表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
50話 ACCEL・Re:Start
274/277

#4 十の邪悪:新約

【#4】




 魔都ヴェルペルギース、魔女機関本部クリファトレシカ99階、邪悪魔女夜会室。

 絢絢に輝くシャンデリア。爛爛に広がるカーペット。極限まで優雅で美しく仕上げられた空間。

 部屋の中央には円卓。そしてそれを取り囲む──10人の邪悪魔女。



「────これより点呼を行う」



 今宵もまた、夜会が始まる。



「1i、シェリルス。出席」

 名はシェリルス・キリンギ(Sheriruth-Killing)。灰色の髪を短く切り揃えて黒い鎧を身に纏い、背にはロストレンジを備えるその姿こそ新たな執行官に相応しい。


「2i、イェーレリー」

「──」

 名はイェーレリー・オストロスト(Iweleth-Ostlost)。夜会にもまた、鎧骨ガイコツで全身を覆った正装での出席だ。


「3i、インヴィンシブル」

「押忍ッ!」

 名はインヴィンシブル・エイトレイヤー(Invincible-Eightlayer)。魔装束の上からでも鍛え抜かれた肉体の脈動を感じる、極限の武闘派魔女だ。


「4i、アディスハハ」

「はーい!」

 名はアディスハハ・アルジェント(Adyeshach-Argent)。花咲く笑顔と大樹の如き寛大であらゆる命に癒しを与える、華々しき魔女。


「5i、アクセルリス」

「はい」

 名はアクセルリス・アルジェント(Akzeriyyth-Argent)。鋼の生存本能を備えた、剛毅なる残酷の化身。


「6i、カイトラ」

「は」

 名はカイトラ・アルコバレノ(Kaitul-Arcobaleno)。最近は体調が優れているようで、名状しがたき触手の制御が楽になったらしい。


「7i、シャーカッハ」

「はぁい」

 名はシャーカッハ・ヒュドランゲア(Shakah-Hydrangea)。変わらず妖艶な姿。心に抱える孤独の寂しさも、最近は和らいできたという。


「8i、ケムダフ」

「ハァァァァァァイ」

「はいはーい」

 名はケムダフ・アイオーン(Chemdah-Aion)。本体たる帽子、義体たる少女は今日も一心同体にある。


「9i、リチュアリス」

「は、はいっ!」

 名はリチュアリス・メガリト(Ritual-Megalith)。分厚い眼鏡の下には清純な眼差しが在る。気弱な部分はあるが、邪悪魔女に上り詰めるだけの実力を有しているのもまた事実である。


「10i、キュイラヌート」

「ここに」

 名はキュイラヌート・ヴォルケンクラッツァー(Qimranut-Wolkenkratzer)。氷の玉座にて、膝上の三眼の烏を撫でながら。



「全員の出席を確認。これより邪悪魔女定期夜会を始める」


 シェリルスの声は凛々しく、よく通る。


「今日は現在の体制になってから第一回目の夜会だ。改めて──インヴィンシブル、リチュアリス、邪悪魔女着任おめでとう」

「ありがたき言葉っ」

「あ、ありがとうございます……! がんばります!」

「これから一同、よろしく頼む」



 仕切る執行官と新任のやり取りを見て、アクセルリスは自分が邪悪魔女になったときを思い出していた。


(何百年も前のことにも、ほんの数日前のことにも感じる)


 あの日からこの瞬間まで、世界の時は3年が過ぎた。あの頃に比べ前に進めたか問われれば、それは決して否ではないだろう。


(それほどまでに華々しく、そして険しいものだった。だけどこれだけは言えるな────)


 銀色の結論が導かれる刹那、彼女の懐古を妨げる執行官の声が響いた。



「アクセルリス、何を呆けている」

「──あ、なんか顔に出てました?」

「誰がどう見ても上の空な表情をしておいてよく言える」


 シェリルスの言葉にアクセルリス以外の邪悪魔女、その全員が頷き同意する。

 流石に若干の恥ずかしさを覚えたが、まあ自業自得だと割り切った。


「……思い出していたんですよ、私が邪悪魔女になったばかりのことを」


 故に誤魔化すこともなく、アクセルリスは言う。


「私の出自はちょっと特殊だったもんで、右も左も分かんないまま邪悪魔女になって」


 アイヤツバス──その思惑に乗せられるまま、彼女は素晴らしき十の邪悪の一つになった。それすらも遠い過去となってしまった。


「初めての夜会ではありえないくらい緊張してたし、しかも当時のシェリルスさんには凄まれるしで大変だったなぁ……って!」

「ま──待て、あの件は誤解だったってことで落ち着いたじゃねェか!?」

「シェリルス、口調」

「ぐ…………兎に角、今は夜会の最中だ。余計な思案で気を緩めるな……!」

「はーい、気を付けます!」


 目まぐるしく、他愛のないやり取り。インヴィンシブルもリチュアリスも静観に徹していたが、やがて顔に笑みを浮かべた。二人の緊張もほぐれ、雰囲気も柔らかくなっただろう。


「……では、夜会を再開する────」



 そして夜会は進む。顔ぶれも環境も大きく変わったが、今までのように進み続ける。

 魔女機関も、世界も、命も──これまでのように変わりなく進み続けるのだろう。

 彼女たちがここにいる限り。

 アクセルリスがアクセルリスである限り。



【続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アクセルリスとアディスハハが同じ姓になったことで結婚したと判るのが大変尊いです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