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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
44話 進化の終着点
226/277

#1 エディアカラを超えて

 黒、深く。

 歪なる虚無の空間を走り抜ける鉄塊──魔行列車。

 位相の『ズレ』た世界であるヴェルペルギースと基底の世界を繋ぐ唯一の存在であるこの列車は、このような異空間をトンネルとして通過し、往来を可能としている。


 その、背。

 虚の業風が吹き荒び、あらゆる存在を虚無の向こうへ置き去りにする。

 到底、生物が活動するのに値しない地獄郷──しかし今此処には、2人の魔女が存在していた。


 アクセルリス。そしてイヴィユだった。


 二人の魔女は睨み合い、互いの姿をその瞳に映す。


「良い風だ。我が身を呪うこの風、更なる進化に相応しい」


 イヴィユは両手を大きく広げる。ミリタリーコートが激しく棚引く。

 そしてその首元では、赤黒いペンダントが揺れていた。


 それは言うまでもなく──シャーデンフロイデが死に際に奪った戦火の魔力を貯蔵しているそれだった。


「黙れ。そしてそれを返せ。お前なんかが持ってていいものじゃない」

「それを決めるのは私だ、生憎な」


 挑発するかのようにペンダントを主張し、イヴィユは邪悪な笑みを浮かべる。



 何故彼女がシャーデンフロイデのペンダントを持ち、魔行列車で残酷魔女たちと相対しているのか。

 それを紐解くには、少し時間を遡る必要がある──





【進化の終着点】





 魔女機関本部クリファトレシカ。

 その98階、残酷魔女本部は今──混乱と喧噪に包まれていた。

 理由は、たった今駆け付けたグラバースニッチの言葉が明かす。


「クリファトレシカにイヴィユが侵入しただと!?」

「ああ。例によって私の魔力検知とアガルマトの人形の双方で実在を確認した」


 忙しなく手を動かしながら、事実確認に答えるのはアーカシャだ。


「ヤツは今どこに」

「ちょっと前までは私のラボに。今は──ちょっと掴めてないけど、クリファトレシカから出ようとしてるのは確かだね」

「……アーカシャさんの研究室?」


 残酷のアクセルリス、灼銀の眼が不穏を察知し細められる。


「まさかとは思いますが、イヴィユの目的は」

「ああ、その通り。私が保管していたシャーデンフロイデの形見──戦火の魔力を蓄えたペンダントを奪い、消えた」


 イヴィユが狙ったもの。それこそ、失われし戦火の力を宿すペンダント。言い換えるのならば、世界を正しき方向へ導くためのさきがけ。


「動機は分からないが、とにかく我々からしてみれば大迷惑なことに変わりは無い。アイヤツバスに対抗しうる策の一つを奪われたんだからね」


 ミクロマクロは淡々と、告げる。


「だからこそ、奪い返さなければならない。絶対にね」

「…………イヴィユ、発見。クリファトレシカを脱出し、ケイトブルパツ地区の路地に消えていったわぁァぁ」

「いいタイミングだアガルマト! さて、では二人とも」


 目を向ける。アクセルリスもグラバースニッチも、既に臨戦態勢に至っている。


「……これ以上言う必要はないね。頼んだよ」

「了解ッ!」

「了解です!」



 そして滾れる二人の魔女は勢いよく駆け出した。





 少しの後、アクセルリスとグラバースニッチはクリファトレシカの門にて立っていた。


「アクセルリス、奴はどこへ逃げたと読む?」


 獣の問い。

 先程のアガルマトの報告は『イヴィユはケイトブルパツ地区に消えていった』というものだ。であれば、該当地区の細かな路地を捜索するが定石──だがアクセルリスは、揺らぐことなく答えた。


「恐らくは、ケイトブルパツ駅の第9ホームかと」

「ああ、俺もバッチリ同意見だ!」


 何故二人はそのような結論を出したのか。共に歴戦の残酷魔女、直感を強みとする両者だがこの場においてはその限りではない。

 『ケイトブルパツ駅第9ホーム』。それこそが、隠されし『穴』であるのだ。


 件のホームは魔女機関が脆弱性として()()()設置したホームである。そして、その情報はそれほど秘匿されていない。

 するとどうなるか。

 ヴェルペルギース内で悪事を働いた外道たちは、抜け道としての情報を得たケイトブルパツ駅第9ホームへと向かうことになる。実際には他よりも過剰なセキュリティが敷かれているということなど、知らずに。

 そして異常が察知され、魔行列車を管理する魔列社の代表である列車の魔女ディサイシヴへと連絡が届けば、残酷としての本性を明らかにした彼女によって処分される。そういった防衛システムが構築されているのだ。


 ただ、この事実は残酷魔女であったイヴィユも当然理解しているはずである。

 にも拘わらず、ケイトブルパツ駅第9ホームへ遁走したと二人が読んだのは、対象がこの局面において可能性の薄い姑息を行うような性質ではないと判断したからに相違ない。

 そして同時に、追手を迎え撃てるだけの策を有しているということも、既に考慮の内であった。


「まァなんだかんだ言っても、結局カチ合わなきゃ始まらねェ! 急ぐぞ、アクセルリス!」

「了解ッ!」


 二人の魔女は銀と黒の風となり、夜の都を吹き抜けていった。



【続く】

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