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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
外伝:THE DOOM MAGIA/戦火の傷痕
203/277

#4 戦火種

──魔女暦5553年 2月2日 《戦火種》──



 魔女機関本部クリファトレシカ。

 そこは今、大いなる混乱の渦中にあった。

 要因は、つい先刻大都市ニューエントラルで勃発した大規模な破壊活動──その真実は、魔女枢軸から魔女機関への宣戦布告であったとされる。


「……」


 であれば、魔女枢軸を統べる正体であるアイヤツバスが、この事態を予見していなかったはずも、なく。


「首尾よくやってるかしら」


 彼女は現在本拠地である研究部門部門長室に。本来戦線と縁のない研究部門であるアイヤツバスは、おいそれと前線へ出向くことも出来ず。

 故に、彼女が現場の事態を知るのは、腹心であるカーネイルからの連絡を待つことになる。

 そしてその手に握る伝気石が煌めいた。


〈〈──聞こえますか、我が主よ〉〉

「問題ないわ。連絡を繋げてきたってことは、報告を期待していいのね? カーネイル」

〈〈はい。お伝え致します──〉〉


 ◆


 ニューエントラル。燃え盛る建物、焼け付く空、立ち上る悲鳴。まさに地獄変の渦中にカーネイルはいた。

 その視線の先には魔女枢軸の朋友、ゲデヒトニス。


「こちらカーネイル、ゲデヒトニスと現地にて合流致しました」

「我/同じく→合流」

〈〈状況の把握は?〉〉

「問題なく。ゲデヒトニスより報告を受けております」


 どこまでも冷静に。揺らぐ精神に身をやつす普段のカーネイルは此処には無い。


「バースデイによる空襲、ソルトマーチによる鼓舞、クラウンハンズによる虐殺、メラキーによる呪縛──全て滞りなく」


 舞い踊る魔女たち。秩序を歪ませる、外道の筋。


「ただ、ゲブラッヘ及びアントホッパーの活動は明確な確認が取れておりませんが」

〈〈問題ないわ。その二人は初めから計画の頭数にないから〉〉

「では、全く完璧なほどに進んでおります」

〈〈うん、よかったよかった〉〉


 アイヤツバスは胸を撫で下ろした。そして、核心を問う。


〈〈──それじゃあ、『回収』の方は〉〉

「無論、済ませてあります──ゲデヒトニスが」

「我/回収済み→《戦災の欠片》」



 《戦災の欠片》。それこそが、魔女枢軸がニューエントラル襲撃を起こした最大の理由に他ならない。

 その名からして予想は出来ようが──その通り、正体は『世界の各地に散らばった、戦火の魔女の力』である。

 戦火の魔女の手から解き放たれ、常世にて眠りに付いていたそれらは、極めて精度の高い魔力感知を用いなければ発見することは不可能。

 だからこそアイヤツバスは、ゲデヒトニスを『招いた』のだ。



〈〈お手柄よゲデヒトニス。この欠片が一番手間がかかるものだったから〉〉

「我/がんばった」

〈〈となれば、もうその地に用はないわね〉〉

「はい。我々はこの後適度な破壊を行った後、現地にて解散する手筈となっております」

〈〈現場の判断に任せるわ。くれぐれも証拠は残さないように──カーネイル、貴女は特にね〉〉

「承知しておりますとも。私はアイヤツバス様の忠実な僕です故に」

〈〈ふふ、そうね。じゃあ、切るわ〉〉


 連絡が途絶えた。カーネイルは一息吐き、ゲデヒトニスに向き直る。


「ではゲデヒトニス、後は──」


 その瞬間だった。



「姉ちゃんッ!」


 飛び出したのは、冷徹の魔女バシカルだった。その黒い眼が二人を捉える。


「バシカル」


 カーネイルが振り向く。

 同時に、ゲデヒトニスは姿を消した。一瞬の状況判断による撤退だった。


「無事だった!?」


 バシカルがカーネイルに駆け寄る。


「うん、問題ないよ」

「そうか、よかった」


 その言葉は、驚くほどに白々しく、感情の籠らないもの。

 しかし、バシカルが気付くことはない。


「今のは……」

「うん。外道魔女ゲデヒトニス」


 既にカーネイルは『バシカルの姉にして魔女機関環境部門秘書』の仮面を纏っていた。


「睨み合いになったから、いつもみたいに隙を見つけてブスリと行きたかったんだけど……あの魔女、瞬きどころか身じろぎ一つしないの! キモい!」

「ゲデヒトニス……どこまでも不気味な魔女だ」


 二人してゲデヒトニスのいた虚空を眺める。



 すると、その空の向こうから青い人形が飛んでくるのが映った。


「あれは、アガルマトの」

「ああ。どうやら頃合いのようだ。戻ろう」

「そうだね!」


 火の手が苦しいほどに盛り始めた街を、冷たき姉妹は共に駆け抜けた。

 その心は、初めから共にはなかったというのに。



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