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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
5話 煉獄、砂糖抜き
18/277

#2 その光は破滅とならん

【#2】


 数十分で最寄り駅に到着。専用の特急魔行列車にかかればあっという間だ。

 アーカシャのナビゲートを参考に、アクセルリスは駆ける。


 ◆


 立ち入り禁止となっていたカルル村に、グラバースニッチは倒れていた。


「グラバースニッチさん!」

「アクセルリス……」

「大丈夫ですか? 今手当てします!」

「すまねぇ……ああ、痛え」


 アクセルリスはグラバースニッチの体を調べる。

 目立つのは火傷。至近距離でプルガトリオの攻撃を受けたのだろうか。

 消毒を施し、火傷用の薬を塗る。

 その時、アクセルリスは気付いた。


「……?」


 グラバースニッチの肌に、キラキラした粉が付着している。

 アクセルリスがそれに触れると、粉はたちまち消えてなくなった。

 吹き飛んだのではない。『消えた』のだ。


「グラバースニッチさん、これは?」


 そう尋ねるが、彼女からの返答はない。既に眠っていた。


「なんだろう、これ。トガネわかる?」

〈なんじゃこりゃ。知らないな〉

「わからないかー」

〈何となく……オレには嫌な感じがする〉

「そっかー」

〈……もうちょっとなんかリアクションとってくれよ〉


 ◆


「アクセルリス!」


 程なくしてオルドヴァイスが残酷隊を率いて到着した。


「グラバースニッチは?」

「無事です!」

「そうか、良かった。医療班、グラバースニッチを連れて帰還せよ!」

「了解!」


 残酷隊の数人がグラバースニッチをオルドヴァイスの使い魔に乗せ、来た道を戻って行った。


「我々はプルガトリオを追うぞ。まだ遠くまでは行っていないはずだ」

「作戦はありますか?」

「もちろん。私はこう見えて戦術家なんでね。あれを」

「は」


 残酷隊の一人が持ってきたのは虫かご。中には数十匹の虫が入っている。


「これは?」

「《閃光蛍》。ショックを与えると爆発的な光を放つ。これを投げ込み、怯んだ隙に仕留める」

「なるほど」


 確かに残酷隊はみな黒いゴーグルを装着している。これで光を弱めるのだろう。


「ほら、お前も」


 同じゴーグルを渡される。重さはそれほどない。

 付けてみると、確かに視界が暗くなる。が、行動に支障はなさそうだ。


「すぐに作戦を開始する。準備は良いか?」


 アクセルリスと残酷隊は頷く。


「よし──行くぞ」





 残酷隊。そろそろ彼らの説明をしよう。

 魔女機関はヴェルペルギース及びクリファトレシカ防衛の為に兵士を雇用している。それはバシカルの役職の一つに『兵士教練官』というものがあることからも伺える。

 そしてその内、残酷魔女の傘下にある兵隊を残酷隊という。

 残酷隊は主に残酷魔女の支援を任務としているが、彼らだけでも生半可な外道魔女を倒せるほどの実力と連携力を持つ。

 そして、今回の緊急事態。出動したのは残酷隊の中でも優秀な戦力となる精鋭たちだ。




「標的A、外道魔女プルガトリオを発見しました」


 斥候からの報告がオルドヴァイスに入る。


「奴らは今どこに?」

「森の中です」

「ンン、好都合だね」

「如何いたしましょう」

「──決まっている。総員、移動速度を上げよ! 今が狙い時だ、必ず仕留めるぞ!」

「「了解!」」



「……トガネ、いる?」

〈おうもちろん。何の用件だ?〉

「もしものとき──バックアップは頼んだよ」

〈あいよ。主サマの身を守るのが使い魔としての使命だからな!〉

「頼りにしてるよ」





 所変わって森の中。

 木々は場所を争うように茂り、刺し込む光もほんのわずか。


「暗い所にいると目がなまっちまいそうだな」

「…………」


 森を歩いているのは二人。

 片方は標的A、すなわち劫火の魔女プルガトリオ。

 そしてもう片方は少女。プルガトリオの手をしっかりと握り、彼女と並んで歩いている。


「しかしまあつまらん森だな。景色もあったもんじゃねえ」

「…………」


 歩き続ける二人。と、少女の脚がもつれ、倒れかける。


「おっと、大丈夫か?」


 プルガトリオの手を握っていたおかげで何とか転ばずに済んだ。


「……うん、ありがとう」

「さっきの奴らにやられた傷か? 痛むか?」

「ううん、違う。だいじょうぶ」

「そうか。ならよかった」


