#8 終焉の黎明
【#8】
「さて」
アイヤツバスは見回す。
命脈の障壁は、気が付く間もなく消えていた。
故に、その眼に留まったのは呆然と立ち尽くすアクセルリスだけだった。
「アクセルリス──あなたはどうする?」
「私は…………殺す……」
震える声で。
「うんうん。私が見出しただけはある、素晴らしい鋼の心」
嬉しそうにそう言う。それは間違うべくもない本心だ。
「だけど今のあなたにそれができるのかしら?」
「それは」
「言わなくていいわ。そのくらい分かってる。あなたの師は私だからね」
一方的に結論付ける──だが、正を得ている。
「私も手負いだし、準備することもある。今日のところはここまで」
逃走の意志。アクセルリスにそれを妨げる力は、ない。
「だけど忘れないでね。戦火の魔女はこの世界に蘇り、世界を滅ぼすために動いていることを」
世界の向きは変わったのだ。歪んだ運命に導かれるようにして、既に。
「魔女機関の──そしてあなたの動き、楽しみにしているわ」
「私……の……」
「分かってると思うけど、健康には気を付けてね。それじゃ」
「待っ……!」
アイヤツバスは背を向ける。アクセルリスは手を伸ばす。
「またね、アクセルリス」
そして消えた。
「あ…………」
残されたのは陰惨たる戦いの残滓と、禍々しき魔力と、暗黒へと進み続ける絶望だけだった。
「──────!!!」
音のない銀色の咆哮──それは、数えきれないほどの感情とともに。
そして世界は、赤黒い終わりへと向かい始める。
【戦火はただ、殺伐と おわり】