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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
外伝:THE DOOM MAGIA/戦火の傷痕
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#2 冷徹の戦

──魔女暦5552年 10月7日 《冷徹の戦》──



 とある荒地にて。


「我/献上→アイヤツバス」

「ありがと、ゲデヒトニス」


 アイヤツバスはゲデヒトニスの手から一つの品を受け取る──赤黒い結晶。

 であればそれが、《記憶》の魔法によって《戦災の宝珠》を再現したものである事は、考えるに難くない。


「……うん。これまでの中でも最も優れているわね、これは」

「我/がんばった」

「じゃあ早速、試してみましょう」


 そう言って取り出したのは一つのベルト。『古のマジアティックアイテム』であるあのベルトだ。


「どれだけの成果が見られるかしら、ね」



 バックルに疑似宝珠を嵌め込み、魔力を籠める──全身に赤黒い光が奔り、そして知識の魔女(アイヤツバス)がこの世から姿を消した。



「…………ふぅん」



 溜息を零す。


「アイヤツバス/加減←如何に」

「そうね──これまでの中では最優。その評価は覆らないわ」


 全身に魔力を滾らせながら、手を開閉し、己の存在を確かめる。


「でも、まだまだ不十分ね。本来の力には程遠い」

「我/謝罪←力不足」

「謝ることはないわ。出来としては十分だもの。この感じなら激しく活動しても数分は持ちそうだし」


 仮初の戦火の力を取り戻したアイヤツバス。微笑み、晴れ晴れと両手を広げる。


「それじゃ、このまま野暮用を済ませてくるわね」

「了解」

「すぐに戻るわ」


 言うと、アイヤツバスの背から、翼のように赤黒い魔力が放たれる。

 それは彼女を容易く天へと飛び立たせた。



 そして、向かう先は──





 竜骨洞。


 巨竜の骸骨によって造られた、ドーム状の空洞。

 かつて起こった竜種同士の巨大な戦い──その戦死者たちの骸が積み重なって生まれた、悍ましくも大いなる歴史を感じさせる地。


 今ここで、かつての戦いよりも凄惨な斬り結びが、繰り広げられていた。



「キッ……ヒヒヒ……ヘヘハ」

 片や、全身に傷を負い、鮮血に塗れた羅刹の如き魔女──《剣の魔女バズゼッジ》。


「しぶとい奴だ」

 片や、黒色の甲冑で身を覆った、冷徹の化身たる魔女──《冷徹の魔女バシカル》。


 満身創痍のバズゼッジは、片膝を地に付けていながらも、しかし息絶えず、純然たる殺意を磨き続けていた。

 一方のバシカルは傷もなく呼吸も落ち着き。次の一太刀で確実に始末する──そう心に決め、愛剣ロストレンジを構えた。



 それはまさに戦いが決しようとするその瞬間──しかし、その終焉は誰にも予想できなかった方向へ進むこととなる。



「師匠!!」


 竜骨洞の外から響く声。バシカルの弟子、随伴していたシェリルスのものだ。


「何か……来ます!」

「何……?」


 そしてバシカルもすぐに異変に気付いた。

 見れば、知らず知らずのうちに、赤黒い煙が辺りを包み始めている。

 その煙は、どこまでも恐ろしく、寒気立つほどの兇気に満ちていた。


「なんだ……これは」

「キヒヒ……どうやら、神はまたアタシを救うらしい」


 バズゼッジの笑い声。それを隠すかのように煙が濃くなり、全てが黒いシルエットへ塗り潰される。


「師匠、大丈夫ッスか!?」


 異常を察知したシェリルスがバシカルの側に降り立った。

 だが、バシカルはまっすぐ前を見据えていた。


「……!」

「え……」


 バズゼッジの影の横に現れた、もう一つの影。

 その姿も煙に隠され、明確な姿は分からない。

 たった一つ、眼だけが光っていた──赤黒い、戦の火のごとき光を放つ双眼。


「あれは……!」



 戦火の魔女。



「…………」


 その正体──アイヤツバス・ゴグムアゴグ。

 戦火の煙の中、ただ一人明瞭な視界で同僚たち──バシカルとシェリルスを見ていた。

 しかし、その眼差しに感情は無く。



 アイヤツバスはバズゼッジに手を伸ばす。


「ヒヒヒ……助かったぜ、わざわざすまねぇな元帥」


 その手を掴むバズゼッジ。立ち上がり、黒い影と化したバシカルへ吠える。


「キヒヒハハ! じゃあな! テメェとの戦い、案外楽しめ……」


 それは勝ち誇ったように。だが、その言葉は遮られる。


「──な」


 彼女は喉をがっしりと掴まれていた。勿論、並び立つアイヤツバスに。


「……げ、元帥……!? 何をして……!?」

(貴女は少し、勝手な行動をし過ぎた。これ以上の利用価値もない。だからここで、消えてもらうわ)


 それが、出されなかった彼女の問いへの答え。

 バズゼッジの全身の傷痕から光が漏れる。これもまた、赤黒く。


「ア、ア……ア──」

「伏せろッ!」

「ッ!」


 散りゆく命に、戦火の魔女は言っていた。


「さよなら」


 と。




 爆散。バズゼッジの肉体を媒体として、戦火の魔力が爆風となり、竜骨洞に吹き荒んだ。


 そのときには、もうその場に戦火は居なかった。


「……っと」


 華麗に着地するアイヤツバスは知識の魔女。


「丁度使い切ったみたいね」


 色を失った疑似宝珠を指でなぞる。それだけで、その存在は儚く砕けた。


「懐かしい感覚だったわ──だけど、この力を取り戻すのも、そう遠くはない」


 瞳の奥に微笑みを称え、彼女は歩き始めた──終局へと。



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