 少女をしっかりと立たせて、また歩き始めた。


「全く……何なんだろうな最近は。この前は変な喋り方の魔女に勧誘されるし、今日は獣臭い魔女に襲われるし……物騒な世の中になったな」


 少女は黙ってうなずく。


「やっぱり今求められているのは『救済』だな。私ももっと頑張らないとなあ」


 プルガトリオがそうぼやき、少女が再びうなずいた。

 その時だった。

 二人の目の前に何かが投げ込まれる。


「なんだ?」


 それは地面に接触すると同時に、強く強く光を放った。


「な──」

「──」





「よし! 今だっ!」

 オルドヴァイスの号令。光に包まれた森をアクセルリスと残酷隊が駆け抜ける。

 閃光蛍の光が続くのは長くて十秒。その間に仕留める。

 ゴーグルのおかげで、閃光の中でも敵が見分けられる。

 それぞれがプルガトリオを狙い、短剣を突き立てようとした。

 だが──。


「しゃらくせぇな……!」

 プルガトリオの声が聞こえた。アクセルリスは嫌な予感がした。

 バチバチ、ボウボウと何かが弾ける音がした。

〈……ヤバいッ!〉

 次の瞬間、大爆発が起こった。





「う、う」


 気付けばアクセルリスは倒れ伏していた。

 全身が痛むが、命に別条はない。ただ、今すぐに立ち上がるのは難しいだろう。


〈危なかったな……無事か?〉

「うん、ありがとうトガネ」


 爆発の瞬間、トガネはアクセルリスの体を逃がすように引っ張った。そのおかげで、傷は軽いもので済んだ。

 自らの体をまさぐる。大きな傷は無い。ゴーグルは見事にへしゃげている。伝気石も損傷してしまっていて、機能を失っている。


「ちぇっ。貴重品らしいんだけどな」


 首だけを動かし、周囲の様子を見る。

 辺り一面は焼け野原。木々は全て焼き払われたのか。

 残酷隊の数名が黒焦げで倒れている。おそらく手遅れ。

 だが生き残りも多い。当初の作戦こそ失敗となったが、まだ勝機はある。

 そう思ったアクセルリスが目にしたのは、悠然と立っているプルガトリオと少女だった。



「大丈夫か、シュガーレス」

「うん」


 シュガーレス。それが少女の名前だった。

 爆源であったプルガトリオの隣に居たのにも拘らず、彼女には傷一つない。


「よしよし。それでだシュガーレス、一つ頼まれてくれるか」

「なに」

「あそこの魔女の相手をしてもらっていいか? 死にぞこないのザコ共は私が片づけて来るから」

「わかった」

「ありがとう。ほら、アメだ」

「……ん」


 渡されたアメを頬張りながら、シュガーレスはプルガトリオが指差した魔女を見る。

 それはオルドヴァイスだ。

 少々の火傷は負っているものの、戦闘に支障はないだろう。


「ンン、私も舐められたものだな」


 彼女が持つ杖に、青い刃が生み出される。


「私とて残酷魔女の一員、君のような小娘に遅れは取らないさ」

「どうでもいい」

「言ってくれるじゃないか!」


 オルドヴァイスが動いた。一気に距離を詰め、一太刀でシュガーレスを刈る。

 ──だが、そうはならなかった。



 オルドヴァイスの攻撃が当たる直前に、シュガーレスが光った。

「う──!?」

 目が眩み、動きが止まってしまう。

 そして──


〈おい、主! 身を守れ!〉

「な、な?」

〈いいから早く!〉

 何かを感じ取って焦るトガネ、言われるがままにアクセルリスは鋼の障壁を目の前に生成した。


 次の瞬間、シュガーレスがさらに強く光を放った。


「きゃっ!」

 壁越しでも感じる閃光に、アクセルリスは目を閉じる。



「──う、どうなって……」


 目を開けたアクセルリスが見たもの。


「あれ……壁がない」


 訝しむアクセルリス。顔を上げる。

 相変わらずそこにいるシュガーレスと、杖を振り上げたまま動かないオルドヴァイス。よく見るとその体は軽く震えている。


「え? 何が──」


 そして、アクセルリスは異変に気付いた。



 オルドヴァイスは目から、鼻から、耳から、口から、血を流す。


「ぐ…………あ?」


 本人にも何が起こったか分かっていない様子。

 ──そんな彼女を、突如強烈な苦痛の波が襲った。


「あ、あ、ああああああ!?」

 耐え切れずに悲鳴を上げるオルドヴァイス。それでもなお使命を果たそうと、杖を振り下ろそうとする。

 その望みは叶わなかった。代わりに、オルドヴァイスの手が杖もろとも落ちた。

 落ちた──そう。彼女の手が『落ちた』のだ。

「あ……あ、あ」

 冷静を欠いた今の彼女ではその情報を処理しきれない。

 起きている異常にただ恐怖するしかできないのだ。

