#1 邪執のコンキスタ
『拠点』。三つの影は、互いに目を合せず、無言の中を過ごす。
やがて、ひとりが口を開いた。それは鉄の魔女ゲブラッヘ・ルベウス。
「…………もう、終わりだ」
その言葉に感情はなく。ただ諦めに近い無気力が漂っているだけだ。
「何もない。残ったのはボクら三人と、師匠だけ。もう終わりだ」
「その通りよ、ゲブラッヘ」
側近が返す。
「この組織は──魔女枢軸は、終わりを迎える」
「なぜそんな平静でいられる?」
「『瓦解』ではない。『終了』だから。魔女枢軸は、その役目を果たした。全てあのお方の思惑通り──とはいきませんが、おおむね、九割ほど」
「ボクはそんなの聞いてないんだけど」
若干の苛立ち。側近は配慮もなく、答える。
「当然よ。これは私と《戦火の魔女》様だけが知っていたこと。特に貴女には話さない、口が軽いから」
「……イラっと来るね、まったく」
舌打ちと共に、壁を殴る。何の意味もない、八つ当たりの行動。以前のゲブラッヘには考えられないものでもある。
「……で? じゃあこれからどうするんだい。キミは。そしてボクは」
「自由。好きに生きるといいわ」
「ならそうさせてもらうよ。キミたちの顔を見るのもこれで最後かもね」
言い捨て、ゲブラッヘは立ち去ろうとした。
その背に、側近は投げかけた。
「では、伝言を一つ」
「師匠からか? 直接訊くよ、間に合ってる」
「いえ、今言っておかねばならないことです。心して聞くように」
「……で、なんだい」
鋭い眼で振り向き、側近を目に映す。その口の動きを、まざまざと、見る。
「──『アクセルリスには手を出すな』」
「…………は?」
「以上、それだけよ」
「それだけ、だと……?」
震えた声で、ゲブラッヘは言った。
「────ッ!」
如何なる感情か。強く歯軋りし、再び壁を殴りつけた。拳に残った痛みが、ゲブラッヘをあざ笑う。
「…………じゃあね。せいぜいロクな死に方するなよ」
捨て台詞のように、そう言った。そしてゲブラッヘは姿を消した。
「それで、ゲデヒトニス」
そんな彼女に感情を残すこともなく、側近はゲデヒトニスへ目を向けた。
「言ったように、貴女ももう自由だけど」
「────我/理解」
呟き、立ち上がる。
「我/感謝→戦火の魔女」
「ええ、伝えておきます」
「我/依頼←最終任務」
「最後の頼み? なにかあるの?」
「────」
自由となったゲデヒトニス。その最後の頼み──否、望みとは。
【続く】