#3 戦火の魔女
【#3】
「アクセルリス、只今到着しました!」
クリファトレシカ99階邪悪魔女会議室、扉が力強く開かれた。
アクセルリスは入室すると同時に、一様にしてこちらを見る邪悪魔女の面々を見た。
1iバシカル、2iイェーレリー、3iシェリルス、4iアディスハハ、6iカイトラ、7iシャーカッハ、8iケムダフ、10iキュイラヌート。アイヤツバスを除いた全員が集っている。
その表情──どこか重く、或いは憐憫に。
「よく来てくれた」
「いえいえ! それでバシカルさん、大事な話って」
「…………《戦火の魔女》の正体が、掴めた」
「────」
アクセルリスは、一瞬、止まった。
その一瞬の間に、彼女の中であらゆる感情が渦巻き、混ざり、弾け、消えた。
「──本当、ですか」
「ああ。来てもらったのは他でもない。それを伝えるためだ」
「…………あぁ、やっと──このときが、来たのか」
アクセルリスは虚ろに宙を見た。幻覚のように浮かぶのは、忘れもしない家族の顔だ。
「これまでにきみをはじめとした残酷魔女が集めた情報と、わたしたちパーティーメイカーズが独自に集めた情報」
「そして繰り返し行われた綿密な調査。それらによってその正体は確定されたわ」
「間違いなく、ね。真実だ、受け止めてほしい」
言葉を繋げていったのはカイトラ、シャーカッハ、ケムダフ。彼女たちの長い長い夜会が、遂に実を成したのだ。
「はい──ありがとうございます──!」
アクセルリスは強くそう答えた。
しばし、想いを噛みしめる。
「────」
自分一人では届かなかっただろう星。
魔女機関の──皆の力で、それに手が届く。
感謝すべきは魔女機関へ、邪悪魔女へ、残酷魔女へ──そして、ここまで連れてきてくれた、お師匠サマへ。
「……覚悟はいいか、アクセルリス」
見計らい、バシカルが重々しく言った。
アクセルリスに迷いはもうなかった。
「はい」
深く呼吸をし、頷く。
「――それは、最も多くの命を奪ってきた、最悪の外道魔女」
と、シャーカッハ。
「――それは、頽廃の岡の大戦火を最後に、活動を止め消息を絶った」
と、カイトラ。
「――しかしそれは蘇り、再びこの世界を喰らおうと動いている」
と、ケムダフ。
「戦火の魔女、それは――──」
と。バシカル──その言葉が、不意に途切れる。
彼女は──――否。バシカル以外も皆、アクセルリスではなく、その後方──会議室の入り口に強い視線を向けている。
「──?」
そのことにアクセルリスが気付いた時、背後から声が聞こえた。
「それは私」
アクセルリスにとって、よく聞き慣れた声だった。本当の家族よりも。
「そう、私────アイヤツバス・ゴグムアゴグよ」
《戦火の魔女》が、赤黒い目を歪ませて笑った。
【戦火の魔女 おわり】