「ああああああああああっ! !」

 恐怖の叫び声を上げるオルドヴァイス。その声も唐突に途切れる。

 喉だ。喉が落ちたのだ。脱落という表現が合うだろう。

 それを皮切りに、次々とオルドヴァイスの体が脱落していく。

 太腿。肩。頬。それらは体から離れた後、光を発しながら蠢く生物に変貌する。

 あっという間にオルドヴァイスの体は全て脱落した。

 それと同時に、彼女の身につけていた衣服や装飾品も風化し、塵になる。

 海の魔女だった物体たちも動きと光を止め、霧消する。

 一瞬の内に、オルドヴァイスが存在した痕跡は消えてなくなった。


 シュガーレスは魔女だったのだ。それも、極めて危険な。




 ──オルドヴァイスに何が起こったのか。

 それはシュガーレスの放った光によるものだ。

 《光の魔女》。それが彼女の称号。その名の通り、体の輪郭から光を放つ魔法を使う。

 そしてこの光は二種類存在する。

 一つは至って普通の光。当然害などはなく、間近で見た場合しばらく目が眩む程度のもの。

 しかしもう一つ。これが凶悪なのだ。

 こちらの光は『あらゆる物体にとって極めて有害』なのだ。

 無生物がこの光を十秒程度浴びた場合、急激に風化し、跡形も残さず塵になってしまう。

 では、生物が同じくらい光を浴びた場合。

 曝露者の細胞は急速な細胞組織の崩壊並びに遺伝子変異を引き起こす。

 細胞の異常と拒絶反応により曝露者は強烈な苦痛と嫌悪感を味わうが、これで終わりではない。

 変異を起こした体細胞は元々の体から剥離、脱落をし始める。当然これも激痛を伴う。

 そうして生まれるのが、あの光り蠢く原生生物のような姿──シュガーレスはこれを『マカロン』と称する。

 つまり、シュガーレスの光を浴びた者は、尋常ではない苦痛や嫌悪感に襲われながら、自分の体が自分でなくなっていく恐怖を味わい、跡さえ残らず消滅するのだ。


「……マカロン、すぐ死んじゃうね」


 色の無い虹彩、感情の無い声。儚げで今にも消えてしまいそうな少女は、世界をも消してしまう力を秘めていた。

 彼女自身にも負担がかかるので、連発・長使用できないのが不幸中の幸いか。



 しかしその力は、アクセルリスを恐怖させるのには充分すぎた。

 頼れる先輩であったオルドヴァイスが、一瞬で、消えてなくなったのだ。


「あ……あ」


 目は見開かれ、体の震えが止まらない。

 遠くから聞こえてくる残酷隊の断末魔を聞いてもなお、彼女は動けない。


〈おいッ! 主ッ!〉

「っ!」

 至近距離でのトガネの声でやっと我に返る。

〈逃げろッ!〉

 幸い、シュガーレスはアクセルリスには気付いていない。

 今から死に物狂いで逃げれば命拾いはするだろう。

 アクセルリスの強い生存本能もそうしろと騒めく。

「私は──死にたくない」

 しかし。

「──でも今逃げちゃ、もっと多くの人が死ぬ!」

 彼女の決意が本能を超えた。

 邪悪魔女として民を守る思い。残酷魔女として外道魔女を見逃してはおけない思い。

 そして、一人の魔女として、仇を取るという思い。

〈戦うのか!? アレと!?〉

「壁を作れば身は守れる。敵に隙は多い。勝てないわけじゃない」

 爆発でのダメージも和らいだ。アクセルリスは立ち上がる。

 若干ふらつきながら、敵へ歩み寄る。

 シュガーレスはまだアクセルリスに気が付かない。

 彼女自身は光の有害性を受けないが、常に至近で光を浴びているため、目には負担がかかる。

 それにより、シュガーレスの視力は相当弱くなっているのだ。

(チャンスだ)

「だれかいるの?」

 アクセルリスは当然答えない。無言で掌の中にナイフを生成する。

(殺す)

 明確な殺意をもって、シュガーレスの首元にそれを突き立てた。

「……ッ」

 躱された。殺気立て過ぎたか。

「だれか、いるの」

 シュガーレスは再び尋ねた。返答を待たず、その輪郭から光が漏れだす。

「あ」

 一手遅れた。障壁を作らなければ。だが間に合わない。

 ──死ぬ。



〈だらああ!〉

 救ったのはトガネだ。

 動きが止まったアクセルリスの体を操り、シュガーレスの顔面に拳を叩き込んだ。

 すんでの所で光の放出は止まった。

「トガネ!」

〈へへっ、どうだ?〉

「サンキュ、助かったよ!」

 殴り飛ばされたシュガーレスはふらふらと立ち上がり、血を吐き捨てる。

「いたい」

「ごめんね、でも死んでもらう」

「なんで?」

「君が外道魔女だから──って、ん?」

 自分の言ったことにアクセルリスは疑問を覚えた。

(シュガーレスは……外道魔女じゃない)

