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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
あとがき
277/277

そして、

 三つ眼のカラスが紫色の空を飛ぶ。


 辿り着いたのは深い森、降り立ったのはとある工房。おびただしい数のツタに覆われた古い看板の横に、真新しい看板が立っていた。

 カラスは器用に扉をくちばしで数回突く。


「ありゃ、手紙?」


 中から現れたのは、銀髪が光に映える明朗な少女。

 カラスの首から一通の手紙を受け取る。役目を終えたカラスは再び飛び立ち、空の向こうへ消える。

 その場で封を破り、内容を読む。


「お師匠、どうかしたか?」


 中に戻らない彼女を心配して、奥から声がする。どこか荒々しい感じのする、別の少女の声だ。


「……朗報だよ」

「なんだぁ?」

「アルルタミラ、《(フォル)(ガニン)(タ・マ)(ジア)》がお前を採用するってさ」

「……え?」

「ウソじゃないって。ホントに書いてあるから」


 手紙を渡された若き魔女──アルルタミラは、眼をこすり、一文字一文字をしっかりと読む。

 確かにそこには書いてあった。彼女を《(フォル)(ガニン)(タ・マ)(ジア)》の一員として認めることを。


「…………よっしゃああああっ!」


 アルルタミラは喜びを爆発させ、手紙を奪い取っては脇目も振らず工房の中へと走り去った。


「こら、危ないよ」

「母さん! 見てくれよこれ! 私、やっと魔女機関に認められたんだ!」

「わー! よかったねアルルタミラ!」

「まったく遅すぎるよな!」

「だねー。アルルタミラすっごい頑張ってたもんね!」

「だろー?」


 屋内から聞こえるのは二人分の声。アルルタミラのものと、優しく華々しい色のもの。


「アディスハハ、あんまり甘やかしすぎないでね」

「はーいっ」


 響く快闊にそう釘を刺し、彼女はそのまま庭の中央へと歩み出た。


「やれやれ。アディスハハのことは『母さん』って呼ぶのに私はずっと『お師匠』なんだよなー」


 口を尖らせ小さくぼやく。だが実際のところさして気にしてはいないようで。


「……ま、『お師匠』も悪くはないんだけどね!」


 そう笑う、銀色の魔女──見習い魔女アルルタミラを養子として、そして弟子として育てるこの魔女。

 彼女の名は、既に物語を冠する座を捨てている。故に、今の彼女はこの世界にあってただ何者でもない魔女でしかない。


「んー、いい天気だ。()()()も確かこんな快晴だったっけ……」


 どこか感じた懐かしさに身を預け、うららかな光の中で回暦に沈む──しかし、すぐに首を振って現へと戻る。


「っと、ダメダメ! 今の私に思い出に浸るヒマはないや」


 宿業は終わった。時は先へと進み続ける。ならば、灼銀の眼を向けるべきなのは過去か未来か、問うまでもないだろう。

 彼女が今見るべき世界を取り戻す、それと同時に工房から声が聞こえた。


「お師匠? 戻らないのかー? 母さんが朝ごはんできたって呼んでるぞー」

「うん、すぐ戻るね!」



 愛する者の手料理。それは彼女にとって何よりも優先される──だが今は、それをも上回る、悪戯めいた欲望があった。

 けして衝動的なものではない。むしろ逆で、ただ心がむず痒くなる程度の小さな欲望。だが、それは止められるものではなく、また止める必要があるものでもないのだった。



「せっかくのタイミングだ。改めて、言っておこう」



 そして彼女は、まっすぐに空を仰ぎ、どこまでも、世界を超えた先にすらも、聞こえるように叫んだ。



「私の名前はアクセルリス────今日も私は、生きるぞーっ!」






【残酷のアクセルリス おしまい】

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