表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
34話 空っぽだった棺
161/277

#1 夜の帳を開くとき

【空っぽだった棺】



 魔女機関本部クリファトレシカ、99階邪悪魔女会議室。

 円卓には10人の邪悪魔女が揃う。5iアクセルリスの後ろには、残酷魔女の面々も見られる。


〈全員出席。急を要する事態だと聞き及んでいる〉


 総督キュイラヌートの冷たい音声が響き渡る。


〈バシカル、今一度状況説明を〉

「は」


 黒き執行官は立ち上がった。


「現在、南部ロンシェン地方の《竜骨洞》より《超龍 ラ・オウマリアス》が出現。歩行により北上中」

〈対象の目標地は判明しているか〉

「……《世界のヘソ》だと、推定されています」

〈──やはり〉



 二人の声色には、深刻な状況が読み取れる。しかしその意味を、アクセルリスには理解ができていない。


「現在のペースで進めば、3日の後には到達するだろうと計算がなされています」

〈間違いもなく、緊急事態だ。早急に対処せねば、魔女機関の崩壊も在り得てしまう〉

「あ、あの」


 逸る心に突き動かされ、アクセルリスは声を上げた。


「世界のヘソには、なにがあるんでしょうか」


 率直かつ単純な疑問だった。アクセルリスだけではない。アディスハハも、イェーレリーも、シェリルスも、残酷魔女の面々も抱えていた疑問。

 それに対するキュイラヌートの言葉は、意外なものだった。


〈────この街は。魔都ヴェルペルギースは、元々異界に存在しているものだと思うか〉

「え」

〈ヴェルペルギース。常夜の都。外界から遮断された空間にあり、魔行列車でしか侵入することのできない魔女の都。だが結論から言えば〉


 一拍。その休符が、アクセルリスの身を凍らせる。


〈はじめから、異界にあったわけではない〉


 絶対零帝から直々に語られる、ヴェルペルギースの真実。それは氷のヴェールによって覆い隠され続けてきたもの。


〈はじめ、10人の魔女がいた。初代の邪悪魔女となり、魔女機関を創立した10人。その10人は、魔女機関の本部を置くにあたり、不可侵の領域を求めた〉


 魔女機関の起源を語るその口ぶりは、言い伝えられてきたというよりも、直接に経験してきたかのような。


〈その結論が、『異界に本部を置く』というものだった。そしてまず、基底の世界に街を作った。その場所は、現在《世界のヘソ》と呼ばれている地域だ〉


 段々と、点と点が線で繋がっていく。


〈ヴェルペルギースと名付けられたその街は、魔女機関と共に発展していった。そして、機が熟した〉


 その間にも多くの出来事があっただろう。だが、キュイラヌートはそれを語らない。


〈10人の魔女は、多くの魔女の力を借り、この基底と位相のズレた、魔の空間を作り上げた。そしてそこに、ヴェルペルギースを置いた〉

「そうやって、ヴェルペルギースはできたんだ……」


 歴史の重みを直に触れ、アクセルリスは感嘆ばかり。しかし、直接の疑問は、まだ解けていない。


「世界のヘソは、今どうなって……?」

〈当然、元々ヴェルペルギースが存在していた地帯だ。非常に重要な役目がある。『土台』としての役目が〉


 土台。その言葉が意味するのは。


〈世界のヘソの中央には、魔石が積み重なった塔が存在する〉


 それは、イェーレリーが思い当たる。

「──私が総督勅令のときに見た、あの塔」

〈然り、だ。そしてその塔こそが──ヴェルペルギースだ〉


 静かな沈黙。それは理解不能の代弁。


〈この魔空間を維持するにあたって、基底世界と魔空間の両方に共通するオブジェクトが必要だった。基底世界(あちら)のそれは、あの石塔の最上にある魔石〉

「……では、こちらは」

〈月だ〉


 月。ヴェルペルギースの常夜空を飾る、魔製(ましょう)の月。誰もが目にしたことのある、その存在こそが──この世界の守り神だった。


〈故に。基底世界の石塔が崩されれば、あの月も砕け、魔都ヴェルペルギースは基底世界に出現する。そしてそれは非常に危険なことだ〉


 これだけの巨大な都市が一瞬にして出現することによる、基底世界への衝撃は計り知れない。

 加えて、これまで整えてきたインフラや魔行列車のダイヤも、全てが台無しになる。

 さらに言えば、世界のヘソが『上書き』されることにより、そこにあったものがどうなるかは、想像したくもない。


〈だからこそ、世界のヘソには濃厚な魔力を満ちさせたうえで立ち入り禁止に指定し、危険性を最大限までに抑えていた──だが〉



 ここまでくれば、全ては繋がった。

 なぜラ・オウマリアスを率いる魔女枢軸が世界のヘソを目指すのか。なぜその到達が超一級の緊急事態に指定されるのか。



「……問題は、誰がこの情報を突き止めたか、だ」


 そう言ったのはバシカルだった。


「ヴェルペルギースと世界のヘソの関係は、魔女機関の中でも最高機密のはずだ」

「実は何も知らないで、たまたま向かった先が世界のヘソってことは……まあありえないよね」


 ケムダフも首を振る。その様子を見て、カイトラは。


「ならば、可能性は一つかと。やはりこの魔女機関に、内通者が存在する──それも、重要機密を盗み見できるほどの巧者」

「だとすれば、かなりまずいわね。この先どれだけの情報を抜き取られるか──」


 シャーカッハの言葉を、アイヤツバスが妨げた。


「とにかく。今は目の前の脅威を対処することが重要でしょう?」

〈全くその通りだ。よってここに、防衛作戦の開始を宣言する──〉


 極氷の宣告。邪悪魔女、残酷魔女一同の身が強張る。


〈──猶予は3度日が昇り、落ちるまで。それまでに、世界のヘソの周囲に防衛圏を広げ、迎撃拠点を設置、そして全力をもってラ・オウマリアスを撃退する〉


 アクセルリスは息を呑む。これまでにないほどの、大規模な作戦。失敗は、許されない。


〈あらゆるリソースを割け。この作戦の失敗は、魔女機関の瓦解に繋がる。何としてでも、敵を止めよ〉


 そしてキュイラヌートは、言う。


〈全ては──世界のために〉



【続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