 確かにシュガーレスはオルドヴァイスを殺した。それは十分外道魔女に認定される所業ではある。

 だがシュガーレスは現在外道魔女とはされていない。それは今まで彼女が魔女機関に背く行いをした記録がないことを意味する。


 ならば何故今こうして残酷魔女であるアクセルリスと殺すか殺されるかの瀬戸際で対峙しているのか。

 それは──



「……ねえ」

「なに」

 アクセルリスが問いかける。シュガーレスも警戒しつつ応える。

「君はなんでプルガトリオに付いていっているの?」

「ちがうよ」

「違う、って?」

「プルガトリオがわたしに付いてきてる」

「……え」

 予想だにしなかった事実に、アクセルリスの言葉が詰まる。

「……何で?」

「ナイショ」

 その時、シュガーレスは初めてアクセルリスの前で笑った。儚き少女には似合わぬ嘲け笑いだ。

 彼女のその態度にアクセルリスは舌打ちする。

「……話にならない」

「もともとあなたとお話をする気はない」

 シュガーレスの輪郭が白く仄光る。いつでも光を放射できる状態に戻った。

 アクセルリスも距離を離し、光に備える。

 おもむろに二本の指をアクセルリスに向けるシュガーレス。

 そしてその輪郭から薄く光が漏れる。これは無害なものだ。

「……?」

 アクセルリスが不審に思いながらも警戒していたとき、不意にそれは放たれた。

「うっ!?」

 間一髪のところで躱す。

「今のは……」

〈光線、だな〉

 光を細く収束させ、指先から放つ。トガネの言う通り、それはまさに光線。

 シュガーレスからは薄い光が漏れ続けている。無害な光ならば連発が利くうえ、『最小限の光のみを放つ』というこの光線の性質が更なる連続使用を可能としている。

「……厄介だね」

〈全くだ。中距離はこれで牽制して、近距離ではあの物騒な光をぶっぱなすと〉

 だがシュガーレスは攻撃の手を緩めない。二発、三発と続けて光線を放ち、アクセルリスを追い込む。

「ちぃ! トガネ、何か思いついた!?」

〈俺頼みかよ!? 無茶言うな!〉

「私の身体を操って不意討ちとかできない!?」

〈それはやってみたんだが……あいつ(シュガーレス)の魔法、オレと滅茶苦茶相性が悪い!〉

「なんで! さっさと説明して!」

〈怒るな怒るな! あいつの光線で影が分断されるんだよ!〉

「そういう事か……ッ!」

 トガネによる支援も期待できない状況。

 このまま防戦を続けていれば、いつかプルガトリオが戻ってくるだろう。そうなっては勝ち目がない。それまでに何とかするしかない。

「えい」

「くっ!」

 放たれる光線。躱しきれない。鋼で障壁を生成し防御する。

 だが超高密度の光の束は障壁を簡単に貫通し、アクセルリスの肩を穿つ。

「ぐあッ!」

 致命傷ではないものの、痛みは小さくない。

 初めての命中。だがシュガーレスは喜ばず、逆に首をかしげる。

「あれ、おかしいな。心臓をねらったんだけど」

 その呟きをアクセルリスは聞き逃さなかった。

「──!」

 アクセルリスの頭に、一つの可能性が浮かぶ。希望の光が。

「……トガネ。少し手伝ってほしいことがある」

〈おう、なんだ?〉

「私の目になって」

