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残酷のアクセルリス  作者: 星咲水輝
4話 トレジャーハンターA&A
16/277

#4 斬滅の剣

【#4】


「……誰?」


 洞窟を抜けた途端、アディスハハの声色が変わる。冷たく威圧するものに。

 その目線の先には一つの人影。花畑の真ん中でしゃがみこんでいる。


「おお、おお。てめーらがここの住人か」


 魔女だ。何かを咀嚼している。


「それは……」

「お、気付いたか? ここの花、喰わせてもらったぜ」


 その魔女はそう言いながらまた花を引きちぎり食べる。


「あー、やっぱただの花だな。まずい」

「なんて……事をッ!」


 激高するアディスハハ。

 今にも飛び掛かりそうな彼女を制しながら、アクセルリスは言う。


「名乗れ」


 落ち着いた口調ではあるが、彼女もアディスハハと同じくらいの怒りを秘めていた。


「バズゼッジ」


 それがその魔女の名。アクセルリスは耳に覚えがあった。


「《剣の魔女》、バズゼッジか」

「そうだ。なんだよ、アタシも結構有名人なのか?」

「知ってるの?」

「外道魔女バズゼッジ。これまでに四つの村で殺戮を働いてきた。それも一人一人丁寧にバラバラにして殺してる」

「……酷い、なんでそんなことを」

「悲鳴は最高の音楽だ。身体を裂かれながら発する声こそがアタシの心を滾らせるのさ」

「それだけじゃない。奴は犠牲者の死体を持ち帰り、それを材料に楽器を作っている」

「あー、それは同居人の趣味だ。アタシは生きた人間の悲鳴にしか興味がねえ」

「いずれにせよ、同情の余地なしのド外道。今この場で処分する」

「そうだね。私の庭を踏み荒らした罪、命で払ってもらう」

「ハッ、面白え」


 三者ともに臨戦態勢。



 火蓋を切ったのはアクセルリス。

 三本の槍と五本の剣がバズゼッジ目がけて迫る。

 勿論、牽制。避けたところを狙う、本命の槍を既に二本生成。

 しかし。

「うグァ!」

 バズゼッジは避けなかった。全ての攻撃を受け、身体から血を流す。

「あァ……あああァァ!」

「な──に!?」

 想定外の事態。

「キッ……ヒヒヒ! ヒヒヒヒハハハハハハ!! コレだよ、コレぇー!」

 自らが流す血を顔に塗りながら、バズゼッジは狂喜の声を上げる。

「痛い……痛い痛い痛い痛い!! この痛み! これこそ生きてる実感! 悦び! 存在証明ッ! キハハハハハハハーッ!」

 その狂気的な様に二人は後ずさりする。

「何──こいつ」

「……こういうのは相手にしちゃ駄目」

「ハーハッハッハア! お前らにも生命の悦びを教えてやるよ!」

 そう言うとバズゼッジは傷痕に手を当てる。そしてその内より剣を生み出した。

「ヒーハハハァ!」

 斬りかかるバズゼッジ。正気を持たないその太刀筋は予測不可能。

「く!」

 鋼の手甲で防御を試みるが、全ては防ぎきれない。

 ならば仕方ない、肉を切らせて骨を断つほかない。

 未だ止まぬバズゼッジの剣戟を無理矢理押し切り、そのみぞおちに拳を叩き込む。

「ッグオオオ!」

 吹き飛ぶバズゼッジ。アクセルリスは腕から垂れる血を舐め取る。

「ちょっとアクセルリス、無茶しすぎないでよ?」

「なんの。この程度じゃ無茶には入らないよ」

「そういうのを無茶って言うんだよ!?」

 アディスハハが手当てを行っている間に、バズゼッジは起き上がっていた。


「第二ラウンドだ」

「上等だ」

 バズゼッジは二本の長剣を太ももの傷から引きずり出す。

 一方のアクセルリスは自らの背後に七本の槍を生み出し、穂先を敵に向ける。

「…………」

「ハーッハァ!」

 今度はバズゼッジが先に動いた。

 急激に距離を詰める。

 アクセルリスも狙いを定めて一本ずつ槍を放つが、弾かれる。

 敵はあっという間に懐まで潜りこんでいた。

「キヒャハハァ!」

 二本同時に振り下ろす。アクセルリスは再び手甲で受け止めるが、二本の重みが彼女を苛む。

「ぐっ……!」

 競り合い。アクセルリスが耐えていると、目の前の地面から生えた太い根がバズゼッジを殴り飛ばす。

「グアアアッ!」

