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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
34話 空っぽだった棺
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#7 斬罪のエルガレイオン

【#7】



「ふッ!」


 グラバースニッチは回転しながら着地する。片膝を付き、魔合身獣で呼吸と魔力を整える。

 彼女は永い間空を跳ね回り、飛竜を斃し続けた。

 しかし、未だその数は限りを見せることなく。コフュン=オウマリアスは、超越なる龍の力を得た死体の魔女は、どれだけの力を誇るというのか。


「キリが……スゥーッ……ねぇ……フゥーッ」


 魔合身獣は揺らぐ様子を見せない。しかし、どちらが力尽きるのが先かと問われれば──


「AAGGGGGHHHHHHH!!!」

「GGGGYYYYYHHHAAAAAA!!」

「ッ!」

 そんな彼女を目掛け、四方、八方から飛竜が迫る。

「上に」

 見上げる──しかし、頭上からも。骸の竜は九方を統べる。

「ちィ……!」

 歯牙を構えた。逃げ場がないのなら、迎え撃つのみ。たとえそれが、圧倒的な物量の差がある状態でも。

 黒き鎧の獣は、心身を研ぎ澄ませる──



 ──直後、迫っていた全ての飛竜が吹き飛んだ。

 グラバースニッチは目を見開く。

「──」

 それは獣の爪によるものではない。高貴なる薔薇の風によるものだ。


「待たせましたわね、グラバースニッチ!」

 それは薫風の魔女ロゼストルムの風だ。残酷魔女の中で最も多数戦に強い彼女の実力が、遺憾なく発揮される。


「ロゼストルム、お前」

「ロゼだけではない。私もだ」

「シャーデンフロイデからのお達しが来たからね。当の本人はヴェルペルギースの防衛から離れないみたいだけど」


 イヴィユ、そしてミクロマクロも姿を現す。残酷魔女の実動隊が、ここに揃う。


「……ああ、助かった。また俺が一人無茶させられるモンかと」

「それを望んでいるのは君自身だろうに」

「ははっ、まァな。残酷魔女の特攻隊長として、頑張ってるだけだ」

「……マゾなのかい?」

「あァ!?」


 軽い言葉を交わし合うグラバースニッチとミクロマクロ。二人が気を許し合っている証拠だ。

 そしてそんな二人には気を向けず、イヴィユは淡々と現状を伝える。


「アクセルリスの報告だ。超龍を止めるには、あの黒き核を停止させなければならない」

「その為に、私たちが来たのですわ。イヴの完璧な作戦と共に、ね」

「イヴィユの作戦なら信用できるな。内容は?」

「それは──」


 そのとき、ミクロマクロが声を上げる。


「おっと! 話の途中だが飛竜だ!」

「ッ!」


 四人は散り散りになる。イヴィユは目を細めた。


「伝えられなかったか──まぁ、グラバースニッチなら言わずとも問題ないだろう」

 そして彼女が取り出したのは、《魔女機関謹製魔力吸収薙刀杖》──通称《魔吸刀》だ。以前の戦いで取れたデータを基に、試作品から完成品へと進化を遂げている。

「邪魔をするな。私は進化さくせんに横槍を入れられるのが嫌いだ」

 群がる骸飛竜を薙ぎ払いながら、イヴィユは遠くへ目を向けた。

「さて、ミクロマクロは──遠いな。だが届く」

 そのまま魔吸刀を構え──ミクロマクロの方角へと放り投げた。

「上手くやれよ」

 そして彼女が受け取ったことを確認するより先に、飛竜との闘いへ戻っていった。




「──うわっと!」

 突然の飛来に驚きながらも、ミクロマクロは魔吸刀を受け取った。

「合図してくれよな、まったく……」

 そう呟きながらも、魔吸刀をしっかりと握り、魔力を注ぎ始める。

 しかし、それは隙を晒すこととなる。鉄輪の投擲を封じられたミクロマクロは、飛竜から逃げ始める。

「頼むからこっち来ないでくれマジで、武器が無いとへなちょこなんだぞ私は!」

 と、口では言うが──実際のところ、彼女は残酷魔女の内でも一、二を争うほどの武芸者である。

「AAHHAAHHGGGGGGGGGG!!!」

「あっ」

 そのとき。彼女の眼前に、一体の飛竜が迫る。


 だが、その飛竜は空より落ちた銀槍の彗星に貫かれ、斃れた。

「危なかった。あとでご飯をおごってあげなきゃ……っと、おかげで準備オーケーだ」

 魔吸刀に魔力が満ち──その規格が、倍になる。ミクロマクロの倍は軽く超えるほどの規格だ。

「よし! じゃ、後は頼んだよロゼストルム!」

 そう叫びながら、魔吸刀をロゼストルムの方角へと放り投げた。




「──来ましたわね」

 風の魔法で飛竜を纏めて退けたロゼストルムは、飛来した巨大魔吸刀をも風で受け止めた。

「さぁ、私の高貴なる風の魔法、貴女にお譲りいたしましょう!」

 魔吸刀へとそう語りかけ、ありったけの魔力──風の魔法を、注ぎ込む。

「…………思ったより健啖家ですわね。想定していたよりも時間が──」

 倍加した魔吸刀、当然ながらその容量規格も倍になる。それに魔力を満たせるのには、やや時間がかかってしまう。

 そして、それだけの暇があれば、飛竜たちの第二波がロゼストルムを襲うに至らせてしまう。

「AAGGGHHHHHHHH!!」