〈は? どういうことだ?〉

「それは──」

 魔女と使い魔が作戦を案じている間も、光線は放たれ続ける。

「──わかった?」

〈わかった、わかったケドよ、そんな事できるのか!?〉

「やらなきゃ死ぬ!」

 アクセルリスの鬼気に圧倒されるトガネ。

「……行くよ」

〈……ああ〉

 アクセルリスは回避行動を止め、立ち止まり、シュガーレスを睨み据える。

「……?」

 シュガーレスは怪訝に思ったが、やることは変わらない。むしろ好都合だ。

 指先一か所に光を収束し、一本の矢にして発射。この一撃で脳天を穿つ。

「来たッ!」

 アクセルリスは再び障壁を貼る。いびつな形をしたそれは、簡単に破られる。

 だが、それでいいのだ。

 障壁により光線の進路は逸れ、アクセルリスの頬を掠める。アクセルリスは動じない。計算通りだからだ。

「トガネ!」

〈おう!〉

 アクセルリスの腕が天を指差す。

 そしてアクセルリスは再び光線の進路に障壁を生成。それに触れた光線はやはり進路を逸らす。

 それを、繰り返す。

「なに……?」

 光線が狂ったように宙を舞う。異様な光景にシュガーレスは怯え、後ずさる。

〈よし、今だ!〉

「行けェッ!」

 空を指していたアクセルリスの腕が、シュガーレスへと向けられた。

 それと同時に最後の障壁が出現。それを貫いた光線が逸れ、向かう先は──シュガーレスであった。

「嘘」

 不意の一撃に彼女は反応できず、自らの放った光の矢が胸を貫く。

「う゛」

 そしてアクセルリスは、その一瞬を狙い済ましていた。

〈行け、主!〉

「うおおおおおッ! !」

「……!」

 鬼神の如き形相で迫るアクセルリス。

 シュガーレスは力を振り絞り、邪悪なる光を放つ。

 アクセルリスは鋼による防御を行わない。

 わずかなる差が生死を分けるこの局面において、俊敏性を落とす鋼の防御は悪手だからだ。

 だが防壁なしでシュガーレスに接近することは、死への近道を意味する。

 まさに、一か八か。殺るか、殺られるか。

 ──二人の魔女は光に包まれた。





 だがその光はすぐに収まり、消えた。

「はぁーッ、はぁーッ」

 息を荒げているのはアクセルリス。──彼女は無事だ。

「……あ」

 そしてシュガーレス。彼女の輪郭にもはや光は灯っていない。首には深い抉り痕。そこからは絶えず真っ赤な鮮血が迸る。

「プルガ……トリオ……」

 ただでさえ白い彼女の肌が色を失っていく。

「せかいの……はてで……アメを…………」

 か細い体は折れる様に倒れ込み、そのまま動かなくなった。

「はぁー…………」

 膝をつくアクセルリス。間一髪であった。

 手に握っていた肉塊を捨て、座り込む。

 彼女の肌はあちらこちらが蠢き、脱落していく。だが被害は軽い。

 あと一瞬でも遅かったならば、自らも斃れていたに違いない。

『生』の実感に自然と口角が上がる。

「ふ……へへ……」

 生き残った。生き残ったのだ。これ以上の至福は無い。

 涙が一粒溢れ、束の間の快楽を味わう。


【続く】

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