#5 煉光の虚夢
「……おや」
街を歩く一人の魔女。そんな彼女が目にしたのは、ふらふらとおぼつかなく歩く一人の少女。
それは今にも消えてしまいそうな、淡く白い、少女。
老若男女多種族が集まるこの街でも、そんな儚げな少女が一人でいるのは不審であった。
故にこの魔女はその少女を放っておけなかった。
「君、迷子?」
「…………」
(だんまりかぁ)
「そうだ、アメ食べるかい?」
「……知らない人からは、ものをもらっちゃいけない」
「うーん、それもそうだ」
魔女は困ったように腕を組む。少女は黙ったまま魔女を見つめる。
「そうだ、なら自己紹介をしようか。私はプルガトリオ・ヘルハイム。君は?」
「……シュガーレス・キャンディーベル」
「良い名前じゃないか。ほら、これで私たちは知り合いだ」
「……ん」
シュガーレスはアメを受けとる。プルガトリオは微笑む。
「美味いか?」
「うん」
「そうか、ならよかった」
「んぅ」
シュガーレスの頭を撫でる。彼女もまんざらでもない様子。
「さて、やっと本題に入れるな。君はここで何をしていたんだ?」
「別に、何も」
「なんだって? 迷子じゃないと?」
「うん」
「一人でこの街にいたのか」
「ここにいたのはたまたま。通りかかっただけ」
「通りかかっただけ? というと君は旅をしてるとでも?」
「うん。旅の途中」
「おいおい、冗談だろ? 見た感じ十歳にもなってないじゃないか」
「わたしも魔女だから」
「……なんと」
なるほど。魔女であれば全て合点がいく。プルガトリオは納得した。
「それじゃあ、何故旅を?」
「世界の果てに行く」
「……そりゃあまた、大層な。質問ばかりになるけど、なんで世界の果てに行くんだ?」
「ナイショ」
「はは、ジョークも言えるのかい」
「ふふ、驚いた?」
その時、シュガーレスは初めてプルガトリオの前で笑った。少女相応の無邪気な笑みだ。
「ああ。驚いたし、とても興味が湧いたよ。もしよかったら、私も君の旅に同行してもいいかい?」
「いいよ」
快諾。プルガトリオは面食らった。
「もうすぐに出るけど、だいじょうぶ?」
「ああ、大丈夫さ。私も旅する魔女だからね」
「それはよかった。心強い」
「……」
シュガーレスの目を見つめる。色の無いその虹彩の中に、確固たる意志が垣間見え、プルガトリオは思わず笑みを零す。
「それじゃあ行こう、プルガトリオ」
「ああ。世界の果てを目指して、出発進行だ」