#14 繋げ、銀色大衝撃!
【#14】
その先の今、二つの物語は一つになったのだ。
「うおおお────!」
アクセルリス、アディスハハ、イェーレリーの三者を包み込んだ骸の樹球が、時代を終わらせる隕石の如く地表に迫る。
そしてそれを迎える無数の命たちは、同じ決意を表情に宿していた。
「みな、構えろ!」
カイトラが叫びながら無尽蔵の触腕を伸ばす。
「この場に居合わせるのならばみな『当事者』だ! 野次馬となることは許さん──総ての力を以て彼女たちを出迎えろ!」
檄が飛び、同時にシャーカッハとケムダフもその横に並んだ。
「一生に一度あるかないかの大舞台、私たちと共に楽しみましょう?」
「さあさあ遠慮しないで! ほらおいでよ!」
邪悪魔女たちの呼び掛けに、魔女たちは一斉に答えてゆく。
「アクセルリス──いや! 俺達残酷魔女の超新星! お前の帰りを皆待ってんだ! 来い!」
「こればっかりは、本部待機って訳にもいかないもんね!」
「せ、精いっぱい頑張るわぁァぁァ……!」
「あの輝きを間近で味わえるとは。光栄だ」
グラバースニッチ、アーカシャ、アガルマト、ディサイシヴ──そして旅立った残酷魔女の影たち。
「私は約束を果たした──次は君の番だろう、アクセルリス!」
「貴女が私達に道を示してくれたように! ワタシたちは貴女の道を途絶えさせません!」
「戦の火絶え 降る銀の星 拾う我が腕 アラクニー」
「数多の命が君で繋がり、今此処にあるのだ! 最高のエモみがあるじゃあないか!」
「何百年かぶりの課外任務がこんなにクライマックスだなんて、何が起こるか分からないなアッハハハ!」
執行人フネネラル、異形の使徒アントホッパー、呪術師アラクニー、星見台ネビュラアイ、情報管理官マーキナー。魔女機関に仕え、アクセルリスを影ながらも支え続けてきた力たち。
「よく成し遂げた。だけど私が思い描くハッピーエンドは救世主の帰還があってこそだ! さぁ、私を満たしてくれよ!」
「まさかここまでの大物になるとはな! 流石の私でも想像してなかったさ! だからこうして、海越え陸越え迎えに来たぞ! 総員構え!」
「正直私がここにいていいのか分かんないけどノリと勢いだよね! こういうのは得意だから任せといてよ!」
「スラッジの言う通り! この盛り上がりを逃しちゃダメだよね!」
伝説のコック・リバラヘッド、魔海社船長アドミラルと彼女が率いる船員たち、そして渦巻くヘドロの中心にはスラッジとミーティア。これらも皆、確かにアクセルリスが結んできた縁である。
「姉さんが待ってるんだ、姉さんを悲しませるのは俺が許さない──帰ってこい、アクセルリス!」
「その通り──貴女が帰ってこなかったのなら、私たちはファルフォビアにどんな顔を向ければ良いと言うのですか!」
「世界が俺から大切なものを奪い続けるというのなら、どこまでも抗ってやるさ!」
「アクセルリスさまああああっ! どうか、どうかこのタランテラの胸へ飛び込んできてくださいませ────!」
エルフのフィアフィリアとカプティヴ、竜人ダイエイト、アラクネのタランテラ。縁の先は魔女に留まることはなく。
「全員! 何としてでも受け止めろ!」
カイトラの咆哮。そしてこの場に集う全員が、一斉に吠える!
「アクセルリス────!!!」
名を!
同胞の。朋友の。憧憬の。救世主の──否。一人の生きる少女の名を、世界は叫ばせた!
声は、全てアクセルリスに届いていた。
「みんな──」
それはアクセルリスの残酷をどこまでも研ぎ澄ませ、決して砕けぬ生存本能と成る。
「そうだ──みんなが待ってる。だったら私は──それに応える!」
彼女の熱が、叫びが、残酷が。アディスハハとイェーレリーに──全ての命に伝播する。
「絶対──」
「絶対に!」
「絶対に、生きる!」
三人の言葉が同調する。
そして直後────大衝突が起こった。
「──────!!!!」
大陸を砕き、最盛の栄華を絶滅させるかのような衝撃──しかし魔女たちは抗う。己のためでも、世界のためでもなく、ただアクセルリスのためだけに!
「堪えろ────っ!!!」
「言われなくても!」
「皆分かってるわよそんなこと!」
最前線のパーティーメイカーズが叫ぶ。カイトラは大量の触腕を、シャーカッハは砕けると同時に再生する腕を、ケムダフは本体から伸びる巨大な腕を。
それに並び、この地に芽吹く全ての命が全霊を尽くして骸樹球を押し留める。
「アクセルリス──!」
「帰ってこい、アクセルリス!」
「アクセルリスさま! アクセルリスさまーーーーっ!」
ひとつひとつは戦の火にあっけなく滅ぼされてしまう命かもしれない。
しかしそれが無数に集えば、あらゆる滅びをも乗り越える輝きとなる。それは先の星戦によって証明された。
ならば、ならば。
「もう一瞬でいい! 踏ん張れッ!!!」
「来い──来い! 来い!!!」
「がんばって、鋼の人! 私たちもがんばってるから!」
「約束は! 此処に在るッ!」
残酷のアクセルリス。それぞれが彼女に有する様々な思いを胸に、最後の力を振り絞る。
ゆっくりと、ゆっくりと、しかし確実に、三つの命を包んだ球の勢いは殺されていく。
「アクセルリス────!!!」
そして、ついに────速度が完全なるゼロに至った球体は、静かに、しかし重々しく大地へと触れた。
「──────!」
着弾。その瞬間、球状を成していた植物と骸が弾け飛んだ。破裂の衝撃にある者は顔を背け、ある者は驚きに叫んだが、それらはもう何者をも傷付けられない程に朽ち切っていた。
それは中に燃える命を守り通した証に他ならず──それを証明するように、爆心地には手を繋いだまま倒れて空を仰ぐ三人が残っていた。
「──」
中央、アクセルリスは呆けたような顔で空を眺めていた。両隣のアディスハハとイェーレリーはその顔を見て、安堵の微笑みを浮かべた。
「…………」
目まぐるしい破滅と救世の輪廻。その果てにある涅槃、誰もが言葉を失い彼女たちを見守る。
アクセルリスは両手をぎゅっと握りしめた。右手にはアディスハハの。左手にはイェーレリーの。その手を握り、確かな脈動を感じ取る。
そして、言った。
「生きてる」
アクセルリスという存在を示すのに何よりも適している言葉だった。
「私は──生きてる──!」
至上の喜び。これ以上ない笑顔と共に、銀の瞳は残酷に輝いた。
「……アクセルリス」
この場にいる全員が同じ言葉を浮かべただろう。それを代表するように、アディスハハはアクセルリスを見つめ、言った。
「おかえり!」
「…………うん、ただいま!」
残酷な復讐を歩む銀の覇道、その終着点。
それが、此処だ。
【続く】