#1 ただ、我らが成すべきこと
【たったひとつの変わらないもの】
【#1】
〈──非常に由々しき事態だ〉
キュイラヌートの冷たき声。駆動音と共に響くのは、クリファトレシカ99階:邪悪魔女会議室へと。
見渡せば、彼女たちの表情はいずれも昏く沈んでいる。
この場に会する魔女──『7人』。
つまり、空席が三つ。4i、5i、そして9iの三つである。
〈バシカル。現状の確認を〉
「……は」
執行官バシカルは一同を見渡す──その眼はどこまでも黒く──そして、喉を震わせた。
「先日12月12日、邪悪魔女9iであるアイヤツバス・ゴグムアゴグが《戦火の魔女》であることが判明、直後に邪悪魔女5iアクセルリスを連れ逃走した戦火の魔女の追跡を開始」
告げていくのは真新しき戦火の足跡。
「その工房にて会敵に成功するものの──環境部門秘書であるカーネイルの謀反、妨害行為により戦火の魔女が復活、加えて残酷魔女隊長のシャーデンフロイデがアイヤツバスに殺害され、そしてアイヤツバスは行方を眩ませた」
言葉の切れ端、バシカルの声は小さく震える。
「────すべて私の責任です。かつての日に戦火の魔女を取り逃したに留まらず、肉親の黒き真意にも気付かず魔女機関に巣食わせていたなど……!」
〈よせ、バシカル〉
キュイラヌートが制した。
〈汝一人の責ではない。なべて魔女機関そのものが負うべきものだ。言い換えるならば総督たる我の責ともいえる〉
「しかし」
「そうッスよ師匠!」
抑えきれず声を上げたのはシェリルスだった。
「師匠は悪くないッス! 悪いのは全部アイヤツバス──戦火の魔女でしょう!?」
「シェリ、ルス──」
弟子のどこまでも真っ直ぐに燃える青い瞳──それはバシカルの迷いをも焼き尽くした。
「…………不甲斐ない。弟子にまで諭されてしまうとは」
一つ、溜息を吐いた。その心の乱れは癒えたようだ。
◆
「現在のところ、アイヤツバスが戦火の魔女であったという情報は魔女機関の外部へは伝わっていません」
カイトラが触手を忙しなく動かしながら報告する。
「財政的な面では問題はありません」
〈良い、了承した〉
「……となれば、総督」
〈ああ。最も憂慮すべきなのは──〉
全員が目を向けたのは、空席の5i。
「……本来であれば」
口を開いたのは医療部門シャーカッハ。
「メンタルのケアやカウンセリングも私たち医療部門の役割──なのだけれど」
〈この状態であれば──彼女に託すのが最善だろう〉
零度の眼差しは、4iの席へと。
「アクセルリスのことはアディスハハが一番よく理解している──逆も然り」
「うん。だから私たちは信じるしかない。アディスハハと、二人の絆を」
イェーレリーとケムダフが目を合せながら言った。
〈二人は今、己の心と戦っている。ならば我々も、今の我々にすべきことを果たすのみだ〉
総督の強き言葉。邪悪魔女たちの表情も、決然と固まる。
〈全ては世界のために──戦うぞ〉
「了解!」
夜の帳の中で、凛々しい魂が輝く──
【続く】