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#? 終夜のはざまにて
夜もすがら。
死んだ妖精の森は静まり返る。動物も、植物も、魔女も、エルフも、皆が息を潜め眠りにつく闇黒の時。
「…………」
ただひとつだけ、命の鼓動が光っていた。
それはアイヤツバス工房はアイヤツバスの自室、そのバスルーム。
「…………う」
流れるシャワーを浴び、アイヤツバスは一人、佇んでいた。
項垂れる。黄金色の髪はだらりと解かれ、濡れて艶めいている。
「…………あつい」
少しだけ苦しそうな表情を浮かべ、胸を押さえる。
その身体、心臓の位置に、赤い幾何学的な紋章が刻まれていた。
彼女が感じている熱も、ここから成るもの。
「戦火…………ね」
彼女は忌み名を紡ぎ、少し笑った。
「もう少し……あと、少し」
言葉はどこか、禍々しい感情を孕む。
「…………今、どこに」
その瞳の色は、はたして。