 吹き飛ぶバズゼッジ。今度は空中で体勢を取り直し、うまく着地する。

「ほらまた無茶する……」

「ごめん、助かったよ!」

「キハハハハハ! ハハハハハ! 面白え面白え!」

 バズゼッジは脇腹の傷から四本の剣を引きずり出し、構える。

 アクセルリスとアディスハハも襲撃に備える。

 睨み合い。



 今回動いたのは、バズゼッジでもアクセルリスでも、ましてアディスハハでもなかった。

 それは突然出現した。


「制止/バズゼッジ&邪悪魔女5i」

「あん?」

「何?」


 続くと思われたぶつかり合いは、介入者によって止められた。


「バズゼッジ/独立行動→不許可」

「おお、中将!」

「反省の色←なし」

「ああ、悪い悪い。ついいい匂いがしていたんでな」

「反省の色←なし/継続」


 現れたその者は不可解な言葉でバズゼッジと会話する。

 体は何らかの魔法によるものか、数センチ宙に浮いている。


「今度は誰なの……!?」

「我→ゲデヒトニス/記憶の魔女←称号/外道魔女←カテゴライズ」

「外道魔女ゲデヒトニス……!?」

「知ってるの、アクセルリス」

「うん。あいつが自分で言ってる通り、外道魔女。それも、結構ヤバい部類の」


 ゲデヒトニスは二人を見つめた。光のない目は感情が読み取れず、恐ろしい。

 声も同じように無感情で、まるで合成音声のようだ。


「謝罪/邪悪魔女4i&5i」

「謝罪……って?」

「バズゼッジ/侵入←不法←想定外←不注意←我」

「……駄目、何言ってるか全然わかんない……」

「私は……なんとなく分かる」

「アクセルリスすごいね……」

「我&バズゼッジ/退去→早急」

「……いや待って」

「我/疑問」

「バズゼッジがここにやって来たのはお前の不注意なんでしょ、ゲデヒトニス」

「肯定/管理不足→我」

「ならその対価として何か情報を頂こうか」


 何という事か。アクセルリスは外道魔女、それもゲデヒトニスに対して取引を持ち掛けたのだ。


「テメエ! 足元見てるんじゃねえぞ。またここでひと暴れしてやっても──」


 声を荒げるバズゼッジ。それを手で制してゲデヒトニスは言う。


「承認/取引」

「中将!? トチ狂ったか!?」

「黙れ/元はといえば→原因=バズゼッジ」

「う……そうだが……」


 バズゼッジを黙らせたゲデヒトニスはアクセルリスに向き直り、告げた。


「外道魔女→集める/同盟結成←外道魔女」

「……それ、本当なの?」

「真実←ゲデヒトニス嘘つかない」

「……わかった。情報提供感謝するよ」

「礼←及ばない/我&バズゼッジ、帰投」

「ハッ! 命拾いしたなぁてめえら。だが次は容赦しないからな。覚悟をしてお──」

「バズゼッジ/捨て台詞←長→割愛」


 二人の姿が一瞬にして消えた。

 残された二人の警戒心が解けるまで、少し時間がかかった。


 ◆


 数分後。


「いてて、しみる」

「ほら大人しくしてなさい」


 アクセルリスは小屋の中で手当を受けていた。


「たまたま外傷用の薬草が余ってたけど……運が良いのか悪いのか」


 呆れながらも傷を一つ一つ処置していく。


「いやぁだって、アディスハハを守らなくちゃいけないと思うとね、体が勝手に」

「……もう。アクセルリスったら本当に行動しちゃうタイプなんだね」

「だねー。昔からそうだったよ。だからさ……」

「ん?」

「アディスハハが私の側にいてくれたら安心できるよ」


 アクセルリスは笑う。眩しすぎる笑顔にアディスハハは目を背け、頬を染める。


「え、そ、それって、つまり?」

「これからも親友としてよろしくってこと!」

「ああ……そういう……」


 アディスハハの目から光が抜ける。


「あいたたた!? な、いきなり雑になってない?」

「別にー」

「……怒ってる?」

「怒ってない!」

「怒ってるじゃーん! ごめーん! っていうか何でー!?」

「ふーんだ!」


 アディスハハは胸に秘めた思いを語らない。


(恋人……にはまだ早いかな)



 今はまだ、その時ではない。


【トレジャーハンターA&A おわり】

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