? さっすがバシカルちゃんが見惚れただけはあるってカンジ!」
「見惚ちゃない! 話を捏造すんな!」
「うっきゃー! ごめんねバシカルぅ~」
「抱、き、付、く、な!」
嗚呼──我が姉ながら、仕事と私事の寒暖差が激しすぎる──まとわりつくカーネイルに抵抗しつつバシカルはそう思った。
「離れろぉー!」
「んもう、そぉんなさみしくなる様なこと言わないでよっ。魔女になる前はよくこうして抱き合ってたでしょぉ?」
「ア、レ、は! 寒かったからでしょーが!」
「わたしさみしぃーの! ひっさしぶりにバシカルと触れ合えてるんだからァ! おとなしくなさい!」
「や、め、ろぉー!」
油断した──ここ最近姉との接触も減っていたが、その反動がこうして現れるとは──後悔するバシカル。
「あっ、そういえば話があるんだった」
「あぁん?」
急にバシカルから離れ、声色を改めるカーネイル。
どんだけ情緒不安定なんだよ私の姉は。私もこうならなくて本当に良かった。バシカルは思う。
「《戦火の魔女》の件なんだけど」
「──何か、分かったのか」
「外道魔女たちが同盟を組み始めたことは知ってるよね?」
「ああ。アクセルリスが聞き出したと」
「その同盟──名前は《魔女枢軸》。その統領こそが戦火の魔女らしい」
「……なるほど、確かに腑に落ちる。外道魔女を束ねるなど、それこそ戦火の魔女くらいにしか思いつかない所業だ」
「バシカル、貴女はこの情報をどう捕らえる? 損か、あるいは」
「得に決まってるだろ」
即答。バシカルに迷いは無い。
「その心は?」
「戦火の魔女に繋がる者が少なからず存在するということだからな」
「ええ、そうね」
「これまでは一切合切が霧の中だったが、これからは魔女枢軸の者に尋問を行っていけばいつか奴に辿り着く。そういう事だろ?」
「流石はバシカル。我が誇りの妹」
カーネイルは微笑む。だがバシカルは拳を強く握りしめ、呟く。
「…………全ては、あのとき、奴を仕留め損ねた私たちの責任なんだ」
「……ええ」
「だからこそ、私たちは何としてでも戦火の魔女を殺さなきゃならない」
「そう、ね。分かってるわ、勿論分かってる」
「…………」
「でも……無茶しちゃダメよ。貴女の事を大切に思ってる子もいる。あまり気負いすぎないでね」
「……ありがとう、姉ちゃん」
「いいのよ、姉として貴女にしてあげられるのはこれくらいだけだから」
お互いに目を見合わせ、頷き合った。
「……それでは、私はそろそろ行きますね。御達者で、バシカル様」
「ええ、お気を付けてください、姉様」
冷たき姉妹の、ほんの一幕。
【冷たき姉妹 おわり】