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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
44話 進化の終着点
231/277

#6 先カンブリアに愛を込めて

【#6】


「アクセルリスッ!」


 丁度時を同じくして、グラバースニッチとディサイシヴが姿を見せた。


「これは」


 二人はその現場──姿を消したアイヤツバス、悔し気に震えるアクセルリス、そして深手を負ったイヴィユ──を見て、即座に何が起こったかを理解した。


「……逃げたのか」

「……はい。ペンダントも奪われ、槍も届かず……!」


 深く悔やむアクセルリス、しかしその眼に宿る残酷は、するべきことを映す。


「まだ追えるはずです、行かないと」

「いや」


 しかしそれを、ディサイシヴが制した。


「先程、別動隊が到着した。今はそちらが戦火の魔女を追跡している。我々はクリファトレシカへと帰還する」


 グラバースニッチも同意するように言葉を続ける。


「俺達も手負いではある、ここは退くことも大事だ」

「重要な物品を奪い返されたのは事実、焦る気も解る。だが我々がすべき最善の手は『帰還』だ」


 二人の言葉を聞き、アクセルリスは冷静に。


「……了解です。私たちはここで起こったことを報告しましょう」

「魔行列車は既に手配してある」


 そして三人が振り返れば、地に臥すイヴィユと目が合った。


「おまえ……たち……」

「……イヴィユ」


 誰も、何も言えず、ただその姿を眼に映すことしかできず。

 やがて口を開いたのは、イヴィユ自身だった。


「わたしは……なんだった、んだ」


 それは最もシンプルにして最も難解な問い。数多の命が、その謎に挑み、そして果てていった。


「わたしの進化は……わたしの存在とは……?」

「イヴィユ」


 答えたのは、アクセルリスだった。


「私はお前を許さない」

「────」

「アイヤツバスに騙されていたとはいえ、外道に堕ちたのはお前自身の選択だからだ。だから私はお前を許さない」

「そう、か…………」


 静かな怒り。死に這い寄られた全身でそれを味わい、イヴィユは静かに目を閉じた。


「ただ」


 だがアクセルリスの言葉がそれを阻んだ。


「私は、頼りになる先輩だった『イヴィユさん』に対して、伝えるべき言葉がある」


 そのとき、世界が自然と静粛を選んだ。


「あなたは、間違っていなかった。ただひたむきに進化を求め続けたその姿勢は、私の目には輝かしく映っていた」


 語るのは、灼銀の眼が見ていた《進化の魔女》の姿。


「その『進化』が間違っていたとしても、その心は間違っていなかった。少なくとも私は、そう感じている」


 それは紛れもない、銀色の残酷が宿している本心だった。

 命尽きる寸前、イヴィユはそれを魂で感じ取った。



「…………そうか」



 そして。


「だが忘れるな。私はお前を──外道魔女イヴィユを、許さない」


 伏すイヴィユ、その眼前に立つ。


「私はこれ以上、誰かの仇を背負って生きたくない」


 そう言いながら、イヴィユの身体を漁り、そして手に取る──銃を。


「だからロゼストルムさんの仇はここで討つ」


 アクセルリスに銃を扱った経験はない──だが、引き金を引けば銃弾が放たれ、敵を殺傷する。それはイヴィユから聞いていた。

 銃口を血塗れの額に当てた。これならば、外さない。

 そして、躊躇うことなく。


「さよなら」


 鈍く銃声が響いた。

 銀の弾丸は、一瞬でイヴィユの脳を貫き、彼女の命を消した。

 薫風と進化。二つの禍根が、消え去った。




「────」


 グラバースニッチ、そしてディサイシヴは、残酷(アクセルリス)が残酷たる様子を見届け、ただ沈黙に佇んでいた。


「…………戻りましょう。私には──嫌な予感がします」


 アクセルリスの声で、止まった二人の時間が動き始めた。

 そして魔女は姿を消し、この地にはあらゆる残酷も外道も消え失せた。




 しかし世界は、確実に、終わりに向けての一歩を踏み出していた。



【進化の終着点 おわり】

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