「GGGGHHHHYYYYYYYYYY!!!」

「厄介ですわ!」

 魔吸刀への給餌をひととき止め、再び魔法を構え直した。


 しかし、彼女が魔法を放つ必要はなかった。

 天空から降り注ぐ槍の雨が、飛竜だけを的確に穿ち始めたからだ。

「あら。本物の健啖家に助けられてしまいましたわね」

 ロゼストルムは微笑み、空を見上げた。その手の中には、彼女の魔力が満ちた魔吸刀。

「では──最後、しっかりと決めてくださいまし!」

 風の勢いに乗せ、魔吸刀をグラバースニッチの方角へと放り投げた。




「──っと! これは……イヴィユの魔吸刀?」

 グラバースニッチは飛竜を斃し続ける中、風纏って飛来せし魔吸刀をしっかりと掴みとった。

「にしてはデカいし、ロゼストルムの魔力が満ちてる…………」

 見下ろし、眺め──獣の直感で、仲間たちのを意図を理解する。

「そうか。そういうことか。良し、任せとけ!」

 ニヤリと牙を見せ、呼吸を綿密に整える。

 この大得物を巧みに操るには、魔合身獣を最大まで引き出すことが不可欠だ。精神を研ぎ澄ませ、極限へと手を伸ばす。


「スゥーッ! ハァーッ!」

「AGHHHHGAHHHHHHH……!!」

「GGYYAAAAYYYYY…………!」

 グラバースニッチは極度の集中に沈み、魔吸刀で飛竜を矢継ぎ早に薙ぎ斃しゆく。

 獣の手によって振るわれれば、それはまさしく生ける暴風だ。軟な生命は、災禍から逃れる術はなく。

「良しッ!」

 牙剥く嵐、骸の飛竜は吹き荒び、その姿を絶やす。

 そして、獣は吠える。

「せい────」

 魔吸刀、その魔石部分を地に突き刺す。


 そして──貯蔵されていた膨大なる風の魔力を、一挙に、放つ!


「はァーーーーーッ!!」


 解き放たれた風は、爆発の如き颶風を起こし、グラバースニッチの身体を高く高く舞い上げる。

 その勢い破竹の如し。一息の間に、グラバースニッチはコフュン=オウマリアスの核へと到達した。


「捕らえたぜ……心臓をッ!」

 叫び、構える。高度も、角度も、速度も、強度も、全てが十全に整った。

 なれば放たれるのは、巨竜の心臓を喰らうもの。

「喰らえェーーーッ!」

 一撃。穿つ。


「「「オ、オオオ、オオオオオオオ────!?」」」


 黒く輝く核に、深い傷跡を、確固たるものとして刻み込む。

 そして、獣は決して慢心をしない。

「まだ、だァッ!」

 全身のあらゆる筋肉と魔力を脈動させ、放つ両掌底。それは巨大な魔吸刀の全てを核にめり込ませた。


「「「オ、オ────グ、グアアアアアアアア!!!」」」


 コフュン=オウマリアスが、遂に苦悶の悲鳴を上げる。同時に核の光が失われ、全身を巡る黒色の魔力も断絶された。



「良し──アクセルリス、後は頼んだぞ──!」


 グラバースニッチは己らの役目が終わったことを悟り、全てをアクセルリスに託し、落下していった。





 そして、コフュン=オウマリアスの絶叫を聞き届けたアクセルリス。その表情は、満足そうに笑む。

「成し遂げてくれた……! このチャンス、掴み取らないわけにはいかない!」

 黒龍を一瞥する。その宝石のような瞳と視線を交わす。互いに、想いは伝わった。

「「「────」」」

「「「凍る──凍る凍る凍る──バカな────!」」」


 黒龍が唸り、コフュン=オウマリアスの身体が凍てついてゆく。最早それを振り払う力は、ない。


「さぁ! 決めよう!」

「「「────!!!」」」

 灼銀と黒、二色の咆哮が重なり合い、拓くのは希望。


「はっ!」

 アクセルリスが飛び立つ。宙を回りながら、己の身体に鋼を纏わせてゆく。

 足先は鋭く。そこから広がるように生み出される鋼は、アクセルリスを一つの槍に鍛え上げるかの如く。


「「「────」」」

 黒龍はアクセルリスを追うように宙を舞い、彼女に向けて口を開く。

 開かれた口元には、世界を刺し穿つほどの冷気が満ちていた。


 そして、両者の動きが、調律する。


「今ッ!」

「「「────!!!」」」


 黒龍が、充填された冷気を撃ち放つ。それはアクセルリスを乗せ、彼女の背を押す力となり──コフュン=オウマリアスへと、迫る!


「はぁぁぁぁぁ──────」


 鋼と氷、極み殺す存在へと昇華したアクセルリス。灼銀の眼を輝かせ、コフュン=オウマリアスを見据え、そして。


「せいやぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!!」


 


 着弾、衝撃──コフュンを。ラ・オウマリアスを。死を超えた存在を────貫いた。




「「「────ぐオ、おおおオオオオアアアアアアあああッッッーーーーーーーー!!!」」」


 全て凍り付き、胸に穴の開いた身で、ラ・オウマリアスは奈落の底より呻吟を零す。


「「「我は────我は────!!!」」」


 世界に残すように、己の存在を繰り返し声にする。

 だが、もはやすべては遠い地の底に。


「「「お、オオオ────オオオオオオオオオ──────」」」


 超龍ラ・オウマリアスは、遂にその()を、終えた。

 残ったのは、大いなる氷像だった。



【続く】

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